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姫探し  作者: 温泉ことね
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絹代、初めてのヒーリング



午後8時。

扉が開く音が聞こえるや否や、類さんと私は忠犬のように玄関へ走り寄った。


善哉さんが帰って来た!!


「善哉さん!!」


「…おかえりなさい!!」


いつもの鋭い眼差し。

だけど、珍しく深い疲労感が滲んでいる。

カッターシャツは砂埃で汚れ、ヨレている。


「…ただいま」


善哉さんは顔を横に向け、頭を掻いた。


「ご無事で!!…本当に、おつかれ様です」


類さんが心底ほっとした声を出す。


「あぁ。何とか、な」


安心したように、善哉さんの頬が緩んだ。


「こっちも大丈夫だったか?」


善哉さんは靴を脱ぎ、歩きながら聞いた。

私も類さんと共に後ろをついて歩く。


「はい!異常なしでした!!」


「そうか、良かった」


類さんと私も、それぞれ自分のデスクへ着いた。


「とりあえず、今日から絹代さんは自宅に帰っても大丈夫」


早ッ!!


一週間は覚悟していたのに。

…いや、家に帰れるのは嬉しいけど!


「ありがとうございます」


ペコリと礼をする。


「…もしかして、道間倒したんすか?」


類さんが恐る恐る聞くと、

善哉さんは右の眉を僅かに上げ、反応した。


「いや。取り逃がした」


そう言うと胸ポケットから巾着袋を取り出した。


「絹代さん。お願いがある」


「はい!」


「今から、ヒーリングをして欲しいんだ」


「はい!!??」


今!!?

無理無理。やった事ないし!!


「今から、この前とは違うヒーラーさんに電話を繋ぐ。ヒーリングのやり方を聞きながら、やってみて欲しいんだ」


「え…そんなの、私には…」


できないってば!やった事ないってば!!

私にはそんな能力ないんだってば!!


「俺の言う事、信じて。絹代さんは絶対にできる」


善哉さんの切れ長の目を見る。

そんなに真っ直ぐな瞳で言われると、本当にできるような気がしてくるからこわい。


どこか切羽詰まったような風にも見えて、何も言えなくなってしまった。


「類、鉄鼠出すぞ」


「わかったっす!!」


てっそ?

そう言う間に、善哉さんは持っている巾着袋を逆さに振った。


大きな鼠がドテン!と床に落ちた。


「きゃッ!!?」


マツコ・〇ラックスぐらいの大きさの身体は、傷だらけだった。


「今治してやるからな、待ってろ」


善哉さんは大鼠に声を掛け、そっと頭を撫ぜた。


「中村さんに電話繋がりました!!」


いつの間に!

類さんが仕事用スマホを私に差し出す。


「スピーカーにしてるッス。きぬちゃん、頑張って!大丈夫だから」


「…えぇ~」


無理だって言ってんのに…

よりによってこんなポンコツな私が…できるわけない。

何を根拠に…


チラリと、横目で床に伏している大鼠を見た。


大鼠は赤い目を細く開いたり、閉じたりしながら苦しそうに荒々しく息をしている。

近くで見ると切り傷は鋭くて肉が見える。

呼吸をする度、傷口から血が滲み出て…


見ているだけで心がギュッと痛む。


痛いね。

苦しいよね。


ええい!!

もう、なんか知らんけど、やってみたらぁ!!

知らんで、ほんまに!!


「…こんばんは。初めまして、若葉絹代と申します」


『初めまして!中村美知子です。善哉さんから聞いてます。今からヒーリングのやり方を伝えるから、その通りにやってみてください』


「わかりました。よろしくお願いします。」


できるかどうか分からない。

でも、今ここで、言われた通りにやってみるしかない。


『まずは、両手を傷口にかざしてください。』


「はい」


『それから、絹代さんのオーラを右手から傷口に注ぎ込むイメージをします』


オーラ…


谷崎さんがヒーリングしてくれた時、緑色のポワンとしたものが見えた。

あんな感じの光を…。


目を閉じて、イメージしてみた。


どんどこ、私の身体から、大鼠さんにオーラを注ぐ。

スーパーサ〇ヤ人の、"シュインシュイン"をイメージ。



『注ぎ込んだオーラが傷口から体中を巡るイメージをします』


「はい」


巡る…イメージは浮かぶ。

ぐるぐると、大鼠さんの体の中を緑色の光が回る。


『注いだオーラが体中を巡る中で、黒い石のようなつかえがあるのをイメージできますか?それを、左手で吸い込み、すぐに左手から出すイメージをしてください』


「はい」


なんとなく…イメージはできる。

循環を邪魔して通せんぼしている石。


掃除機みたいに、それを吸い込む。

左手に吸着したら、手を床に叩きつけるように動かして、手から出したり、潰してみたりした。


『右手からは、その間も緑色のオーラを注ぎ込み、体中を巡らせ続けてください』


「はい…」


イメージするだけ。

妄想は小さい頃からの得意分野だからできるけど…


本当にできてるのかな?

私、頭おかしいだけちゃうんかな?

大丈夫?


急に色々と心配になってきて、頬が熱くなってきた。


「…すごいよ、きぬちゃん」


隣に立っている類さんが声を漏らした。

目をうっすら開けると、傷口からの出血が少しだけマシになっているのが見えた。


「うそ」


信じられない。


「…だから言っただろ」


『えっ、本当に初めてなんですよね?』


電話口の向こうから、中村さんが確認する。


「…はい、全く、やったことないです」


『さっき言った事、全部イメージできましたか?』


「はい」


妄想は完璧にできた。

幼い頃から、妄想だけは得意だと胸を張って言える。


寝る前に習慣的にしていた妄想の中では、勇者パーティーの主要メンバーとして

何度もベ〇マズンやギ〇デ〇ンを使って勇者パーティーを救い、世界も救ってきた。


まさか役に立つなんて…やばくね?

ていうかやっぱ私頭おかしいわ。


『じゃあ、後はこのまま傷口が治るまでイメージし続けてください』


「分かりました!」


『では、何かありましたらまた電話してください。』


「はい、ありがとうございました!」


スマホに向かって、癖で頭を下げる。


「中村さん、ありがとう。」


類さんが礼を伝えた。


「ありがとう。また、都合の合う日に事務所にも来てもらって、直接のご指南お願いします」


善哉さんも中村さんにお礼を伝えた。


『はい、一度絹代さんにもお会いしたいです』






それから10分程して、大鼠さんの全身にあった傷はある程度塞がった。

大鼠さんは穏やかなリズムで呼吸し、胸からお腹の辺りがゆっくり上下している。


「…絹代さん、ありがとう」


「いえ、良かったです…」


善哉さんはしゃがみ、大鼠の頭をなでた。


「もう大丈夫だな。鉄鼠、ありがとうな」


横顔の口角は上がっていて、スッとした鼻筋と優しい眼差しに少し見惚れた。


サッとこっちを見た善哉さんと目が合う。


「や、まさか自分にできるなんて思わなかった…です」


油断した。

一瞬だけどガン見してたのバレたか?


「できるよ」


善哉さんの自然な笑顔。

爽やかすぎる。


キラキラした細かい星が顔の周りを飛んでいるのが見えた。

王子なの?


善哉さんは立ち上がり、巾着袋を大鼠さんに向かって開いた。

大鼠はランプの精のように巾着袋に吸い込まれて居なくなった。


「ふぅ…」


「善哉さんも、きぬちゃんにヒーリングしてもらったらいいんじゃないっすか!?」


類さんが無邪気に提案する。


「…いや、大丈夫」


…ですよね。


「何でですか!?明日も仕事で、除霊依頼入ってますよね!?」


善哉さんは澄まし顔になり、こちらを見下ろした。


「…絹代さん、もう遅いから早く帰って。」


「あ、そっか。早く帰りたいよね、ごめん!!」


もう9時前になっていた。


「いえ…」


目の前で起こった出来事なのに。

半信半疑で、まだどうしても完璧に信じられない。


私に、そんな能力があるなんて…


「…絹代さん、また今後ヒーリングをお願いするかも知れない」


「は…い」


私の自信のなさを見破ったみたいに、善哉さんは声をかけた。


「本当に、絹代さんが来てくれて良かった。ありがとう。」



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