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姫探し  作者: 温泉ことね
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道間屋敷へ



道間の屋敷は事務所から南の方角にある。

精巧で緻密な術を使うから、毎回辿り着くのも一苦労だ。


まぁ、俺なら1時間もあれば辿り着けるけど。

黒紙を咥え、唾で湿らす。


この瞬間、俺の気配は完全にこの世から消え去る。


ただ一人を除いて、誰も今俺がここに存在している事を知らない。

判らない。



細い細い蜘蛛の糸の様に、僅かに残る霊気を辿って歩く。


俺の気配に勘付いているであろう、男の元へ。






霊気を辿り歩いて1時間程。

竹藪が現れた。

辺りには浅く霧が漂っている。


ここが、道間屋敷の表玄関へ通じる道。


空気に淀みが生まれない様、立ち止まらずに進む。


どうせ道間にはバレていると思うが、万全を期す。


鬱蒼とした竹藪を抜けると、霧の中に青々とした竹垣が見えてきた。

竹垣の前には、道間屋敷の看守が立っていた。


天狗の姿をした看守は、俺の方へ顔を向ける。

目は合わない。


『ほほぅ、道間様の仰る通りじゃ。午の刻に善哉拓海がやって来ると』


道間の術で俺の気配が分かる様だ。

何だ、道間以外にも俺の気配を知られていたのか。


足は止めない。

空気が淀むから。


火遁の札を袖から出す。


看守は翼をはためかせた。


『儂は道間様より、善哉拓海を案内するよう仰せつかっております』


胸を張り、恭しく礼をして門を開けた。


看守に札を貼るが、燃える事もなく右肩にくっついている。

どうやら、危害を加える気は皆無の様だ。


『ふっ、よりによって火遁の札を貼りなさるとは…皮肉が過ぎますな』


看守は先導した。


しばらく歩くと、日本家屋が見えて来た。


霧は益々濃くなっている。


"来たか。"


中空に道間の声が響く。


『さぁ、中へ』


天狗は日本家屋の敷地外で止まると、片手を中の方へ差し出した。


敷地に足を踏み入れる。


足から炎が舞う。

すぐに水遁の札を足元へ投げる。


なめるように足を上って来る炎を、水が追いかける。

水が炎を覆い尽くし鎮静化する。

すぐに炎は収まった。


看守はそれを見届けて空に舞い上がって行った。


"くくっ、ちょっとした戯れだよ"


道間のキザな声が響く。

うざったい。


大きな寺のように広がる縁側。

縁側の向こうの畳座敷に、道間菊雄は居た。


「ようこそ」


縁側に上がり、表鬼と奥鬼を召喚する。


「まぁ焦るなよ。話をしようじゃないか」


構わず進む。表鬼が道間に右手刀を見舞う。

床を突き破り、道間と表鬼は埃煙の中に見えなくなる。


「危ないなぁ~。善哉君と違って、うち貧乏なんだからやめてよね」


煙が晴れると、表鬼の首に糸が食い込んでいるのが見えた。

天井に居る蜘蛛の式神が更に糸を吐き出し、表鬼の首に巻き付ける。


道間も式神の青鬼を召喚し、肩に乗っている。

片膝を立てて頬杖をつき、俺を見下げる。


蝶の式神を召喚し、表鬼に絡み付く蜘蛛の糸を焼かせる。

糸を伝って蜘蛛もろとも天井が燃え出す。


「はぁ~、また新しいお家探さなきゃ…」


道間は眉一つ動かさず、天井を見て溜息をついた。


「…道間。お前、結構卑劣な手を使うんだな。」


道間の顔色が変わる。


「霊力も何もない女を人質にしようとするなんて、クソ外道野郎だな」


「…はっ、何の事?」


長い黒髪の隙間から、道間の真っ黒な目の瞳孔が開く。

閃光が走り、爆発が起こる。


ポケットに入れていた勾玉が光り、目の前に透明な盾を作る。

爆発の衝撃を受けずに済んだが、辺り一面煙に覆われた。


強い焦げ臭いニオイが立ち込めてきた。


目を凝らすと、前方で表鬼と青鬼が戦闘しているのが辛うじて見えた。


青鬼の肩に道間は居ない。


「もう~!!俺の屋敷返してよ!!」


すぐ後ろで声がする。

振り向くと、眼前に道間の顔が在った。


道間のすぐ後ろでは、奥鬼が道間の式神と交戦しているのが見えた。


小刀で腹を狙ってきた。

緋刀麻呂を鞘から出し、ギリギリ鞘と鍔の間で受ける事が出来た。


飛び離れ、緋刀麻呂を抜刀した。


「…いいよねぇ~、君みたいに剣術が優れてると」


口を歪めた笑い顔。

吐き気がする。


「嫌味も言えるんだな」


余裕めいた笑いにヒビが入る。

すぐに気を取り直した様子で、いつもの気色悪い笑みに戻る。


「君みたいなただの脳筋除霊師が、僕みたいな優秀な除霊師に相まみえるなんて…」


道間は呆れ顔でやれやれと手を振る。


「俺にはこれしかねぇんだよ」


緋刀麻呂を構える。


「穢らわしい事この上ないんだよ!!!」


道間の瞳孔が開き、また目の前で爆発が起こる。




まき上がる煙の中から小刀が何本も飛んで来た。


緋刀麻呂でかわしながら、感覚を研ぎ澄ます。

何もかもがスローモーションに見える。


右上から気配がする。

足で蹴り上げる。


道間の式神。手足を蜘蛛の糸で絡め取られる。


俺の表鬼、奥鬼と互角の式神を出し、何種類も術を使いながらもまだ式神を出せる。

やはり道間の術は厄介だ。


背後からまた小刀が飛んで来る。


身体を屈め逆さに振り、胸ポケットの中にある巾着袋の紐を咥え、放り投げた。


中から大きな鼠の妖怪が現れる。


「お前…!!鉄鼠か!!」


道間の狼狽した声が聞こえた。


「この…卑怯者!!!」


手足に絡みついた糸を、式神の蝶が焼いてくれた。


煙が晴れ、鉄鼠の両前足に捕らえられた道間の姿が見えてきた。


「お前には言われたくねぇな」


金髪男の腕を出し、道間の頭に投げ飛ばす。

道間は腕を見て当惑した。


「あいつ…腕取られたなんて聞いてないぞ。とんでもないしくじりしやがって」


目を見開き、口の端から泡を出し始めた。


「真っ二つにしてやろうかと思ったけど、やめた」


絹代さんの目の前でやるわけにはいかなかった。


「あの男…後で八つ裂きにしてやる!!」


唾を飛ばして叫ぶ。


「知るか。好きにしろよ」


鉄鼠が我慢できないという風に、道間の頭に前歯を近付けて齧る。


「痛ッ!!おい、やめさせろよ!!」


鉄鼠が遠慮深げに赤い目を俺に向ける。


「…少しだけ、な?」


"キッ!!"


鉄鼠は短い歓声をあげて思い切り口を開いた。


「やめろ!!」


鉄鼠が思い切り頭に噛り付いた。

道間の悲愴な叫び声が響き渡る。

鉄鼠が口を離すと、道間は顔を上げて言い放った。


「本部に言いつけるぞ、このドブクソ除霊師が!」


頭からは血が流れ、長い髪と共に顔に垂れている。


「言えよ」


道間は三白眼で俺を睨み付けた。


「言ったら、俺も今回の件を本部に報告する」


元々本部を離反して出て行った道間だが、さすがに今回の件が明るみになったら何かしらの制裁がある筈だ。

自由人ぶっているが、エリート意識の強い道間が一番避けたい事だろう。


「それよりお前、二度と絹代さんを標的にしないと誓え」


式神の蝶が、俺の懐から巻物の誓約書を取り出す。

巻物の文字が爛々と光って躍り出す。


「…やだね」


「鉄鼠。食べていいぞ」


「やめろおおおおお!!!!」


泣き叫ぶ道間。


「じゃあ誓約しろ。二度と絹代さんに危害を加えないと」


背後で轟音がした。

振り返ると、青鬼が表鬼に馬乗りになっていた。


「ハッ!!術はカスだな、脳筋除霊師!!」


その瞬間、鉄鼠が道間の式神に切り刻まれた。


辺りは俄かに濃霧に包まれる。

同時に小刀が四方八方から投げ込まれてくる。


「クソッ!!」


小刀を避けながら叩き落している間に、道間の気配は遠く中空へと行ってしまった。


ここまで来て逃がすなんて…!!


「おい!!誓約しないと今回の事、報告するからな!!」


蝶の式神たちが追いかけるも、次々と攻撃を受け、紙に戻って消えて行くのが見えた。


「クク、心配いらないさ。俺も本部にはこれ以上目をつけられたくはないからね」


その声が響くや否や、辺りから濃霧は消え去った。


屋敷も消え去り、ただ荒れ果てた竹藪の中に俺は取り残されていた。



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