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姫探し  作者: 温泉ことね
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巾着袋


善哉さんに、朝仕度の姿を見られるわけにはいかない。

ヨレヨレのTシャツにスッピンのボサボサ頭で、歯磨きしている所など…絶対に!!!


いつも9時頃に出勤されてるみたいだから、その時間には類さんとデスクでスタンバっていた。


類さんは、昨夜の出来事はまるでなかったかのように普通に接してくれる。

ありがたい。


清彦は昨夜消えてから、まだ姿を現さない。

昨日の一連の出来事で、余程体力を使ってしまったんだろう。


「おはよう」


善哉さん出勤。


「おはようございます」


「おはようございま~す!!」


「あれ、絹代さん」


善哉さんは若干驚いた表情をして私を見た。

笹の葉のような形の目が、少し大き目に開かれている。


「まだ出勤時間じゃないから、奥の部屋で休んでて」


「ありがとうございます。でも、今日はここで…」


話を聞いていたい。


「まぁ、絹代さんの好きにしてくれたら良いけど…。」


善哉さんはすぐに私の意図を感じ取ったみたいだ。

奥の部屋で私を休ませるための言葉を紡がず、ほんのちょっとだけ微笑んだ。


「類、昨晩はいきなり頼んだのにありがとうな」


「いえいえ、お安い御用っす!!」


善哉さんは椅子に座りながら類さんの顔を見た。

まだ口角は少しだけ上がったまま、優しい目をしている。


「昨夜は特に何もなかったか?」


パソコンを開き、電源をつけながら類さんに聞いた。


「はい。特に何も感じなかったです。清彦も、番犬してくれてました。アイツ、昨日姿を消してからまだ出てきてないっすけど…」


「そうか。」


善哉さんはふーっと長く息をつき、


「昨日は寝れた?」


と私を見て聞いた。


「はい。お陰様で、よく寝れました」


「そっか。」


善哉さんはそう言って、次に類さんを見た。


「類も、寝れた?」


「はい!それはもうぐっすりと」


そう言って合掌した手を頬につけて目をつむった。

おやすみのポーズ。

かわい。睫毛長。


「そうか。悪いけど、今日も頼んでもいいか?」


片腕をデスクにつき、その手にミニサイズのリングノートを持っている。


「もちろんっす!!」


類さんは私を見て、


「俺でいい?」


と少し小声で聞いた。


「え!?もちろんです!!」


反射的に大きな声になる。

むしろ女子同士があり難い。


「ありがとう。じゃあ、今夜も絹代さんの護衛を頼む」


「はい!!」


そこで、清彦が私の前のデスクに登場した。


「おはよう!!絹代殿!!」


「…おはよう」


昨日から助けてもらっているため一応返事はしてみた。

気の抜けた私の「おはよう」に、清彦は目を輝かせた。


「昨日は見張りしてくれたんだってな。ご苦労さん」


善哉さんが珍しく清彦に労いの言葉を掛けた。


「姫のためなら、我は何でもすると言っておる」


したり顏でこちらを見る。やっぱうざいかも。


「今日道間の屋敷まで行ってくる」


「ハぁ!!!?」


類さんは机を両手で叩いて立ち上がった。


「俺も行きます!!」


パソコンをカタカタする手を止め、善哉さんは類さんを睨むように目を上げた。


「お前は残って絹代さんを警護しろ。」


「う…危険すぎます」


「あのう…」


「なに?」


荒々しく息を吐きながら、今度は私の方を見た。


「私も一緒に行くのは、まずいんでしょうか…?」


「…まずいに決まってんだろ」


善哉さんは眉間にしわを寄せ、イラっとした表情をした。


「…きぬちゃんって、結構大胆な事言うよね」


類さんがボソッと呟いた。


「でも、1人で危ないなら…類さんと私と、一緒に」


「…絹代さん、俺の事ナメてる?」


善哉さんはイライラしながら鋭い目をした。


「いいい、いえッッ!!?とんでもございません!!!これっぽっちもナメてません!!」


怖い。アサシンの目や。


「とにかく、今回は俺1人で行ってくる。大丈夫だから」


静寂。張り詰めた空気が事務所内を息苦しくする。

しばらくパソコンをカタカタして、善哉さんは立ち上がった。


「絹代さん、資料室入っても大丈夫かな?」


「ヒぁい!!大丈夫でしゅ!!」


「ブッ!」


類さんが吹き出した。


「…」


善哉さんは哀れな目で私を見、資料室へと入って行った。


「でしゅ!!」


類さんがいたずら小僧のような笑みでこちらを見る。

…何だろう、この気持ち。帰りたい。


「絹代殿を、笑うな~!!!」


清彦が顔を真っ赤にして怒っている。

かばい方小学生やん…。

余計情けなくなるから、やめて。


すぐに資料室の扉が開き、善哉さんが出てきた。

何だかおばあちゃんが持ってそうな色褪せた巾着袋を片手に持っている。

そんなの、あの部屋のどこにあったんだ?


「そ、それは…」


類さんがゴクリと唾を飲み込む。


「…行ってくる。事務所と絹代さんを頼んだ」


「善哉さん…ご武運を!!!」


類さんが敬礼する。

まだここで勤務して一か月しか経っていないけど、こんな送り出し方初めて見る。

ほんまに大丈夫なんか?


「善哉さん、無事に帰ってきてください」


思わず立ち上がって言った。

もし善哉さんに何かあれば…私はどうすればいいの?


「ありがとう。大丈夫だから」


善哉さんの表情が、ふっと一瞬緩んだ。


それから、足早に事務所から出て行った。



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