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姫探し  作者: 温泉ことね
38/42

夜の女子会


今夜は、此代さんが護衛してくれる事になった。


此代さんは一旦自宅に帰り、着替え等準備してから事務所に戻ってきてくれた。

その頃には、善哉さんは退勤していた。





「きぬちゃん、今日一緒に寝ようよ」


事務所のシャワー室から濡れ髪のパジャマ姿で出てきた此代さんは、開け放した扉から顔を覗かせた。


「え!?」


「俺、もう一つのソファで寝るからさ」


薄黄色のチェック柄パジャマの胸元には膨らみがある。

正直、善哉さんが護衛じゃなくてほっとした…。

不安な夜を過ごすのが、女子同士!!しかも、何かよく分からんけど強い女子!!圧倒的安心感!!


ドライヤーをかける音が聞こえてきた。

3分程経ち、音がやむ。

此代さんがシャンプーの香りと共に部屋に戻ってきた。


「お酒とおつまみ買ってきた!女子会しよ~」


チータラやポテチが入っているスーパーのレジ袋を両手で抱え、鈴のように大きな目でウインク。

可愛すぎか。


「我も!!我も姫と一緒に寝る!!」


清彦が此代さんの肩を押しのけるように顔を出した。

目をギンギンに開き、鼻の穴をフンフン膨らませて言う。

怖すぎか。


「女子会だっつってんだろ!!」


此代さんが肩を突き返し、清彦を睨みつける。


「ぴえん…」


シャワー中は"給湯室に入るな"と言っておいたから、安心して身体を洗えた。

もちろん、私が寝泊まりする部屋にも"入るな"と言ってある。

清彦には"私に触るな"とも言っておいたから、変な事はできない。


清彦の首、手首足首につけられた麻紐のお陰だ。

善哉さんに感謝!!


「きぬちゃんの寝巻姿、かわい~♪」


どこが?


ただの水色ヨレヨレ半袖Tシャツ…

ズボンは真っ黒の無地ジャージ。

可愛い要素はいずこに?


「いえ、そんな…此代さんこそ、可愛いパジャマ姿です」


「ありがとう。ガチパジャマだけど、これ着るとよく寝れるんだ」


そう言うと、事務室から帆布の手提げカバンを持って歩いてきた。

清彦が此代さんの後ろから満面の笑みでピッタリと付いてくる。

ホラーゲーム?


扉の前で見えない壁に当たり、泣きながら透明な壁をドンドンと拳で叩いた。

その姿を見てホッと安心する。


此代さんは一切構わず扉を勢いよく閉め、鍵も閉めた。


「じゃ、清彦番犬頼んだよ~」


「イェッサー!!!」


扉の向こうから野太い声が耳に届く。

過酷な訓練を受けたレンジャー?


「はい。きぬちゃんの好きな日本酒もあるよ」


"八海山"。居酒屋によく置いてある日本酒だ。

その他にも、お水、缶チューハイやノンアルコールの缶ビールを何本かカバンから出してくれた。


「色々と、ありがとうございます」


自分の鞄から財布を取り出して、お金を出そうとした。


「も~いらないよ!しまって、しまって!!」


紙コップを持った手をフリフリと左右に振る。


「いや、でも…」


「こうなったのは俺らが…きぬちゃん、遠慮しないで。俺らのしたいようにさせて?」


黒目がちな大きな瞳で、上目遣いで見つめられる。

ツンと上がった可愛い鼻先と、色白の頬がほんのり桜色になっている。

あの…私が男だったら秒で墜ちてます。ありがとうございます。


「…ありがとうございます」


「それよりさ、先に献杯しよ?」


「あ、ハイ」


私は日本酒で、此代さんはノンアルコールの缶ビールで献杯した。


「きぬちゃんはさぁ~…」


思わず息を呑む。


なぜなら、此代さんはアルコールが入ると秒で酔っ払い、下品な下ネタモンスターおじさんに豹変してしまうからだ。

ノンアルで酔っ払う人を見たことがあったから警戒してしまう。


「俺の事、ずっと苗字で呼ぶよね?」


ホッ…。よかった。ノンアル大丈夫なんだな。


「え…私も、名前で呼んでもいいんですか?」


「むしろ、呼んで!!俺ばっかりきぬちゃんって呼んで、なんか寂しいし!」


では、遠慮なく…!


「るるる、類…ちゃん…」


キモオタ乙。

恐る恐る類ちゃんを見ると、真顔。


「え!?ごっ、ごめんなさい!!」


やっぱあかん?ドン引きされたか?


「え!?いや…"ちゃん"かぁ~、う~ん…」


あ、そっか。


「類"さん"の方が良いですよね?」


「…そうだね。俺と2人きりの時は、"ちゃん"でも良いけど」


ポテチの袋を開けて、微笑む。


「善哉さんに…何で"ちゃん"なの?って突っ込まれますもんね」


「そうだよ、善哉さんは目ざといから」


2人でポテチをつまむ。壁掛け時計を見ると、9時だった。


「あの…何で私なんかが狙われたんでしょうか?」


「あぁ、それね」


類さんは渋い顔になり、話すのを少しためらった。

ポテチの袋に手を突っ込み、バリボリ音を立てて食べ、ビールで流し込んだ。


「俺らってさ…結構恨みを買ってるんだよね」


「あの金髪男、同業者って言ってましたよね?」


「うん。同業者からも、霊からも…。俺らがいなくなったら喜ぶ奴らが一杯居るんだ」


「そんな…」


「つまり、きぬちゃんは俺らの邪魔をしたい奴に狙われたって事」


類さんは缶を持ちじっと見た後、カッと飲み干した。


「巻き込んで、本当にごめん」


頭を下げて、下を向く。


「え!?そんな、元はといえば私が…」


清彦と出会っていなかったら。

そして、あの時蛸公園に行かなかったら。

清彦の前に出て善哉さんの刀を受けなかったら…。


「善哉さんも、きっといつもそう思ってる。」


「…何となく、そんな気はしますが…。」


でないと、こんな私を好待遇で雇ってくれるわけがない。

それに、細かに気を遣ってくれて、優しく接してくれる。


「あの金髪男が道間の差し金だと分かったけど、同時にきぬちゃんの存在をあんな男に知られてしまった事が問題なんだ。もしかしたら、他にも…これから、どうやったら道間の差し金からきぬちゃんを守れるか…」


類さんはチータラの袋を開けて、真剣な顔で中空を見つめた。


「…ごめんなさい、私が、自分で自分の身を守れずに。」


守ってもらってばかり。


「きぬちゃんは1mmも悪くないからね!?謝らなくていいんだから!!」


類さんは焦ってチータラの袋を手から落とした。


「…善哉さんは、きぬちゃんにどう関わって行けばいいのか迷ってた。きぬちゃんを巻き込んでしまうんじゃないかって。」


「そうなんですか…」


「うん。でも、それ以上に…緋刀麻呂がどんな影響をきぬちゃんの身体に及ぼすのか。経過を見て、何かあったら…必ず俺らが対処しないとって、思ったんだ。」


何という責任感。


「今の所なんともないですけどね?ほら、霊体もなんともないでしょう?」


類さんがチータラ1本を手に、顔をさっと後ろに引いて目を細める。


「…今はね。でも、緋刀麻呂で斬られて生きてるのは、きぬちゃんだけじゃないかな?」


「え」


「善哉さんが緋刀麻呂で除霊する時、マジで最強だから。斬られて除霊できなかった霊は居ないよ。…だから、善哉さんはきぬちゃんを斬ってしまった事、めっちゃ気にしてるし。それくらい、ヤバイ事なんだよ?」


類さんは眉毛をハの字にしている。


「ま、まぁ大丈夫でしょう!知らんけど」


水のペットボトルを開け、ゴクゴク飲んだ。

缶チューハイも開けて、チータラと一緒に飲む。


「トイレ行ってきます!」


事務所を通らないとトイレには行けない。

清彦が出てくるかな?と思ったけど、お休み中みたいで出てこなかった。


部屋に戻ると、類さんが2本目の缶を開けていた。


「きぬちゃんは彼氏いないの?」


唐突。


「いないです」


「そうなんだ…きぬちゃん、可愛いのに♪」


両目をつぶって、口角アゲアゲ笑顔の類さん。


「類さん…あなたの方が圧倒的可愛さです。」


類さんが驚いてビールの缶を口から離す。

しばらくむせた後、大きな目をさらに見開いてこちらを見た。


「そんな事、言われた事ないよ!!」


「え!?こんなに可愛らしいのに!?」


類さんは更に頬を真っ赤にした。


「…俺、小さい頃からずっとこんな感じだから」


金髪マッシュで、もみあげは短く刈ってある。

ボーイッシュ類さん。

それにしても可愛ンだけど?


「善哉さんと出会ってから、20年以上男のふりしてるって言われてましたね。」


「うん。俺が善哉さんに初めて出会ったのは、小学校に上がる前だった。」


想像すると可愛すぎる。ミニ類さん。


「うち、じいちゃんが骨董商しててさ。両親と兄は年中海外に行ってて、骨董品の買い出しをしてるんだ。そんなんで、俺はいつもじいちゃんと留守番。うちは除霊グッズとかを扱ってて、善哉さんはお客さんとしてやって来た。」


「へぇ…」


そんな不思議なお店があるんだ。

というか類さん、おじいちゃん子だったんだ。


「当時善哉さんもご両親と来て、店先に出てきた俺と遊んでくれたんだ。」


「…へぇ~」


不愛想な顔のショタ善哉さんと、とっても可愛いミニ類さんがモワモワと想像された。

微笑ましすぎる。


「うん…。元々、ボーイッシュな髪形と服装だったから、その後に善哉さんと再会しても、俺が女だったってバレなかったんだよね」


「へぇ」


そこで、類さんの手元を見てフリーズした。


「類さん…それ…」


「え?」


類さんも私の視線の先である手元の缶を見る。


「あ…アルコール5%…」


類さんの顔がサーッと青白くなる。


「もう、半分飲んじゃった…」


「あ、はは…」


引き攣った笑顔を向けたその時。


ゴンッッ!!!


「るる、類さん!!!?」


頭をテーブルに突っ伏してしまった。


恐る恐る、肩を触る。

類さんは目を閉じて、寝息をたてていた。


どうやら、眠ってしまったみたいだ。




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