男の右腕
「…ハッ!!!?」
3人で牛丼を食べた後、善哉さんは清彦を召喚した。
「姫!!?無事で…!!」
清彦は私の肩をガッシリ両手で掴み、目の前で滝のような涙を流した。
それ程危機的状況だったのかと、此代さんや清彦の反応で改めて実感する。
あのクセ強男と対峙している間、生まれて初めて命の危険を感じた。
思ったように身体が動かなくなる程、一瞬で恐怖に包まれた。
「清彦、助けてくれてありがとうね」
いつもなら「触るなッ!!!」と怒号を放つ所だが、助けに来てくれて本当に嬉しかった。
「うっ、う…!!!」
私の肩を持ったまま嗚咽し、その場に膝から崩れ落ちた。
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「絹代さん。」
「はい」
牛丼を食べ始めた時、善哉さんが話かけてきた。
「さっきの男と戦闘の最中、清彦は秘孔術を使わなかった」
「…そうですよね」
清彦の言っている事は、嘘じゃなかった。
「術を使える間合いまで男との距離を詰めていたし、術を仕掛ける隙もあった。だけど、あいつはずっと刀で対抗していた」
確かに、あの男と至近距離でもみ合っていたけど、清彦は秘孔術を使う素振りを見せていなかった。
「ほっとした?」
此代さんが微笑みながら小首を傾げる。
「…はい。」
「絹代さんが家で準備している間に、清彦の魂を男の手の中から戻しておいた。もう少ししたら、呼んでみよう。」
男が手をかざしたら、清彦が倒れた場面が回想された。
あの手の文様、何か怪しいと思った。
魂を吸い取れる的な能力か?
…ん?
私が準備している間にとは?
「俺達が食べ終わる頃には、姿を見せれるくらい回復しているはずだ。」
「その男の腕、どうしたんすか?」
此代さんがお口をモグモグさせながら聞いた。
「持って帰ってきた」
「ブーッッッ!!!!」
口に含んだお茶を盛大に噴出した。
「すみません…!!」
給湯室から布巾を持ってきて急いでデスクの上を拭いた。
パソコンにも派手にかかってしまった。
「右手でしか術をかけられないみたいだったから、腕を消滅させれば大したことできねぇだろ」
「そうっすか…。」
「それに、調べたい事もあるからな」
善哉さんはそう言うと牛丼をかき込んだ。
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そんなこんなで、善哉さんは隣の部屋で男の生腕を出現させた。
持ち運びの際には、藍紙を貼って隠していた様だ。
此代さんと清彦も、腕の見聞のためにあちらの部屋に居る。
私はデスクの椅子に座り、Nyainのチェックをする。
牛丼の残り香が漂う事務所内で、パーテーション1つ隔てて…
男の腕を想像すると、何かこう、胃からこみ上げてくるもんがある。
それでも奥の部屋に引っ込まないのは、さっきの男が何なのか、なぜ私を狙ったのか、知っておきたいからだ。
首を振り、Nyainの返信に集中しようとした。
「清彦、この腕のニオイとこの紙片のニオイは同じか?」
げっ。腕のニオイ…?
「善哉さん、その紙片は…」
「ウェ…血のニオイがすごい!!…うぇっプ!!?」
「ぎゃッ!!?おい!!」
此代さんの悲鳴が聞こえる。
え?大丈夫なん?
「ォぇッぷ、オェッ、ぷ、おえ…ッッ!!」
ちょちょちょ、ヤバくね!?
うちで飼ってる猫が吐く時と全く同じ音がするんだが!?
急いでゴミ箱のナイロン袋をひっつかみ、隣の部屋へ突入した。
「清彦!これ!!」
応接間のテーブルの上に、さっきの男の腕がゴロンと転がっていた。
「「オエェェーーーー!!!」」
清彦と同時に、私は持っていたナイロン袋に吐いた。




