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姫探し  作者: 温泉ことね
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久しぶりのじいや


善哉事務所で働き出して、はや一か月が経とうとしていた。

此代さんからは、ひと通り一か月の事務作業の流れを教えてもらった。


今日は、此代さんがお休みの日だ。


事務所へは、一日に数回依頼の電話やメールが来る。

ここ一か月で来客は30名程だった。

私は来客があるとお茶出しだけして、後は隣の事務所へ引っ込む。

依頼主の対面対応は、善哉さんか此代さんが受け持った。


1件あたりの収入は目玉が飛び出そうな程高額で、最初はびっくりした。

でも、K市内中心地の高価なビルの家賃に、お札やお香等の除霊グッズも高額で、支出も大きかった。


それを考えると、命を張って除霊して、純粋な収入はこれだけ…?

他の除霊屋の依頼料はもっともっと高額なのに。良心的だ。




善哉さんは、奥の部屋で調べものをしている。

清彦は私の斜め右のデスクに座って、じっとこちらを見ている。


「結界からは出してやろう」となり、空いているデスクに座ってもらっているが…

はっきり言って気持ちが悪い。真顔でこっち見んな。


目が合うと、清彦の口角がゆっくり吊り上がった。


「姫…今日も身も心も、我は姫のものですよ☆」


「オエッッッ」


喉が痛くて舐めていた飴ちゃんが奥に入った。


「どうしたのじゃ、姫!!」


「オエエエエエ!!カッ!!!」


飴ちゃんが手のひらに落ちた。

アカン。やっぱり保留やめて除霊してもらおうかな。

涙目でそう考えていると、目の前にシワシワの顔が現れた。




「姫様ああああああ!!!」


アカン。忘れてた。

久々の感覚に、耳の鼓膜がブルブルと震える。


「ッせぇ!!!」


奥の部屋から、善哉さんが勢い良く扉を開いて登場した。


「ジジイ、お前体力ないんだから静かに喋れよ」


腕を組んで壁にもたれている善哉さんは、イライラを隠さない。


「あんだッテェ!!!!?」


耳鳴りが止まない。超音波兵器のようなじいやのあんだッテェ!!!!?

頭がクラクラする。


「…おい清彦。ジジイを戦闘員として訓練して悪霊と戦わせるぞ」


それ、〇にさらせと言ってるのと同じでは…?

恐る恐る善哉さんを見ると、酷薄な表情で清彦を見下ろしていた。

じいやに目をやると、片耳に手を当ててしかめっ面をしている。

野〇村ま〇とが霞の向こうに思い浮かんだ。


「あんだッ…」


再び言いかけた口を、清彦が急いで塞ぐ。


「じいや!!すまん!!」


そう言うと清彦はじいやの眉間に人差し指を突き立てた。


「なッ…」


じいやは寄り目で驚きの表情を浮かべたまま、スーッと消えていった。


「えっ…じいや、どうなったの?」


突然の出来事に何もかもが追い付かない。

じいやが完全にひでぶっ!!された…!?


「何だ今のは?」


善哉さんも気味悪がっている。


「…じいやには申し訳ないが、また一か月眠ってもらう事にしました」


じいやが出てこないのはお前のひでぶのせいか。


「お前…ジジイは一か月に一回しか体力的に出てこれないって言ってたよな?」


嘘ついとったんかい!

清彦を見ると、こめかみから汗を流している。


「だって…じいや段々耳が遠くなって声がでかくなるし…姫と2人きりになりたいし」


寒気がした。


「じいやが次現れた時には、もう我に秘孔を突かれた記憶はない。じいやは一か月経つと出現しては眠らされてを繰り返しているのじゃ…」


幼い頃から付き従ってくれている家来にこの仕打ち。

血も涙もないループものを強いるとは…お前の血は何色だ?


「お前…やっぱ悪霊だな」


善哉さんがドン引きしている。


「待てッ!!じいやはもうあの音量でしか話せないのじゃ!我もじいやも、おぬしの許可がないと事務所から出られぬ故、しごとのメイワクになるじゃろ!?」


善哉さんの方を見ると、顔を右手で覆っていた。


「くそ…こんなに危険な霊だったとは」


「は!?待て待て!!」


あの秘孔術は危険すぎる。

私もひでぶされたら終わりや。


「あの秘孔は、我と同じような霊体にしか効かないのじゃ!!だから、現世の者を危険に晒すような技ではない!」


必死に弁明する清彦。


「いや、信用できない」


善哉さんはキッと眼光を鋭くした。


「本当じゃ…!!我は」


その途端、清彦の姿が消えた。


…今度は何が起きたんだろう?


「俺の念を込めて作った麻紐だから、俺も念で清彦を操れる」


「そうだったんですか」


初めて知った。


「清彦には黙ってて欲しい。」


鋭さの名残がある目。

目が合って、ちょっとビクってなった。


「わか、わかりました」


善哉さんは殺し屋モードを完全に解除し、いつものポーカーフェイスになった。


「絹代さん、悪いけどアイツ除霊する事になるかも知れない」


…いや、私もそれが良いと思います。

でも。


「分かりました。あの、でも、本当に霊にしかひでぶが効かないか、確かめてからでも…」


「ひでぶ?」


善哉さんは顎に手をやり、考え込みながら奥の部屋へ戻ろうとした。

扉の前で急に振り返り、ぎこちなく切り出した。


「危うく…。俺の認識が甘くて、絹代さんとあんな危険な霊を2人きりにして悪かった。」


涼しげな目からは、いつも同い年とは思えないくらいの達観した空気を感じるのだけど。

今は少し狼狽えているような目に見える。


「いえ。私も、知らなかったですし…」


「…敬語。」


はっ。


「は…う、うん。」


「ふっ」


善哉さんは珍しく目を細めて笑った。

私もつられ、へへ、と笑った。


「慣れなくて…」


「まぁ、今日は類が居ないし。俺も奥で調べものしてるから、何かあったらすぐ呼んで」


扉が閉まり、外の喧騒が戻ってきた。

しばらくぼんやりパソコンの画面を眺めていると、新着メールが届いた音ではっとした。


メールを開くと、そこには"米ぬかおやじ除霊の件について"と書かれていた。






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