依頼の取り下げ
「私、師走の事が大好きで、会いたかったはずなのに…。自分で召喚して師走が出てきた時に、思わず泣いて叫んでしまったんです」
隣で師走という霊が田中さんの肩に手を置いている。
「師走はすごく悲しい顔をして、私の部屋から出ていきました。私、それをずっと後悔してて…」
まぁ…びっくりするわな。
「なのに…!!あちこちで師走が他の女性をナンパしまくっているとニュースで知って、驚いたのと、怒りが湧いてきて…!同時に、無関係の女性達に迷惑を掛けてしまっていると分かって、申し訳なく思ったんです。」
「ごめんね…美保ちゃん。あの時は」
師走という霊は田中さんの背中をさすった。
「うぅん」と、田中さんは首を振る。
「自分が召喚した事で、迷惑を掛けてしまった…。それで、責任を感じて善哉事務所へ除霊を依頼したんです。」
「僕は、除霊の依頼主が美保ちゃんだと分かって…一気に憎しみに吞み込まれそうになったんだ。でも、美保ちゃんは僕の顔を見て、"あの時に叫んでしまって、ごめんなさい"と謝ってくれたんだ。」
「そうだったんですね」
めでたし、めでたし…か?
田中さんは、気まずそうにこちらを見た。
「…あの、除霊依頼の取り下げってできますか?」
「はい、もちろんです」
「キャンセル料は…」
「まぁ、今回は結構です」
はよ帰って昼飯食いに行きたい。
「…」
類は半目でこちらを見上げる。
めんどくさがってるのがバレてるな。
「あ…ありがとうございます!!」
「ありがとう!!」
田中さんと師走という霊は、深く礼をした。
「師走ぅ…貴様、あの時姫と我を置いて1人だけ逃げようとしたなァ?」
清彦が師走の後ろから何か言ってる。
「うッ…!!だって、しょうがないだろ!怖かったんだよ!!」
「な、なんの事なの、師走!?」
清彦が師走の襟首を掴んで凄む。
「この…貴様だけ幸せそうにしおって!!許さん!!!」
「おい。いい加減にしろ。帰るぞ清彦」
ビクッとして師走から手を離し、こちらに敬礼した。
「イエッサー!!」
言うと同時に、機敏に踵をビシッとつける。
こいつほんまに平安貴族か?




