夢かうつつか
「何を探しているのですか?」
「えー、スマホがなくって…」
ん?
「はい」
そこには、昨日の夢に出てきた
平安時代の青年が居た。
青年の手には私のスマホがあった。
数秒間青年と見つめ合ったまま、
私はゆっくりと立ち上がってベッドへ戻っていった。
布団を頭の先までかぶり、昨日の夢を思い出していた。
「まだ夢見てるんだ、私。どんだけ疲れてるんだよー(笑)」
「しっ、紫乃姫」
さっきの平安時代の青年が声を掛けてきた。
「あーやだやだ、声まで聞こえるわ(笑)」
夢の続きかと思えば恐怖心はなかった。
「具合が悪いのか…?」
心配そうな青年の声。
「"しのひめ"って誰?私は若葉絹代ですよ。」
「きぬよ」
青年は1音ごとを丁寧に、ゆっくりなぞるように発音した。
そして沈黙。
うとうとしかけたその時。
「絹代ー!!いつまで寝てるの!?」
階下から母の声がする。
気にせずじっとしている事にした。
眠い。うとうと。
母が階段を上ってくる足音がする。
パァンッ!!
母の怪力により、扉が勢いよく開いた音がした。
「あんた、今日はひかりちゃんと遊びに行くって言うてたんちゃうの!?」
"ん?"
今日は日曜日。
確かに、現実では幼馴染のひかりと出かける約束をしていた。
起きてみる。
「あ、起きたね。ひかりちゃん待たせたらあかんで」
「…待って」
「はい?」
「お母さん、ここに、ベッドの前に平安時代の服着た人いるの。見える?」
母は目を細め、私の顔を見た。
「見えん」
そう言って母は階段を下りて行った。
"はて…これは夢の続き?それとも…"
そう考えている間も、
平安時代の服を着た青年はベッドの前に座っている。
「夢…じゃないの…」
青年ではなく、青年の居る空間を見つめながら
私はうなだれた。
青年は眉根を寄せ、こちらを綺麗な目で見つめている。
八の字になった眉毛。
なんでこの青年に心配されないといけないのだ。
「し…きぬよ殿」
青年は静かにベッド脇に近づき、
私の右手を取った。
「夢などではありません」
その青年を人科に分類するのであれば、
その時私は初めて人を殴った。