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姫探し  作者: 温泉ことね
21/28

善哉の勘

「善哉さん、明日絹代さんが来る日でしたっけ?」


「あぁ、明日の11時に」


K市内北方のお寺に来ていた善哉拓海と此代類。

外では鳥のさえずりが聞こえ、柔らかい日差しが障子窓から差し込んでいる。

お祓いに来ていた2人は、本堂の中で御本尊である大日如来の前でお茶を飲んでいた。


「類、今日は弓矢持ってきたか?」


「一応、持ってきました。…いつもの定期祓いですよね?」


「何か、今日は要るような気がするんだ」


「そうですか」


善哉の"気がする"は毎回その通りになる。

類は、善哉の端正だけど男らしさのある横顔を見つめた。


「いやぁ~、ほんま助かりましたわぁ!」


しばらくして、つるつる頭の住職が白い封筒を手に歩いてきた。

善哉と類の前に座ると、改めて手をつき深く礼をした。


「では、こちらが依頼金です」


分厚い封筒を受け取ると、善哉は何のためらいもなく中身を住職の目の前で出した。

500万はあるだろうという札束の半分を取り、半分を封筒にしまった。

その封筒を住職へ差し出す。


「多すぎます。こちらからは10分の1の金額で提示したはずです。」


住職はニコーっと歯を見せて笑うと、善哉が差し出した封筒を押し戻した。


「かましまへん!こちらは、お寺の存続に関わる危機を救ってもろたんやから!」


「いや…」


すると、住職の横から少年がポンと現れた。

住職には見えていない。


『受け取れ』


銀色のふわふわの長髪をなびかせ、蒲公英色(たんぽぽいろ)水干(すいかん)を身にまとった少年は言った。

色白の美しい肌に、妖艶な狐目を善哉に真っ直ぐ向ける。


善哉が渋っていると、その少年はさらに言った。


『そのお金は、お前のものではないんや。おごるなよ。』


「…分かってるさ」


「何か、言いましたか?」


住職がぽかんと口を開けていると、善哉はその押し戻されたお金を受けとった。


「ありがとうございます。では、慎んで…」


「ほんまに助かりました。ありがとうございます!」



住職に見送られてお寺の門を出ると、また銀髪の少年が現れた。


『ええ加減、慣れ。』


「…分かった」


「まぁ、今回は予想外に悪霊が居ましたもんね」


「でも、俺が香を吹きかけただけで除霊できた。あんなにもらっては駄目だ。」


『ただの人間が吹きかけたんと違うんや。拓海だから簡単に祓えた。』


「確かに、善哉さんじゃなかったら苦戦してますよ」


お寺や神社でも、色んな人が出入りする事によって(けが)れが発生する。

善哉はその穢れを払う仕事もしている。

今回は定期祓いのつもりが、誰かが持ち込んでそのまま居付いた悪霊が居て

それも祓った。


『そのお金は、また困っている善良な人の元へ行くために来たんや。』


善哉の頭の中で、幼い頃の笑顔の自分が浮かぶ。

その両隣に、育ててくれた父と母。


「…分かってる」


「…」


速足で次の依頼現場へと歩き出す善哉の後ろを、類は小走りで追いかけた。




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