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姫探し  作者: 温泉ことね
14/35

木の葉堂


"木の葉堂"は善哉事務所よりも北の方角にある。

渋滞しやすい道のため、"木の葉堂"に着いた頃には日が暮れかけていた。


木造で、いかにも京町屋の扉をガラガラと横に引くと、

昔ながらの土間の上にレトロな木棚が並んでいる。

奥には畳が1畳ずつ3枚横に並んでいて、畳の上にはガラスがはめ込まれた木の戸がある。

戸は閉まっていて、すりガラスの奥はほのかに明るくなっているのが見える。


「じいちゃーん」


類が呼ぶと、すぐに木の戸がガラガラと横に開き、類の祖父が現れた。


「類!」


祖父は土間におりて、下駄を履いて2人に近寄った。


「こんの馬鹿もんが!!人間を緋十麻呂(ひとまろ)で斬るやつがあるか!!」


類の祖父は、烈火のごとく怒った。


「じいちゃん!!」


類が祖父をたしなめるように見る。

類の目は、鈴のように大きな目で二重は幅が広い。


「…言い訳の仕様もない。」


善哉はうなだれて自身のうなじを掻いなでた。


「全く…」


うなだれる善哉の胸に、類の祖父が瓢箪型の陶器を押し付けた。


「これじゃ」


善哉は顔を上げ、瓢箪型の陶器を両手で持った。


「これが…有難い。」


善哉の表情が明るくなった。


「じいちゃん、ありがとう!」


「20万円じゃ」


善哉は薬を類に渡し、背負っていた黒いリュックから財布を取り出した。


「ほい、領収書」


20万円と領収書を交換し、善哉はコルクの蓋をキュポっと取った。


「塗り薬だな」


口の中を片目で覗き込みながら、善哉は確認した。


「そうじゃ。早い方がいい。傷口にたっぷり塗ってあげなさい」


「はい」


「ところで、何でこんな事になったんじゃ?」


類の祖父は畳に腰を下ろし、2人を見上げた。


「…今市内で話題の米ぬかおやじ騒動あるだろ?あと、無理やりキス男事件」


「あぁ、なんかあったのう」


類の祖父は腕を組んで目を閉じている。


「それぞれ別の依頼人から除霊の仕事をもらって、今日たまたま2体一緒に居たんだよ」


「ほぅ…友だちだったんかの?」


「知らんけど。類と一緒に藍紙噛んで待っていたら、その2体と女性が現れた」


「ん?」


類の祖父が白髭を右手でさする手を止め、いぶかしげに目を開いた。


「女性には、初めからその2体が見えているようだった」


「…ほう、珍しい事もあるもんじゃな」


類の祖父はくりくりの目を見開き、身体をこちらに傾けた。


「刀を抜くと、女には緋刀麻呂(ひとまろ)も見えていた」


「…何者じゃその女」


目を細めて善哉と類を見る。


「…普通の人に見えたけどね?」


類が善哉を上目づかいで見る。


「…分からん。で、俺が米ぬかを斬ろうとしたら、女がかばって」


「…斬ってしまったんじゃな」


「気絶した女の人を、善哉さんがすぐに受け止めて家まで送ったよ」


「米ぬかが、家まで案内してくれた。」


「その女は、霊と暮らしてるのか?」


「さぁ?霊が付きまとっているだけかも知れん。家からは普通に母親が出てきたから、適当に説明して俺に連絡してもらうように伝えた。」


「…そうか」


3人はしばらく沈黙した。


「明日には連絡があると思う。類、今日はもう上がって」


「はーい」


「直帰じゃの」


類は見送りに外に出た。


「…善哉さん、あんまりヘコまないで」


「…」


善哉は類を澄ました顔で見て、何も言わないで車に乗った。


「もし電話がかかってきたら、俺も行くっすからね!」


善哉は類に片手を上げて、帰路についた。




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