お姫様抱っこ
「…はっ」
目が覚めると、ベッドの上だった。
見慣れた天井。
私の部屋だ。
起き上がろうとすると、頭が痛くて思わず手で押さえた。
「いった…」
目を閉じて、布団に顔を埋める。
にわかに男の驚いた顔と、振りおろされる刀を思い出した。
「私、斬られた…?」
布団から顔を上げ、両手を見て、両腕をさすってみた。
服をめくってお腹を見る。
ベッドから転がり落ちるようにおりて、
鏡で自分の顔、頭を確認する。
見える範囲には、切り傷ひとつない。
目を見開いていると、ズキズキと激しい頭痛が近付いて来た。
ベッドに上がって目を閉じ、布団に顔を埋めた。
「あんた、男の人が運んでくれたんだよ」
「え?」
しばらく休んでから1階のリビングへ降りると、母が心配した顔でキッチンから出て来た。
「絹代が公園で気絶したのを見て、背の高い男の人が家まで運んできてくれたのよ」
また気絶したのか、私。
母は名刺を私に渡した。
「これ。男の人があんたに、って」
「善哉…事務所…」
善哉…って呼ばれてたな、あの男。
名刺には"善哉事務所 代表 善哉拓海"の印字。
え?あの、電話して、直接向かおうと思っていた除霊屋の人…?
あの人が?
名刺をひっくり返すと、裏には走り書きの文字が書かれていた。
"落ち着かれたら、善哉まで連絡してください。こちらから病院を紹介します。"
ぼんやり名刺を見ていると、母がニヤニヤしながらこちらを見ている事に気付いた。
「なに?」
「うらやましいわ~」
「はぁ!?なにが!?」
「お姫様抱っこ。」
なんて?
「イケメンに、あんたお姫様抱っこで運んできてもらったんだよ」
母はうっとりした顔でそう言った。
おいおい、気絶して面識のない男にお姫様抱っこされて帰って来た娘を羨ましがるな。
しかもその連れて来た張本人に斬られたんだが?
「現場にお医者さんが居たんだって?」
「…うん。え?そうなの?」
どこから湧いて出た。
「病院を紹介するから、意識が戻ったらすぐに連絡して欲しいって言ってたわよ」
「今日はもう遅いし、明日電話しようかな?」
「そうしなさい。」
「…明日は午前中だけ休もうかな?午後から出勤して…」
「あんた、気絶した翌日くらい休みなさいよ!」
確かに。
社畜かよ私。
いや、夜11時まで残業しているのはかなりの社畜だよな。
「う~ん…分かった」
「ほら、今日はご飯食べて。さっさと寝なさい」
………………………………………………………………
絹代を送ってから、善哉と類は事務所へ向かって車を走らせていた。
「善哉さん、あの人大丈夫ですかね?」
「…分からん。」
(この刀で人間を斬った事がない。
ましてや女を斬る事になるなんて。)
ポーカーフェイスの善哉だが、心は波立ち落ち着かない。
「類、"木の葉堂"に霊体の裂傷に効く薬はあるか?」
"木の葉堂"とは、類の祖父が営む骨董品屋だ。
表向きは骨董商だが、除霊用品やオカルトグッズを豊富に取り揃えている。
「う~ん…聞いてみます」
類は助手席でスマホを取り出し、祖父へ電話した。
「もしもし、おじいちゃん?」
『おー!どうした類!元気か!?』
「今朝会ったじゃん…」
『いや、今日は除霊に行くと言ってたから心配しとったんじゃ!』
「大丈夫だって。それより、霊体の裂傷に効く薬ってある?」
『霊体の…何に使うんじゃ!?』
「今日さ、善哉さんの刀で普通の人斬っちゃって」
『はぁ!!?』
「…しょうがないじゃん。事故だったんだよ」
『馬鹿モン!!!拓海の刀は没収じゃ!!』
「…しょうがねぇな」
善哉は無表情で呟いた。
「…無茶言うなよじいちゃん。」
『いいや、無茶じゃない!!刀でなくとも除霊できるのに、わざわざあちこちで振り回しおって!!』
「あのな、除霊って仕事は命がかかってるから善哉さんに刀は必須なの!!」
『ふん、人を斬ってしまうよりいいじゃろう!それで、その斬られた人は大丈夫だったのか?』
「ぱっと見頭がパックリいってた。」
『よく生きとるな』
探しながら電話をしているそうで、ガサガサゴトゴトと電話の奥から音がしている。
『あった、あった!10年くらい前に、わしも除霊グッズでうっかり自分の指を切った時に使った薬じゃ』
善哉が類の方を向くと、類も力強い眼差しでこちらを見ていた。
善哉はうなづき、
「じいさん、今から行く」
と電話の向こうの類の祖父に聞こえる様に言って、"木の葉堂"へと向かった。




