蛸公園
蛸公園に着くと、もう警察官の姿はなかった。
事件が起きてから1時間以上経っているから、当然か。
しばらく公園内の蛸の顔が描いてあるベンチに座って、木陰でぼんやりしていた。
「…ふう」
仕事での忙しさでイライラしてささくれ立った気持ちも、こうやって自然の中に居るだけで癒されていく。
繁華街の中心にある公園だけど、平日の昼間は人もまばらだ。
風が吹く度に、木の葉がこすれ合ってそよぐ音がする。
涼しい風が頬に当たって、気持ちいい。
静かな公園で、昨日までの一連の不思議な出来事を改めて振り返る。
まるで夢の中の出来事みたいだ。私の頭は大丈夫なのだろうか?
砂場に居たお母さんと小さな女の子は、手を繋いで公園から出て行った。
五十嵐師走も、もう別の場所へ行ってしまったかな。
そう思って、立ち上がろうとした時。
「姫!!」
目の前に平安貴族の顏がドアップで登場した。
「うわぁ!!」
びっくりして後ろに身体を引く。
慌てて辺りを見回した。
良かった、他に人がいなくて…。
「人が居なくなるのを待っていたのです。」
嬉しそうな平安貴族を睨みつけると、彼はビクついて後ずさりした。
「キヨ~そんなんだから嫌われるんだよ?」
五十嵐師走が登場した。
両手をやれやれと上げ、あきれ顔だ。
「キヨにはデリカシーってもんがないのかね?」
平安貴族の肩に手を乗せ、顔を左右に振りながらため息をつく。
お前が言うか。
平安貴族は師走の足元に膝をついてぴえん顔をしている。
「女の子にはね、耳元で優しく話しかけないと…ね?」
鳥肌がすごい。
したら殺す。
そう思ったその時。
「ご両人お揃いだな」
平安貴族と師走の後ろから、黒髪短髪の男がいきなり現れた。
「探す手間が省けた」
白いカッターシャツに紺色のネクタイをした男は、こちらに向かって歩いて来る。
歩きながら腰に差した刀に手を掛け、抜いた。
「じゅっ、銃刀法違反ー!!!」
思わず指をさして叫んだ。
「…君は、人か?」
男は立ち止まり、怪訝そうに眉根を寄せて私を見た。
「…へぇ、見えるんだな」
そう言うと男は口角を上げて意味深な笑みを見せた。
幅の狭い二重の切れ長な目が、長い前髪の下で刀のようにギラリと光った。
何だかゾクッとした。
「何だ貴様、姫に近付くな!!」
いつの間にか、平安貴族が刀を抜いて私をかばうように構えていた。
振り返ると、五十嵐師走は、私の後ろにこっそり隠れている。
「…やっと見つけたんだな。」
「…なんの話だ」
男は刀を下ろした。
「俺はお前を除霊するように依頼された。それから、お前も」
男の目が私の背後の師走を捉える。
「誰かを探して彷徨っていたんだろう?お前」
「…」
「やっと見つけた所悪いが、俺はこれが仕事なんだ」
「清彦様ああああ!!!」
男の背後にじいやが現れた。
男はすぐに身を翻し、じいやの攻撃から身をかわした。
その間に清彦が刀を男に振りかざす。その時。
一瞬何が起こったか分からなかった。
清彦の刀は地面に落ち、手からは血が流れていた。
男はじいやの頭をぶん殴って気絶させていた。
「善哉さん!」
公園の入り口の辺りに、金髪マッシュの小柄な男が弓を構えて立っていた。
あの男が、清彦の手を矢で射った。
善哉と呼ばれた男は、清彦に刀を振りおろす。
「えっ」
「はっ」
驚く男の顏。
振りおろされる刀が目の前にあった。
「紫乃姫…!」
清彦の叫ぶ声がすぐ後ろで響く。
だから誰だよ、その紫乃姫って…
私の身体は、とっさに清彦の前に来ていた。
何で、除霊したいのに…かばってるんだろう?
私の身体に、刀が思いっきり振りおとされた。




