善哉事務所
「早く除霊して欲しいんです」
K市内のオフィス街にある、ビルの一角。
3階にあるこの部屋からは、今日も大通りの喧騒とは裏腹な
澄んだ空気が漂っている。
「分かりました。まずはお話を聞かせてください」
革の1人がけソファーに座っていた男は、木製テーブルを挟んで
目の前に座っている女性に名刺を渡して座り直した。
「善哉…拓海さん」
腰を浮かせて名刺を受け取った女性は、
名刺をテーブルの上に置いてから善哉を見た。
「よろしくお願いいたします。粟島様」
善哉は女性にそう言うと、ニコリともせず軽く会釈をした。
「よろしくお願いいたします…私自身、いまだに信じられないのですが」
粟島は善哉に事の次第を話し始めた。
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「絹代殿、今日はカイシャ、休みなのですか?」
「…」
「絹代殿、もうお昼になりますぞ?起きなくても良いのですか?」
うぜえ。
話しかけるな。
「ねぇ~絹代殿、外は晴れててお散歩日和ですぞ~」
布団を頭までかぶって聞こえないふりをする。
せっかくの貴重な休み、まだ寝たりない。
「はぁ…絹代殿…」
平安貴族の声がしなくなって、ウトウト寝かけた。
その時。
「お~~~い!!!」
びっくりして飛び起きた。
平安貴族が部屋の窓の方を見やる。
すると、見たことのある男が窓をすり抜けて入って来た。
「遊びに来たよ~キヨ!」
「…」
呆然とその光景を眺める。
五十嵐師走。
出会った日以来だ。
「勝手に姫の部屋に入るな!!」
平安貴族は怒り狂って刀を振り回している。
「うるさい!!おめえも勝手に私の部屋にはいってんじゃねーよ!!」
貴族と五十嵐師走はびっくりして顔をこちらに向けた。
すぐに2人で窓の外へと出て行った。
「…はぁ」
もう既に平安貴族たちの除霊を頼んでいる人が居るらしいけど、アテになるか分からない。
あの悪霊たちを除霊してもらおうと思っていたけど、結局あれから3日経ってしまった。
布団に横たわり、スマホで"除霊屋 K市"で検索した。
歴史の深い都市だけに、たくさん除霊屋がヒットした。
神社やお寺、霊能力者…
スクロールして行って、ふと手が止まった。
"中町ビル 3階 善哉事務所"
…あれ?見たことある。
地図を見てみると、前に働いていた歯科医院のすぐ近くだった。
通勤時は、毎回このビルの前を歩いていたはずだ。
「全然除霊屋っぽくないけどなぁ…」
ホームページを見てみると、全然オカルト系の雰囲気がない。
普通の会社のホームページみたいだった。
本当に、除霊屋なのかな?
口コミを見てみた。
『さすがです。〇〇の除霊師さんでも祓えなかったのに、
あっさり祓って頂きました。本当にありがとうございました。』
『凄腕。まだお若いのに、かなりのお力です。』
『費用も良心的で、助かりました。』
『命を助けて頂きました。この御恩は一生忘れません』
…よし、ここに決めた。
スマホを枕の横に置いて、起き上がった。
身支度を整えてから電話しよう。
「…中々出ないなぁ」
身支度を整え、メェカリで郵便物を出す前にさっきの事務所へ電話した。
プルルルと呼び出し音が何度も繰り返されるだけだった。
諦めて電話を切り、郵便局へ向かった。
郵便局へは歩いて3、4分。
会社とは反対方向にある。
発送が終わって家へ帰ろうとしたけど、ふと思いついて駅の方へ足を向けた。
直接、善哉事務所へ行ってみよう。
そう思って最寄りのF駅へ向かった。
善哉事務所最寄りのS駅までは、F駅から電車で約20分。
ちょうど乗り換えしなくてもいい電車が来た。
ラッキー。
扉からすぐ側の席が空いていたので、座った。
端っこ好きだ。
スマホを取り出してみると、すぐにポップアップ表示されたネットニュースが目に入った。
"怪奇!! 白昼堂々 K市内の公園で"
…ん?K市内って、ここじゃん。怪奇って、もしや…
"6月13日11時11分。K市N区N町にある蛸公園。白昼堂々、20代女性に無理矢理キスをしようとしたとして20代の男が警察に連行されようとした所、逃走。しかし、警察官は「まるで煙が消えたかのように男が目の前で消えた」と語った。この怪奇現象は…"
今日の日付、40分くらい前の時間。
やりやがったな。
きっと五十嵐師走だ。
この蛸公園、今向かっている善哉事務所からまぁまぁ近い。
歩いて10分くらいか?
事務所へ行く前に、行ってみよう。
電車に揺られ、S駅に着いた。
地下から地上に出る階段を小走りで上り、蛸公園へ向かった。




