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姫探し  作者: 温泉ことね
10/28

いつもの出勤ルーティン


月曜日の朝。

私は自転車をかっとばして会社へ向かった。


せわしなく行き交う人と自転車の間をすり抜け走る事約4分。

会社の駐輪場に到着した。

小走りで入り口へ向かう。


「おはようございます」


「おはようございます!」


入ってすぐに挨拶をする。

入口からは、受付カウンター越しに事務所が丸見えのため、皆からあいさつが返ってくる。

そのまま受付カウンターの横を通り過ぎ、休憩室に入って荷物をロッカーに入れる。

ロッカーの鍵を閉めて、休憩室を出る。

事務所の扉を開けて、すぐ目の前の自分のデスクに座る。

それから、お弁当と水筒の入った保冷バッグをデスクの一番下にしまう。

デスクトップパソコンの電源をつけ、土曜日に書いたメモに目を通す。


いつもの、出勤ルーティン。

そう、いつもの…






「絹代殿、この四角い箱はなんなのですか!?」



「…」



「うわっ!音が鳴った…変な音!」



「はい、まこっちゃんリビングK営業所の若葉です。はい、はい。お疲れ様です。先日の退去者の件でしょうか?」



「絹代殿、何てたおやかな指づかい…ゆゆし!ゆゆし!!」



「はい。最終的にはこちらから電話するという事に…」



「なんと麗しい声と仕草であろうか…じいや、こっちへ来い!」



「お疲れ様です。では失礼いたします。」



「じいやーーーー!!!」



「うるせぇ!!!」


どこがいつもの出勤ルーティンじゃ。

仕事中にデスクの上をウロウロする平安貴族と、なぜか所長の隣でお茶を飲んでいる、耳が遠くて声がでかいおじいちゃん。



ものすごく小さな声で言ったつもりだったが、斜め向かいのデスクに居る営業の野田さんが眉をひそめてこちらを見ていた。

うすら笑いを浮かべて会釈をすると、眉をひそめたまま目を細め、視線を私からフェードアウトさせた。それから、自身のパソコンの方へ向き直した。


はぁ…

O本社の人に暴言吐いたみたいになってしまったじゃないか。


パソコンの横に座っている平安貴族を睨みつけると、平安貴族ははっと目を見開き、頬を赤らめた。

さっと視線を斜め下に向けると、隣にじいやがやって来た。



「何の用ですじゃ!!?」



相変わらずの爆音声。

必死で平静を保とうとするが、耳がキーンってなる。

事務所内を見回してみたけど、やはり私にしか見えていないし、聞こえていないようだ。


岸部さんも出勤して来て、間もなく9時になった。

おもむろに全員立ち上がり、所長がいつもの音楽を流す。



"ラジオ体操第一!"


"ちゃーんちゃんちゃちゃんちゃんちゃんちゃん♪

ちゃーんちゃんちゃ…"



「な、なんじゃ…?この音は…?」


「なぜみんな一斉に立ち上がったのですじゃ!?」



"腕を前から上げて、背伸びの運動♪"



「な…なんなのじゃ、全員で一斉に」


「これは何かの儀式ですじゃ!清彦様!!気を付けなされ!!」



無駄に恐れおののいている平安時代の2人をよそに、それぞれめいっぱい身体を伸ばしたり、はねたりする。

最初は朝にラジオ体操するなんて、めんどくさいなぁと思っていたけど、慣れた。

野田さんの体操の仕方がクセが強く、笑いをこらえるのに必死だった頃が懐かしい。



「清彦様…1人妙な動きをしている者がおりますぞ」


「やや!あのあやしき動きをしている男は何者ぞ!!」



「ぶッ」


おいやめろ。

せっかく免疫をつけたのに、吹き出してしまったやないか。


「ゴホン!!エホッ、エホっ」


何とか咳払いで誤魔化す。


「これは…あの不可思議な動きをしている男が皆を操っているのではないか!?」


なぜそうなる?


「清彦様、絹代様をお助けするですじゃ!!」


「ふっ、言われなくても…」


平安貴族の青年は、腰の刀に手を掛けた。

口角を片方だけ上げ、自信に満ちた顔でこちらをチラ見し、目が合うとなぜか少し照れ笑いした。


「絹代殿、今助けますぞ!」


「…」


え?


平安貴族の青年は刀を抜いて野田さんの方へ向く。


"え…野田さん、斬るの?"


ラジオ体操を続けながら、ドギマギしながら野田さんの方をチラチラ見る。


変な動きでラジオ体操してるだけなのに…斬られるの?


平安貴族の青年は野田さんの方へ歩み寄る。

野田さんは眠たそうな顔で腕と足の運動を続けている。

デスクの向こうに居るけど、平安貴族はすり抜けて斜めに歩いて行く。


え?え?これってどうなるんだろう

見えない相手から刀で斬られても平気なんだろうか?

斬られたらやっぱり死んじゃうのかな?


そう考えていると、電話が鳴った。

野田さんが素早く電話を取る。

その瞬間、平安貴族の青年も刀を振り上げようとする手を止めた。


「はい、あハイ。…そうです、そうです!あ大丈夫ですハイ。」


平安貴族は周囲を見回した。


「…どうやら、この男が操っているわけではなさそうだな」


平安貴族の青年は私の隣に居るおじいちゃんに目配せをした。




…ほっ。

とりあえず野田さんは斬られずに済んだ。


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