死人花
この第10話“死人花”と、次の11話“風信子”は前後編のお話となっております。
潤の推理も、いよいよクライマックス。ついに、セゾンの正体が明らかになります。
皆さんもセゾンが誰なのか、考えながら読んでいただけると幸いです。
(2014/07/06 改変)
『御機嫌よう、成田探偵事務所の諸君。突然このような物を贈りつける無礼を、まずは詫びたいと思う。
さて。しばしの間、私が姿を消していた事で、貴殿らは安心していただろうか。それとも、退屈していたのだろうか。いずれにせよ、そんな杞憂は終末を迎える。
半年前、私は貴殿らの華麗なる計略にまんまと踊らされ、憐れな道化師を演じるという失態を犯した。此度はその雪辱を晴らすべく、“天使の嘆き”を再び、頂戴に参上する。かつての私と、夢夢思わないよう。其方も前回同様、十二分に策をめぐらせていただきたい。では、明月の光の下で会いまみえよう。 怪盗セゾン』
「これが、今回うちに届いた予告状よ」
メールを受け取った僕はいてもたってもいられず、人生で初めて早退というものをして、事務所に向かった。そこで真帆さんから予告状を見せてもらったのだが、この語り口、確かにセゾンからのようである。
「予告状は勿論、例の美術館にも届いているようです。確認してきましたが、文面は似通っています。間違いないと思います」
おそらく、美術館の関係者に呼ばれて出掛けていたのであろう。リュウさんは帰ってくるなり、そう告げた。
「何故、今回は事務所にも届いたんでしょうか?」
僕は素直に、最初に浮かんだ疑問を二人にぶつけてみる。
「俺達が調べている事を知っていたか、あるいは自分の正体が勘付かれている、と気が付いたか……」
「些か、タイミングが良過ぎる気がしないでもないですが」
「もしかしたら、俺が虎季とやりあった事が関係しているのかもしれない。此方が三人で団結しているように、虎季と今のセゾンが情報交換をしている、というのは充分に考えられる。何せ、向こうは家族なんだからな」
「成程……」
しかし、それでもやはり疑問は残る。まるで、こうなる事を予想していたような、そんな気がしてならなかった。
「いずれにせよ、セゾンの尻尾をつかむ絶好のチャンスだわ。気合入れていきましょう」
そう言った真帆さんの目がいつになく真剣で、僕のささやかな疑念は吹っ飛んだ。
「でも、今回はどうしましょうか。流石に、同じ手を使う訳にはいきませんし」
「そうねぇ。でもどの道、警備はしないとね」
「それって……」
「いや、どうせ盗まれちゃうなら、って潤君と同じ方向で考えようかとも思っちゃったけど、私はそういう訳にはいかないわよね」
上に立つ者は、いつだって立場をわきまえねばならない。それは、真帆さんが一番よく知っているはずだ。その彼女が、こういう事を言う、という事は……。
「やっぱり、事前に防ぐことは難しいんでしょうか?」
聞いたところによると、奴は大分手口が荒いようだったから、証拠の一つや二つ、残っていても良さそうなものだが。
「それが、確かに手口は荒いんだが、逃走経路は割り出せなかったんだよなぁ」
「何故ですか?」
「侵入・逃走に使われたと思われるのは、玄関・裏口・トイレの窓・二階の窓……、と割り出せないようにあえて、人が通れそうな出入口全部、開けていきやがったんだよ」
「手間のかかる事を……」
証拠を一つも残さないようにするのは難しい。逆に、証拠を大量に残していく事は可能、という事か。木の葉を隠すなら森の中、と言うが、少しやり過ぎである感じが否めない。
「では、他のセゾンがやったと思われる犯行については、どうでしょう?」
「虎季はそこんとこ、一流だったからなぁ。あいつはまさしく、証拠一つ残さなかったよ」「いや、そっちではなく」
「……ああ、俺が調べてた奴の方か。あれなら、全部玄関から入って、裏口から逃走してたぞ?」
……分からない。玄関から入る、というリスクを冒すぐらいなら、普通に裏口から出入りすれば良いのに。何というか、やっぱり行動に無駄が多すぎる気がする。
「じゃあ、今回もその方法で来るのかしら?」
「断定はできませんが……。でも、今のセゾンが予告状も出さず、盗みに入っていたのって、おそらくこの為の練習だったのではないでしょうか?」
「だろうな。だからこそ、あの予告状の文言だろうし」
この後、三人でしばらく話し合ってはみたけれど、妙案は浮かばず。結局、一旦別行動をとる事になった。
そこで僕は、リュウさんが集めていた資料を、もう一度見せてもらう事にした。この前は流し読みしてしまったので、もしかしたら何か新しい発見があるのではないか、と考えたのである。
それによると、奴が犯行を行ったのは、盗んだ物からも察せられるようにほとんどが個人宅だった。中には、僕でも知っているような、有名な資産家のお屋敷もある。僕は、だから大きな騒ぎにならなかったのではないか、だからこそ狙ったのではないかと思った。リュウさんにこの事を話すと、
「ああ。そこだけは確かに、虎季の手口と似ているとも思ったよ。でも、いずれも隠居した方ばかりで、金持ちとして有名ではあったけれども、別に後ろ暗くはなさそうだったんだよな」
と言っていた。ふむ、じゃあこの線は無いと見て良さそうだ。
参考になったかはともかく、貴重な情報を提供していただいたのは事実なので、お返しに僕も、穂村の写真を見せようとした。だが。
「俺は、その穂村って子がセゾンだと思う。だから、写真は見ない。余計な先入観は、捜査の邪魔だからな」
そう、きっぱり断られてしまった。目的は他にもあったのだが、推理の邪魔とあれば仕方が無い。その代わり、僕は生意気にもこう宣言しておいた。
「誰がセゾンなのかは兎も角、僕が奴の正体を暴いてみせますよ」
もっとも、その時は確証なんて、これっぽっちもなかったのだけれど。
あくまでも、僕の中に渦巻いていたのは、何百という可能性で。
その中から一つを導き出せたのは他ならぬ彼女の行動だった、というのは何とも皮肉な話である。
*
警察には真帆さんが話をつけ、前回よりは人員を増やして、警備が行われる事となった。それも、セゾンが指定してきた明月、つまり満月の日が、予告状が届いてから一週間後と日があったおかげなのだけれど。
時間を与え、厳重な警備体制を敷かせる。これは、よっぽど自信があるという事だろうか。それとも、まさかこんな大事になるとは思っていなかったか。
予告状が届いてからというもの、僕はますますそちらに気がいってしまって、先生方には申し訳ないが、学校で椅子に座って机に向かっている事が、苦痛で仕方がなかった。しかし、僕の本分は学生であり、真帆さんもリュウさんもそこだけには厳しい。だからこうして――
「……参道、お前が作る物はいつもユニークだと思っていたが、今回のテーマは何だ?」
「えーと、せ、世界?」
我が担任の授業を受けながらも、心は上の空、という訳である。
「あのなぁ。誰が自分で想像した物を描けと言ったよ。美術室にある物なんでもいいから、それを模写しろっていう話だったろう?」
「あははー。そうでしたねー」
回りを見れば各々、指示に従い――例えば、鈴笠は椅子、太谷さんと宝生はお互いを――懸命に筆を動かしていた。いや、穂村だけは、林檎を描いている委員長の近くで、何やら探しものをしていたが。どうやら、話を聞いていなかったのは僕だけらしい。
「全く。最近、他の教科でもぼーっとしてるらしいじゃないか」
「すみません……」
――そんな事を言われても、僕には他に大事な事が……。
心の中ではそう反論したものの、実際には、きっと話しても理解してもらえないだろうから、黙っておく。それに僕自身、どうしてそこまでセゾンに肩入れするのか、分からなくなりつつもあった。
クラスメイトが疑いをかけられているからか。自分の身近で起こった事件だからか。それとも……。
再び思考の世界に入ろうとすると、不意に、よく通る声が耳に響いた。
「せんせー、あたし、この像描きたいんですけどー」
声の主は、僕を悩ませている張本人、穂村である。
彼女は、あの予告状のあった次の日からは元気に登校している。一応、休んだ理由を聞いてみたが、いつも通り月に一回の自主休業だ、と誤魔化されてしまった。
「おお、動かしてもいいぞー。そこじゃ描きにくいだろー?」
「はーい」
よいしょ、と先生の作であろう石像を棚の上から動かす穂村。
「って、意外と重いなー。誰か手伝ってー」
しょうがないなぁ、と鈴笠が彼女に手を貸す。
その瞬間、僕の脳裏に何やら閃くものがあった。
今までの彼女の言動、行動、考え方。そして、セゾンが起こした事件、残っていた手掛かり、それら全てを照らし合わせる。
生じる矛盾、打開策、そして――。
「そうか。そういう事だったのか……」
全ては、繋がった。
「? 参道? どうかしたのか」
「い、いえ、なんでもありません」
この時、僕はこの謎を解くという事がどういう意味を持つのか、分かっていなかった。
犯人が誰か、つまりはセゾンの正体を明らかにしただけで、それを裏付ける推理と証拠を揃えただけで、満足してしまったのである。いや、元々僕には動機なんて、理由なんてどうでも良かった。何故なら、罪は罪、犯罪は犯罪だから。それが立証できれば、それで良い。
だからまさか、それに足元をすくわれるなんて。思いもよらなかったのだ。
「そう、ついに、気が付かれちゃったか……」
*
「裏口、配置完了しました」
「玄関、OKよ」
「制御室、問題ありません」
「あとはここ、だけか」
物々しい空気の中、ぽつんと佇む天使の嘆きの前で、俺は一人ため息をついた。本当に、これで大丈夫なのか、と。
潤とは結局、別行動をとる事にした。危ないから、と真帆さんは止めたが、仮にも潤は探偵のはしくれ。それに、おそらくセゾンは潤のクラスメイトだ。それならば力量的にも、危害は及ばないだろうと考え、単独で動かしている。
それに……。この前、俺に宣言した時の、あの目。あれは、何か掴んでいる眼だ。かと言って、俺は自分の説が間違っているとは思わない。ただ、純粋に潤の力は見てみたかった。それほどのものが彼に眠っている事は、確かである。
しかし俺は、それが何から来るのかまでは、考えつかなかった。
「展示室、今のところ異常は見受けられません」
「そうか……」
その時である。ふっ、と突然、明かりが消えた。
「!? おい、誰か制御室へ連絡を!」
「駄目です、応答しません」
「くそっ、やられたか……」
「ぐあっ」
ばたっ、がたっ、と次々に何かが倒れる音がする。前回の経験を生かし、防毒マスクを全員に着用させた事が、どうやら裏目に出たらしい。敵は、強行突破に打って出たようだ。俺は慌てず騒がず、暗闇に目が慣れるまでじっとしている事にする。大丈夫、もうすぐ見えるように……。ところが。
「!?」
三十秒ぐらい経った後、再び明かりがついた。再び目が慣れるまで、およそ一分。
「やられた……」
ようやく視界を取り戻した時、天使の嘆きはすでに、目の前から姿を消していた。
「あとは、潤だけが頼りか」
*
「怪盗って、難儀な職業だね」
走り去ろうとする小さな後ろ姿に、僕は声をかける。髪の色と同じ衣を身にまとった、その少女に。
「だって、こうやって屋上から逃走するんだから」
「それが“浪漫”って奴なのよ。ま、君には分からないだろうけどね」
足を止めて、くるりと振り向いた彼女――穂村那央子は、誇らしげに言った。
そう。彼女なら、ここに来ると思っていた。臨海学校にあんなにこだわっていた、穂村なら。風流を愛する、彼女なら。
僕は、彼女が来た合図に、用意していた信号弾を発射させる。
「景気の良い花火だねぇ」
援軍が来る。そのぐらいは分かっているだろうに、彼女は余裕綽々だった。
ほどなくして、リュウさんと真帆さんが現れた。他の方はおそらく、眠らされるか何かで無効化されたようである。
「な、潤。どういう事だ……?」
彼女を見るなり、リュウさんは言う。
「俺が見たのは、この子じゃない」
「え!?」
――やっぱり、か。どうやら、僕の勘は正しかったらしい。
「おかしいと思ったんです。リュウさんは“長い髪の、鴉みたいな奴だった”と言っていた。という事は、黒髪じゃないとおかしいんです。でも、穂村の髪の色は、この通り」
地毛だ、と本人は話していたが、知らない人から見れば染めていると思われても当然。そのぐらい、彼女の髪は明るい赤茶色なのである。服の色もそれに合わせたのか、朱色のような派手なコートを身にまとっている。怪盗らしからぬ派手さではあるが、まぁこれも彼女の役割を思えば、当然のことなのだろう。
「生徒指導の先生に毎回注意されるぐらいだ。これをリュウさんが見落とすとは思えない。……まぁ、本当は先に確認してほしかったのですが、生憎断られてしまったので」
そう、写真を見れば一発で、彼も穂村が犯人じゃない事は分かっただろう。けれども、その先まではきっと、僕にしか読めなかったとは思うのだが。
「ああ、それで……」
「じゃあこの子は一体……?」
「だから、さ。隠れてないで出てきなよ。君もだろ、セゾンは。ねぇ、委員長」
――すうっ。
小さな暗闇から、どこからともなく少女が現れた。いつもは三つ編みにしている髪をおろし、長い黒髪で、マントのような漆黒のコートに覆われたその姿は、まさしく鴉と呼ぶにふさわしい。
「残念。ばれちゃったか」
舌をぺろっ、と出して笑う姿は、ちっとも悔しがっているようには見えない。その代わり、穂村の方は歯を食いしばっていたけれど。
「何故、私達が犯人だと思ったの?」
「そうよ、私一人の犯行かもしれないじゃない」
「いや、それはない」
こうして現場に現れている時点で、自分たちが犯人だと名乗っているようなものだとは思うのだけれども。それでも僕は、はっきりと断言した。確たる証拠を、この胸に抱きながら。
「どうして、そう思うんだ?」
「単純な事です。まず、共犯説を裏付ける証拠として、三つ。一つは、あの像」
「このぐらいなら、簡単に持ち運べるわよ?」
委員長が、これもいつの間にかそこにあった、足元の袋を指して言った。
「確かに、それ自体はその名――“天使の嘆き”という荘厳なイメージに似合わず、意外と小さい。せいぜい、五十センチぐらいしかないだろう。しかし、それを入れてあったガラスケースの方は、どうでしょうか?」
『あ!』
「そういえば、あれは上からかぶせるタイプだったな」
その通り。しかも、像は見えやすいよう、台座の上に置かれている。そのため、実際には頭より高く持ち上げなければ、中の像もケースも傷付けないで運ぶのは不可能。それを一人で、というのはなかなか難しい芸当だろう。
反論がないようなので、僕は続ける。
「二つ目。は、リュウさんに裏付けをとらないと厳しいかな」
「何だ?」
「今日のセゾンの手口は?」
「概ね、いつも通りだ。電気を消して、それから警備員達を襲い、もう一度電気をつけて」
「成程。それは、一人じゃ無理だわ。消すだけならまだしも、つけるとなれば」
「あ! 誰かが制御室にいなきゃ……」
真帆さんも、今回は別行動をとっていた為、この事は知らなかったはず。流石、安楽椅子探偵の名は伊達ではない。
「そうなんです。僕もそこがひっかかっていました。何故セゾンは、わざわざ扉を壊してでも、そこに入ったのか、と。そんな手間をかけるぐらいなら、時限式の装置でも仕掛けておけば良い話ですから」
もっとも、今回は時間稼ぎの意味もあったんだろうけど。それにしたって、一人でやるには手間がかかりすぎる。計画を立てた奴が二人でやる事を前提に考えたのが、こういう所からも分かる。
「二人だからこそ、か。それなら、逃走経路を惑わす為だけに全ての入り口を開けていったのにもうなづけるな……。人数を悟られないための工夫でもあった訳か」
これは推測にすぎないが、委員長は普通に裏口から出たがったのに、穂村は屋上にこだわったのだろう。あくまでも怪盗としての“スタイル”にこだわる穂村と、仕事の達成という“目的”を重視する委員長。二人の言い争いが目に見えるようだ。
まぁ、ここまでは、おそらく真帆さんもリュウさんも、勘付くまではいかなくとも、なんとなくぼんやりと感じとってはいたのかもしれない。ただ、決定的な証拠にはならないというだけで。でも、最後の理由だけは、僕にしか、彼女達の友人である僕にしか、分からないような気もした。
「三つ目は?」
委員長が先を促す。その目はやはり、自分達の正体を当てられて悔しい、というよりは謎を解かれて喜ぶ出題者のように、僕には見えた。
「手口が矛盾しているんだ。まず、電気を消すという行為から、赤外線及び監視カメラから逃れるための行動だという事が読みとれる。しかし、それをどこで操作しているかなんて、調べなければ分からない事だよね? それに、全ての出入り口を開けた、という所からも、犯人の用意周到性がうかがえる。だが、現場に来てからはどうか? 道具の用意はしてあったんだろうけど、何というか、手口がお粗末すぎる」
「それこそ、一人の犯行を裏付けるんじゃないの?」
「ああ。ここで僕は穂村が犯人ではないか、という疑いを持った。準備は完璧なのに、不器用、まさに穂村の人柄を表している」
「私……そういう風に見られてたのね」
穂村が嘆くが、そこはスル―させていただく。でもまぁ、委員長がくすっと笑った所を見ると、あながち間違ってもいないようだ。
「しかし、ここで注目すべきは“実際に盗みを働いた奴は、リュウさんに姿を見られているのにもかかわらず、逃げおおせた”という事だ」
「それは、計画が完璧だったから……」
「いいや、それは違う。何故なら、どうやって盗んだか、という証拠に関しては何も残っていないんだ」
『あ!』
「ここに、天才的な盗人の存在が浮き彫りになる」
「盗人言うなし……。怪盗と」
「じゃあ、私一人ではない、っていう証拠は?」
穂村の呟きには耳も貸さず、委員長は相変わらず楽しそうに、急き立てる。
「それには苦労したよ。でもね、委員長。やっと君の弱点を見つけたよ」
「弱点?」
「まぁ、そこが強みでもあるんだけど。君の犯行は確かに無駄がない。美しいまでに。だが裏を返せば、無駄な事はやらない、とも言える。だから事前の準備を怠るんだよ。その証拠が、それさ」
「?」
「実物を見ていれば、君だったら気がついたんじゃないのかな? その像もレプリカだよ」
「!?」
そう、思い返せば、委員長はめったに、自分から動こうとはしなかった。臨海学校の時も、文化祭の時も。割り当てられただけの仕事はするが、穂村のように自ら率先して企画を立てることはない。
例えば、この前の美術の授業で、穂村の一番近くにいたはずなのに、“誰か”手伝ってという言葉には耳も貸さない、とか。
言うなれば、自主性に欠けるのだ。なまじ能力がありすぎるだけに、そこは億劫になっていたのだろうか。いずれにせよ、それで全てそつなくこなしてしまうのだから、恐ろしい才能だとは思う。
「そんな委員長だ。さっき言ったような下調べは、絶対にしないだろうね」
「適材適所。だから共犯だと思ったのね……」
僕の推理に、真帆さんも納得し始めたのを見て、悪あがきのように穂村が噛みつく。
「でも、遠足の時はここに来るの反対して」
「あれは、少々大胆過ぎるって止めただけだろうね。穂村、君は下見をするのにちょうどいいとか思ったんだろうけど。その証拠に、いつもなら大騒ぎするはずのお前が、一言も喋ってなかったしな」
「そ、そんなの、こじつけじゃない!」
「僕もそう思う。しかし、二人が共犯だと仮定すると、全ては上手く繋がるんだよ。一点の矛盾も無く、ね」
「確かに……。でも、彼女達を共犯とする確たる証拠が無いのもまた、事実だぞ?」
「そこも、どうやらクリア出来そうです。ねぇ、どこかで見ているんでしょう? 少し出てきてくれませんか?」
すると再び、闇の中から人影が現れた。
この話は主に、どうして彼女たちがセゾンなのか、という理由を描いております。
では、犯行の動機は?と言えば、それは次話で明らかとなります。
少年と少女の想いが画策する第11話“風信子”。事実上のラストを飾る作品で、またお会いしましょう。