最終話 エルフ昔話
俺とユウコワはエルフの軍に接触したものの、戦時中ということもありそのまま後方、王都へ転移で行く。
エルフ王、そしてユウコワの父親であるルケン氏と面談。それは三日に渡った。
まず今までの経緯を全て話す。エルフ王、見た目は四十代の中年男性(日本基準)だが、全ての煩悩とは無縁だと言わんばかりの超然とした佇まいに俺は圧倒される。数百年の時を生きた人物に初めて会うが、京都の仏閣にも似た印象だ、変な例えだが。
ケルン氏はやや暴力的な匂いのするおっさんだと感じた。タカ派らしい。
クロの発言、つまりユウコワの受精について触れられた時、俺はルケン氏から目を逸らした。
気まずい。
しかしルケン氏の表情に変化はなく俺はホッとする。
王城へ泊まり、翌日は俺が喚び出せるものを要求され召喚する。エルフの技術者が多数集まり、色々と検証していく。『材料も技術も不明』と結論出していた。
エルフは長命ということもあり、やたらとのんびりしている。日本のサラリーマンだった俺からすると、調子狂うが仕方ない。
そして次の日。俺たちの処遇が告げられる。
まずはバストリア王国軍への打撃。
エルフ側としては人間が不可侵を守り続けてくれるだけでいい、その為にもエルフへ手を出すということがどういうことか、恐怖を刻んでほしいとのこと。
二週間に渡り、俺は七四式戦車の主砲を国境バストリア側、複数拠点へと撃ちこんだ。
人的被害は敢えて出さずにやった。下手な遺恨は残さない方がいい。
この恐怖体験も孫の代にはすっかり薄れていくだろう。日本の戦争体験の風化具合を見りゃわかるだろう?当事者以外にはそうそう伝わらないものだ。
バストリア王国から書状が届き、王位継承者が訪れた。亡くなった王の王弟が王位を継承するとのことだ。
ユウコワへの嫌疑は晴れ、第三王子並びに第二王妃の企てとして国内にも周知されたそうだ。
実質の首謀者である第二王妃は処刑され、加担した貴族家も処刑、貴族位剥奪の処分が下された。
その後、バストリア王国の王位継承者がエルフ王国へ訪問する際、エルフの女性は姿を見せないことが取り決められる。
国境近くに小さな家を国から賜り、俺とユウコワには生涯に渡っての国境警備を命じられる。婚姻は無し。エルフの純血を守る建前を優先した形だ。
ユウコワ・ベタノクフはただのユウコワに戻った。家の裏には王太子、第二王子、ベタノクフ家の墓が作られ、毎日彼らの冥福を祈っている。
「『……こうして神獣ニコフとユウコワは生涯を共に過ごしました』はい、おしまい」
「ねぇおばあちゃん、最後はどうなったの?」
「本には書かれてないけれど、おばあちゃんのお母さんから聞いた話じゃ、ユウコワが息を引き取ると同時にニコフの姿が消えちゃったそうなんだよ。召喚者が死ぬと神獣も消えちゃったんだねぇ」
「二人の子どもは?」
「それがねぇ、何も記録が残っていないのさ。なぁんにも」
「ふぅん。珍しいね」
「そうだねぇ。私らエルフの伝聞で記録が残らないってことはないからねぇ」
「私は今も森の中にいると思う」
「おや?なぜそう思うんだい?」
「なんとなく」
「ほほほ。そうかい。さ、夜も遅いからね、もうおやすみ」
「うん」
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しばらくは下記の連載作品に集中します。
俺が通ってた高校は魔境だった
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