第十五話 決着
拠点とした洞窟内で目を覚ます。
ユウコワはまだ寝入っている。
擬装の為、入り口に立てかけた木の枝をどかし、外へ出ると既に明るくなっていた。息は白い。
昨夜俺とユウコワは一つになった。後悔はない。
ユウコワの見た目が女子高生ぐらいだから、少し戸惑いはあったが、あの物腰から考えると見た目通りの年齢ではないだろう。
ユウコワを起こそうと洞窟の入り口へ振り返った瞬間、後ろから衝撃。
なんだ!?
これはネット?
続いて何本もの矢が突き刺さる感覚。
痛いなんてもんじゃない。
俺はきつく拘束されたまま倒れ込む。
数人の男達が現れた。
一人が俺を足で踏み押さえつけ、数人が洞窟内へ入って行く。
「ぐっ」
痛みでまともに声も出ない。肺にも刺さったらしい。
「魔女の相棒、大人しくしろ」
「ユウコワ……」
しばらくするとロープで拘束されたユウコワが連れ出された。
「こいつの命が惜しければ魔法は使わないことだ」
その瞬間。
何か黒っぽい小さな人影が見えたかと思うと、男達が声も上げず、血を撒き散らしながら次々と倒れ伏していく。
クロだ!
例の大鎌を携えている。拘束され動けない俺とユウコワの方を向き、無表情なクロ。
「エルフ、お前は昨夜この男の子種を授かった。お前達が神獣と呼ぶこの男とお前の子は歪な命を持つ。ヒトに邪魔はさせない。処分するのは私の役割」
どういうことだ?くそっ声が出ない。
「私が狩るのはこの世の調和を乱す許されない存在」
そういえばそんなこと言ってたな。
俺とユウコワの子どもがそうなるってことか。
なら。
「何故俺を狙わない?」
「お前に命はない。人の形に似せただけの傀儡」
「そうかい」
俺は人ですらなかったらしい。
それでも!ユウコワに惚れてしまったこの気持ちは本物だろうがよ。
「猫、やはり見張ってたのね」
「そう。その男とお前が契り、子を成す可能性があったから。お前はそれを狙ってた」
聞きたくないことがクロの口から語られる。
やめてくれ。もういい。
「ニコフ……ごめんなさい……私は」
「いい……俺は心が死んでた……ここへ来て色々あったが『生きる』ことを取り戻した」
念じる。喚び出す。身動きは出来ないが手のひらは自由だ。
クレイモア。
クロの真下。
雪の中。
点火。
耳をつんざく爆発音。
クロが吹き飛ぶ。
物理は有効だな。
「ユウコワ!このネット、網を切ってくれ」
二人を縛っていたものは消失する。
「逃げよう」
男達は恐らく第三王子の手の者。
なんてこった!とっくに捕捉されてたのか。
七四式戦車を喚び出す。
これならクロにも手出し出来まい。
乗り込むのに突き刺さったままの矢を強引に抜く。
激痛に次ぐ激痛。
だが息は出来るし、意識もはっきりしてる。
血もほぼ流れていない。
俺は人ですらなかったんだなと改めて実感する。
エンジンを始動。
第三王子の陣を目指す。
真っ直ぐ全速力だ。
大木じゃない限り障害物は無いに等しい。
よしっ見えた。
騎士や兵士を集めてるな。
色々なものが飛んできて装甲板を叩いてるが、びくともしない。
俺はガンナーの席へ移動し射撃準備をする。
「これで終わらせてもらうぞ」
発射。
爆炎が上がる陣。
もう一発。
陣が吹き飛ぶ。周りを固めていた連中は、巻き込まれて吹き飛ばされるか、散り散りに逃げていく。
俺は淡々と作業をこなす。
砲塔を後ろから追ってきたクロへ向け発射。
クロは粉々になった。
妖精か化け猫か不明だが、あれじゃもう追って来られないだろう。
ここに長居は無用。残った軍はエルフ王国に任せよう。そのまま国境の森を目指す。
「猫を葬ったのね」
「あれは結局何なんだ?」
「私達エルフは“調律する者”と呼んでる存在。滅多に見かけることはないけど。神に接触したのはエルフだけじゃなかった。獣もいたのよ」
クロとユウコワが初対面の時以外会話をほとんどしていなかった。今になって思い出す。
「警戒していたんだな、クロを」
「ええ」
「俺はもうユウコワに惚れたし抱いた。神獣抜きにしてもずっと一緒だ」
ユウコワは俺に縋り付く。
「私もよ」
女は強い。男よりずっと。その思いに浸りながら森の中をひたすら走った。