第五話 小火騒ぎ-4
〈夕映〉
パソコンの画面をいくつかクリックして、夕映は呟いた。
「やっぱり……」
騒ぎの後、家に戻り大急ぎでパソコンの前に座り最近の火に関連のある事件について検索した。
そこで、ある共通点を見つけた。
プリンターで関連画像を印刷して確認する。
間違いない。
「あとは、コンタクトを取る方法が……。いや」
確率の低い賭けだったが、またあそこに現れるかもしれない。
夕映は鞄に印刷した紙を放り込むと、そのまま学校に行くためいつもより早い時間に家を出た。
早い時間に出たのはある場所に寄るためだ。
着いたのは、昨晩の事件があった場所。爆裂する炎が燃え上がった現場。
そこに。
いた。
夕映は息をひそめた。
黒いスーツの男が現場検証をしている。
でも警察が一人で現場検証などするものなのか?
やはり、と思った。
その人物は先日会った安斎と名乗った男だった。
声はかけない。黙って尾行することにした。
しばらく着いていくとやがて街の中心部からはだんだんそれていった。
携帯電話で時間を確認して舌打ちする。
下手すれば学校に間に合わないが、今は非常事態だ。そんなことを言っている場合ではないだろう。
安斎はアパートに入って行った。
ここがやつの家なのか?
夕映は安斎が二階の部屋に入るまで、用心深くブロック塀の陰に隠れていた。
ドアが閉まるのを見計らって飛び出す。
二階に続く金属製の外階段を、なるべく足音を立てないように上がる。
欄干には鉄錆がういていて、階段は穴が空いてスカスカしている。
ボロいアパートだなと思った。角部屋に入って行った。
玄関の前に立つ。表札はかかっていない。
ごくりと、唾を飲み込んで夕映は立ちすくむ。
家の前にはチャイムがない。
仕方なくドアを叩こうとして夕映は後ろに影が立ったことに気づいた。
気配がなかった。
思わず振り向いたところに、男が立っていた。
青年、おそらく夕映と同年代くらいに見える。
だが、その顔は表情が抜け落ちており奇妙なほど無表情で。
目につくのはひたすら黒。
黒いツナギを着ていて、くせっ毛なのか少し波打った黒髪。いたって普通の顔をしていたが、その目だけが異様だった。
全てを吸い込むような漆黒の瞳。
まるで目のなかに闇を閉じこめた様な。
視線を外せない。
確信した。昨日出会った、あの目だ。
爆裂する炎を放った人物の目。
ゆらりと男が片手を上げた。
逃げなければ。夕映は直感的にそう思った。
けれど、体が動かない。
恐怖に足がすくんでしまっている。
その時、玄関が軋んだ音を立てて開いた。
「どこ行ってたんだ、那由多。お前」
安斎がいくらか気の抜けた声で言って。
「待て」
突然緊張した声を出すと、青年の手を掴んだ。
青年の手はまっすぐに夕映を向いている。
命を拾った。なぜかその瞬間そう思った。
「なにをしている?」
安斎は静かにそう言う。
「……安斎」
黒い目が安斎を映す。
「安斎、敵」
抑揚のない声がそう言う。
「君は……」
安斎は夕映の顔を見てなにかに気づいたように目を丸くした。
「この子は違うよ」
もう一度、静かに言って。
「その手を下ろしなさい」
青年は、安斎の顔をじっと見て淡々と言った。
「わかった」
くるりと背を向けて興味を失ったように玄関に入っていく。
「君も。なにか話があるんだろう。よかったら入りなさい」
安斎がそう言うので黙って夕映は従うことにした。
家に入る。
安斎が玄関を閉めた。




