ハズレスキル『パスワードの〇〇〇〇だけがわかる』能力を授かってしまった。
※『第5回なろうラジオ大賞』大賞を受賞しました!
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ある日、世界の様子は一変した。
理由はわからないが、世界中すべての人間がそれぞれ個別の『スキル』と呼ばれる特殊能力に目覚めたのだ。
凄いところでは『瞬間移動』や『念動力』、『精神感応』などを授かった人もいるが、少し便利なくらいの『普通スキル』や、ほとんど役に立たない『ハズレスキル』を授かってしまった人も少なくないようで──。
「おーい、田所君、ちょっと」
課長から声をかけられた。デスクに行ってみると、やはりPCにパスワード入力画面が表示されている。
「あと一回間違えたらロックがかかっちゃうんだよな」
「ああ、それは大変ですね。ええと、一文字目は──小文字の『p』です」
「あっ、そっちか! ──よし、いけた! いやあ、田所君、助かったよ」
「いえ、お安い御用です」
──これが俺のスキル、『パスワードの一文字目だけがわかる』という能力だ。
つまらない能力だと思うだろ? 実際、凄いスキルを授かった連中には散々バカにされたし。
特に『全てのパスワードを見抜く』川村からはかなり侮蔑された。当時つき合ってた彼女も、あっさり将来有望そうな川村の元に走っちゃったし。
でも就職してみたら、意外とこのスキルが重宝されるんだよね。一文字目さえわかればパスワードを思い出せるって人も多くてさ。
──ちなみに、川村は今、国防省の地下深くで働いている。
『全てのパスワードを見抜く』スキルは両刃の剣だ。ハッカーと連携すれば、敵国のどんな機密にもアクセスできるんだが──逆に、国や政府上層部、政治家の機密やスキャンダルも川村には絶対に隠せないのだ。
そういうわけで、川村は今ネット環境のない資料室勤務。国家公務員だが、外出には監視付きだし、情報機器に触ることも絶対に許されない。もう囚人だよなあれは。
元カノとどうなったかは知らん。
他にも『瞬間移動』能力者は、犯罪がやりたい放題になってしまうという理由で体内にGPSを埋め込まれ、365日24時間フルタイムで行動を監視されているそうだ。
当初は『大当たりスキル』と鼻高々だった連中は、早々に厳重な監視下に置かれ、かなり窮屈な生き方を強いられているらしい。
昼休み。課長がさっきの御礼にと、昼食に誘ってくれた。
楽しみだなぁ。課長のチョイスに外れなし。初めて入る場末の小さな定食屋でも間違いなく旨い。
──その辺を見分けるのが課長のスキルらしいんだけどね。
あんがい、ほどほどのスキルの方が幸せなのかもしれないな。