・第九話 ー異世界人の動きー
第九話
「異世界人の動き」
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○メーテリアside○
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<黒の伝令>クロウ。
私の所属していた黒剣軍に所属し、私と同じ主を頂きながら、しかし勇者様に最も信頼されていた、勇者の右腕。
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●山の中●
「クロウ…ですか」
私は部下数名と共に、避難所と呼ばれた要塞を見つめます。中々の要塞です。それに魔狼達もかなりの数いる様子。
「魔狼はあの子の使役魔獣だったのですね。てっきり、ルドルフ様の魔法か何かかと思っていましたが…ルドルフ様がそばに置いたのも分かりますね」
私はうんうんと頷きます。
「できれば、私達【黒翼軍】に参加して欲しいところですが、記憶を失っているそうですし…今は放置ですわね」
「メーテリア様、クロウ殿とは一体どのようなお方なのでしょうか?小官はお名前をお聞きしたことがなく…」
私は部下に視線を向けます。確か魔王軍との戦争後に軍人となった、若き士官だった男です。恋人を魔族の殺人鬼に殺されて、反魔族組織である黒翼軍に参加した、真の意味で反魔族思想のテロリスト。
「彼は勇者様の側使えのようなことをしていた男です。勇者様の言葉を代弁することも多かったので、<黒の伝令>と呼ばれておりました」
「<黒の伝令>、ですか?」
「ルドルフ様は彼に最も信頼を置いていました。料理から洗濯などなど…全ての雑務はクロウが行なっていました。彼以外の手が入った料理などは食べないほどでした」
「な、成程」
だが、ルドルフ様はクロウを決して戦場には出さなかった。あの日も…。
「ルドルフ様亡き後、クロウは行方不明になり、私のように反魔族活動をしていなかったためにヒューマン国家からもマークされてません」
「それが、記憶を失いこんなところにおられたと…」
色々と疑問は残りますが、今は追手に対応しなければなりません。
「それよりも追手の戦力は?」
「はっ…聖剣の勇者の内、光と炎。それと手勢が80ばかり」
「クロウにはああ言いましたが、私達の戦力は100名近くいます。しかし、その戦力の追手相手では分が悪いですね。一度街の中へ潜みましょう」
「はっ…このままでは追手が、クロウ殿のいる避難所に向かってしまいますが、よろしいのですか?」
「先程も言いましたが、クロウは反魔族組織に参加した記録はありません。指名手配もされておりませんので、放置していても問題ありません」
私達は街へと向かいます。
「我が姉妹よ」
「ミサですか。偵察の結果はどうですか?」
大ぶりのハンマーを持った我が妹…といっても義理ですが…が、私の前に現れます。彼女には偵察に出てもらっていたのですが。
「ところどころに強力な魔獣がいるけど、他は雑魚魔獣ばかり。問題は勇者の連れている手勢」
「有名どころがいましたか?」
「まあまあかな?異名持ちもいたけど、問題はーーー裏切り者がいたこと。そう、あの子だよ我が姉妹よ」
「ああ、あの子ですか」
私は目を細める。あの子は裏切り者だ。抹殺せねばならない。たとえ、昔は己の子供のように可愛がったとしてもです。
「とはいえ、我々はここに土地勘があるわけでもありません。今は拠点の用意が必要です。幸いにも建物は空いているようですし、お借りするとしましょう」
私達は街へと潜り込んだ。
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○メーテリアsideEND○
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●ゴブリンの城●
結果から言おう。太郎は失敗した。大敗した。不幸中の幸いなのは、魔狼数体の死亡と引き換えに、太郎が何とか生き残ったことだろう。
「す、すいやせん、叔父貴」
「かまわねぇ。それよりも外の夜叉達に合流しろ。邪魔だ」
「うっす、叔父貴‼︎」
太郎が魔狼に乗って走り去る。
「さて…」
魔狼に跨った俺は、抜いた剣を構える。
「(この城。思ったよりゴブリンが多い。外と合わせると100体近くか?)」
考えていると、魔狼の1体がゴブリンに炎の息吹を放ち、数体のゴブリンを焼き払う。まさに火炎放射器のようだ。
「(というか…)」
俺はゴブリンの死体からそれを手に取る。それは鉄製のナイフであった。
「(質は悪いが、武器の性能が上がってる。成程、最初の日のゴブリンよりは手強いようだ)」
俺は考え込む。
「(このまま焼き払うか?しかし、使えそうな物資とかは回収したい。いや、見たところそういうものはないか)」
俺に向かってきたゴブリン数体を、剣の一線で斬り捨てる。どうやら瓦礫の隙間に潜んでいたようだ。
「城って言っても、バリケードを積み上げただけだから、逆に隙間とかに隠れられると索敵が遅れるな。だが、まあいい。
ーーー精霊よ」
俺は精霊に呼びかける。
「 ≪ 黒い星光≫‼︎」
俺の影が周囲に広がり、その影からいくつもの黒く巨大な棘が突き出される。
「「「「ギャッ⁉︎」」」」
串刺しにされたゴブリン達が絶命していく。
「隠れた場所ごとやっちまえば、話は簡単だろ?なぁ?」
これで相当数のゴブリンを串刺しにしてやったはずだが、さてどうだか?
「…チッ、やっぱり親玉がいたか」
奥から現れたのは、俺の魔狼の首を片手でへし折る、重装甲の鎧を纏ったゴブリン。
「【重装ゴブリン】とでも呼んでおこうか?」
重装ゴブリンが剣を抜く。なかなかの大ぶりの剣。筋力次第では危険だな。
「さてはて、ゴブリンの剣術…どれほどの腕か試させてもらおう‼︎」
「ごぁああああ‼︎」
重装ゴブリンが上段から剣を振り下ろす。
「(パワーもあるし、筋力から無理矢理生み出される剣速は脅威だ。だが、それは、俺以外にならだがな)」
俺は剣を避け、避けた余韻を使ってそのまま重装ゴブリンの腹を斬りつける。
「む?」
切った感覚は柔らかい。確かに鎧は硬いのだが…。
「随分と隙間だらけの鎧だな?鎧の硬さを確かめるはずが、斬ってしまったぞ」
「ぐるぁあああ‼︎」
重装ゴブリンが咆哮を上げる。
ーーー残念だが、俺の相手としては役不足だな。
「精霊よ、≪ 黒い星光≫」
何十もの影の棘が、俺の広がった影から重装ゴブリンの肉体を貫く。しかも、隙間だらけの鎧の間を狙ってだ。
「グブッ⁉︎」
重装ゴブリンが血を吹き出して倒れる。まだ生きてはいるようだ。生命力は高いらしい。
「ふむ、かなり致命傷を負わせたはずだが…種族的特性か何かか?まあいい」
俺は重装ゴブリンの首に剣を這わせる。ゴクリと重装ゴブリンの喉が鳴る。
「いい戦士だった。誇って逝くがいい」
俺は剣を振るい。重装ゴブリンの首を刎ねる。血液が俺に降りかかる。
「チッ、返り血の上書きになっちまった」
俺は剣を振るい、剣についた血糊を払う。
「さて、残りは…チッ、逃げたか」
どうやら重装ゴブリンは仲間を逃す時間稼ぎをしたらしい。重装というよりはナイトの動きと称えてやるべきか?
「ふむ…この剣は使えなくもないな。他のも溶かせば使えるか?」
俺は魔狼達と共に鉄製の武器を回収する。粗悪品だが、再利用できるかもしれん。
「あとはここをどうするかだが」
俺は周囲を見渡す。
「防衛施設としてはお粗末だが、解体して資材として使える、か?」
ちょうどその時、建物の出入り口から数人の生徒が現れる。その中の1人に見覚えがあった。
「(【明石 二兎】。確か生徒会の一員だったか?)」
「ん…稲坂か。どうやらもうモンスターはいないようだな」
「ああ、ボスっぽい重装ゴブリンもぶち殺した」
「…成程」
明石が死体を確認する。
「あとは俺達が始末しておこう。稲坂は一度戻って休むといい」
「そうさせてもらおう」
俺は剣を鞘に戻し、その場を立ち去るために歩き始める。
「ーーー稲坂。お前を信じなかった1人の俺が言ってもアレだが。せめて一度、騎士宮と話し合ってみろ」
「フン…どうせ聞きたいこともできたしな。話はするさ(聞きたいことだけ聞いたら立ち去るがな)」
「そうか」
俺は今度こそその場を離れた。
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エンド
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