・第八話 ーそれぞれの勢力ー
書き溜めが無くなりましたので、投稿が間が開くかと思います。
第八話
「それぞれの勢力」
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山のある程度の間引きを終えた俺は、魔狼達に囲まれながら考え込んでいた。
「まどろっこしいことになってきたな」
思えば、幾つもの異常事態が重なった上で、今の状態がある。それぞれを個々に考えてみれば、意外と状況が安定するかもしれん。
「1つは異世界からの帰還問題。これは夜叉みたいな意識の関係の問題しかない。異世界の力に振り回されてはいるが、逆にこの状況では力があるだけマシだ」
ペットボトルで水を飲みながら、考えを巡らせる。
「2つは街中に溢れかえったモンスター共。さっさと救援が来ないことを考えると、かなりの広範囲。下手すると日本全国どころか、在日米軍が来ないことも考えると、世界中がこうなってるのかもしれねぇ」
つまるところ、俺達はもう元の生活には戻れない。
「3つはさっきの女の件。異世界人がこっちに来てる」
知らない自分を知る他人。
「はぁ、まさか夜叉の言葉に同意する日が来るとはな」
ここまで気持ち悪いというか、大きく違和感を感じるものだとは思わなかった。
「しかし、話した感じ、多少の齟齬がある」
俺は異世界で死んだ。だが、天音とメーテリアの双方を信じるならば、俺は2度の死を迎えたことになる。
「どういうことだ?しかも、メーテリアに至っては勇者が別にいると言う」
俺が相当変な動きをしていたか。もしくは、誰かが嘘をついている。
「詳しく話を聞いとかないといけないな」
可能性としては俺が変な動きをしていた可能性が高い。何故なら、俺のステータスに黒の聖剣とやらが記載されているからである。
黒の聖剣の勇者と共に戦っていたのに、俺がその聖剣とやらを持ってるのはおかしいからだ。
「うーん、今は戻るまで放置するしかないな」
俺は学園へと歩き出す。しばらく歩くと、なかなかの高さの城壁が見えてくる。マンション3階相当の高さだろうか?
「おー、案外上手くできたなぁ」
「おーい、兄貴こっちだ」
「ん?ああ」
夜叉達と合流する。
「ここが出入り口の一つだってよ。他にもいくつかあるらしい」
そう言うなり、先陣を切る夜叉と共に俺達は城壁の中へ進む。
「す、すごいな」
そこに並んでいたのは土で作られた屋根付きの家達であった。一部木造建築もある。
「避難民達の家にするみたいだな。まあ、テントも有限だしな」
「まあ、それもそうだ」
俺達は校舎へと向かう。
「それにしても、返り血で酷いな」
「風呂に入りたいが、水も有限だしな」
「あ?知らないのか?」
「何がだ?」
俺は何の話かと夜叉に問う。
「震災じゃないから水は使えるし、魔法使い共がプールを清掃して、大浴場として使えるようにしてるぞ?」
「なん、だと?」
俺は思わず膝をつく。
「と言っても、解放されたのが今日の朝だしな。昼間は俺らみたいな実行人員に優先的に解放してくれるらしいし、今から行くか?」
「…はぁ、そうだな」
俺は立ち上がりプールへと…風呂へと向かう。
「ん?避難民達も動員してるのか?」
見ると所々で避難してきた人々が、様々な作業にあたっている。
「まあ、流石に俺らだけじゃな。雑務くらいはやってもらわないと」
「それもそうだな」
見殺しにするのは寝覚めが悪いが、タダ飯を食わせる余裕はない。戦わない分、労働力を提供してもらわねばならない。
「避難民を動員して、一部山の土地で農業するらしいぞ?」
「今から始めてもなぁ。まあ、やらない方がマシかと聞かれれば、やった方がはるかにマシなんだが」
この山で採取できる食料は限られている。今からでも自給自足の体制を整えるべきではある。
…まあ、食えるようになるまで、食料が保つかどうかと言う問題があるが。
「つか、野菜の種とかどうしたんだ?」
「物資回収でどっかの隊が回収してきたみたいだぜ?おまけに、植物の成長を促進できる能力者もいるらしい。もう何でもありだぜ?」
「ああ。だが、首の皮一枚繋がったとも言える。俺は最低でも餓死は勘弁願いたいところだ」
しばらく歩いていると、校舎の手前で、モンスター達の死体が焼かれていた。
「(まあ、放置もできんよな)」
火の魔法を次々と生徒達が放っている。死体達は轟々と音を立てて燃えている。
「人間の死体」
「ん?」
俺の言葉に夜叉が顔を向ける。
「人間の死体はどうしてるんだ?放置する訳にもいかんだろう?」
「一応収容して一時的に保管して、腐敗が目立つ前には火葬するらしい。ただ身元が分からないのは身元不明で処理するしかないから、死亡者リストに乗らないな」
「行方不明者で処理か」
俺はため息を吐き出す。
「しかし、こんな状況だと相当の人間が死んだだろうな」
「まあ、な」
街に出ただけでも相当な死人を確認した。この街だけでも、人口の何割かは死亡しているだろう。
「そういえば、兄貴は家族はいいのか?今の兄貴なら魔狼と手下を率いれば、モンスター共なんてものの数ではないだろう?」
「あー、まあ、考えなくはなかったのだが」
だが、家族は俺を見捨てている。ならば俺が見捨てたとしても文句はないだろう。とはいえ、助けないのは寝覚めが悪い。
「積極的には助けには行かないが、見つけたら助ける。まあ、要は消極的救助が方針といったところだ。今無理すれば、この学園の安定も崩れる。特にこの魔狼の軍勢がな」
魔狼はこの学園の安全を確保している。俺が死ねば魔狼も消える。そうすれば、学園の生徒達が休む暇なく、モンスター達を警戒しなければならない。
「そう言うお前はいいのか?」
「あ?ああ、うちの実家はヤクザとか言われる連中だからよ。死んだらそれまでだ。何なら空いた席に兄貴をつけてもかまわねぇぜ?」
「それで、けじめのつけ方がヤクザっぽかったのか」
つか、価値観がマジでヤクザだな。
「ーーーた、大変だァアアア‼︎」
「「あ?」」
避難民のサラリーマンが俺達を横切る。それを夜叉が掴んで止める。
「おい、何が大変なんだ?」
「あ、ああ、山を降りたところに、急に城ができてるんだ‼︎その中からゴブリン共が…‼︎」
「おいおいおい‼︎マジかよ⁉︎」
つまり、この学園は街へと出る道を塞がれた事になる。
「クソがッ‼︎学園を封鎖したつもりか⁉︎」
俺は魔狼に乗り込む。
「アンタ‼︎他の連中にこの件を伝えろ‼︎」
「分かった‼︎」
サラリーマンが走り去る。
「兄貴、どうする気だ?」
「城を落とす。ついでに中にある物資は奪う。ゴブリン共は皆殺しだ」
「…いいね。前の九郎よりも、今の兄貴の方が俺好みだぜ」
俺と夜叉達は魔狼に乗り、そのまま駆け抜ける。
「ゴブリン共の城を落とせ‼︎皆殺しにしろ‼︎街への要衝を取り戻せ‼︎」
「「「「おう‼︎」」」」
城門から外へと出撃する。山の中に待機していた魔狼の一部が合流する。
「クソがッ‼︎情報が少ない‼︎一気呵成に勢いで押し切る‼︎」
しばらく走り抜けると、城が見えて…。
「あれが、城?か…?」
それは城と呼ぶにはあまりに不格好であった。そこらへんの壁やらなんやらを、適当に積み重ねただけの城。いや、どちらかといえば、バリケード山と言ってもいいものだった。
「まあ、確かに短時間で物資を考えるとあんなもんか。さっきのやつが叫びすぎだったってことか」
「叔父貴‼︎俺に任せてくれよ‼︎」
「あ?」
声のした方を見ると、夜叉の手下のチンピラのような男子生徒が手を挙げている。
「確か…【山田 太郎】だったか?」
「そうっす‼︎俺にやらせて欲しいっす‼︎」
「…まあいい。魔狼を10体付けてやるが、油断して殺されるなよ?ゴブリン如きに殺されたら恥だぞ?予想より強ければ一度引け」
「うっす‼︎」
太郎が魔狼達と城へ駆け抜ける。
「さて、夜叉…お前の手下の実力を見せてもらおうか?」
「あ〜山田はなぁ…」
「ん?どうかしたか?」
夜叉が渋い顔をしている。
「アイツは調子乗りやすくてなぁ。丸投げすると失敗しやすいんだよなぁ。まあ、その分悪運も強いんだが」
「えぇ…マジかよ」
いきなり不安なんだが?
「一先ず、俺らは周りのゴブリンを片付けるぜ。悪いけど、兄貴は山田の奴を見てやってくれ」
「はぁ…仕方ねぇなぁ」
俺はため息を吐き出して、ゴブリン達の城へと向かった。
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エンド
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