・第七話 ー客人ー
第七話
「客人」
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夜叉が俺にけじめをつけてから翌日の朝。俺は天音と数人の生徒達と話し合っていた。
「あ?学校の要塞化だあ?」
俺は顔を顰める。物資の少ない今やるべきことでもないし、元々ここは戦時中に要塞化を行われた学校だ。防衛力はある。
「うん、手狭になってきたから、学園の敷地を広げて安全なエリアを広げたいの」
「まあ、分からんでもないが…」
確かに、魔狼達のおかげで安全エリアは増えてるが、外で寝泊まりは流石に危険な状況。学園を要塞化して拡大すれば、難民達の寝床を確保できる。何なら農業くらいはできるだろう。
「しかし材料はどうする?要塞化なんてかなり必要だろう?」
「山を崩せば何とかなるわ。学園から上の土地は最悪無くても問題ないし」
「ゲームとかのアイテムボックス的なのは…無いか。それから物資回収の時に使ってるか」
「ええ、でも山の土を使えば問題ないわ」
俺は頭をかく。
「で、そのために人手がいると?」
「時間さえあれば、彼女がやってくれるわ」
俺の前に小柄な女子学生が現れる。
「【沼柴 雪】です。特殊アビリティは【魔力式建築術】。魔力と材料を消費して建築物を建築する能力です」
「成程。それなら手早くできるな。人手もいらねぇわけだ」
そう言う系統の能力者もいるようだ。
「ただ、建築完了まである程度の護衛が必要なの。モンスターの掃討をしなければならないわ」
「あー、成程。俺にもってことか?」
「うん」
天音が頷く。
「ーーーおいおい、兄貴がわざわざ出るまでもないだろぉ?」
「「「ッ⁉︎」」」
「ん?ああ、夜叉か」
屋上に数人の生徒を連れた夜叉が現れる。相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべている。
「伊賀街ッ‼︎」
「おうおう、お前は異世界で死ななかったんだな?騎士宮さんよぉ‼︎ギャハハ‼︎」
夜叉達が俺の後ろに並ぶ。
「何でアンタがッ⁉︎」
「手打ちってやつだよ。謝罪してけじめをつけたのさ。正式な儀式はまだだが、昨日から九郎の…兄貴の弟分になったのさ」
「せいぜい役に立てよ」
「勿論だぜ、兄貴」
夜叉が後ろを指差す。
「こいつらは俺の手下どもだ。兄貴の役に立ててくれ」
「ああ、分かった」
でっと、夜叉が天音に視線を向ける。
「兄貴が出るまでの話でもないだろ?お前らだけでやればいいじゃねぇか、なぁ騎士宮ぁ?」
「キサマぁ…‼︎」
天音達が夜叉に怒気を向ける。
「よせ、夜叉。今は非常時だ。落ち着くまでは協力すべきだ」
「分かったぜ、兄貴」
俺の声で夜叉が下がる。しかし、ニヤニヤとした笑みは隠していない。相変わらずの男だ。
「俺は狼どもで行く。夜叉、お前は手下を率いてモンスター共を掃討しろ。役に立つところを証明しろ」
「おう、任せてくれよ兄貴」
夜叉達がその場を立ち去る。
「九郎、何で…⁉︎」
「状況が状況だし、あいつはけじめをつけた。己で左手首を切り落とした。何故極道風なのかは分からんが、一応の手打ちは済ませた。これ以上いがみ合う余裕は俺にはない」
「…くっ、分かった」
天音達も立ち去る。
「さて、3日目か」
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●数時間後●
●学園のある山の中●
「行け、魔狼共‼︎」
「「「「ガウッ‼︎」」」」
俺の引き連れてきた魔狼達が、山の中に紛れ込んでいるモンスター達に襲いかかる。
「この辺りはゴブリンじゃなく、大バッタの群れのテリトリーなのか」
俺は剣を抜く。俺に向かってくるバッタを数体斬り捨て、さらに奥へと進む。
「ーーー≪建築≫‼︎」
「始まったか」
剣についたモンスターの血液を、剣を振って振り落とす。
「精霊よ≪ 黒い流星≫」
黒い光が集まり、漆黒の弾丸となって、バッタ共を周囲の木々ごと貫く。
「流石昆虫。数だけは多いなぁ‼︎」
漆黒の弾丸を凌いだバッタが俺に突っ込んでくる。そのバッタを縦に両断する。
「だが、モンスター単体としてはゴブリンより格下。数だけの烏合の衆」
小さめのバッタを踏みつけ、そのまま全力で踏み抜く。俺の足と顔に返り血が付着する。
「脆いな」
俺は片手をバッタ達に向ける。
「ーーー≪魔狼召喚≫」
俺は何度か≪魔狼召喚≫を行う。数には数だ。
「≪魔狼召喚≫…って、こいつか」
俺の背後に、全長が一軒家ぐらいはありそうな魔狼が召喚される。【クイーンウルフ】。全属性の魔法を使える上に、それなりの魔法耐性を持っている。言うなれば魔法特化型の魔狼だ。
「火と雷は使うな‼︎風やら水やらを使って制圧しろ‼︎山を焼くな‼︎」
「ガウ‼︎」
まだ魔狼達の数の方が少ないが、圧倒的戦闘能力の差でバッタ達を圧倒している。
「せめてもう少し手応えがあれば、少しは楽しめるんだがな」
「ぎ」
背後から襲いかかってきたバッタの首を、一線の元に切り落とす。プシュッと俺の顔に返り血が掛かる。
「チッ、クソが。汗でさえ水に浸したタオルで済ませてたのに…風呂入りてぇな」
その時、一番弱い魔狼【ビックウルフ】が俺の横を通り過ぎる。まるで吹き飛ばされたような速度だ。いや、吹き飛ばされたのだ。
「バッタにも親玉がいるってか?しかも3匹とは豪勢だ」
現れたのは真っ赤な紅蓮の大バッタ。おまけに普通の大バッタの2回りは大きい。
「≪身体強化Ⅲ≫」
身体中に力がみなぎる。先ほどの≪ 黒い流星≫の精霊術とは違う、騎士系ジョブの身体強化系の技。
「せいッ‼︎」
ボスバッタの1体の首を斬り落とし、返す刃で、もう1体の左側の足を全て斬り落とす。
「でぇい‼︎」
「ぎぃい⁉︎」
そのまま剣をボスバッタの体に突き刺し、まだ無事の最後の1体に手のひらを向ける。
「≪ 黒い流星≫」
黒い弾丸が、次々とボスバッタを貫いていく。
「ふぅ…ん?まだ生きてたか」
俺は剣を抜いてそのまま剣を振るい、ボスバッタの最後の1体の首を落とす。
「これで終わりか?お前ら、他にいないか山の中を探せ」
「「「「ガウッ‼︎」」」」
魔狼達がさらに奥へと進む。
「…戦いも慣れてきたな。だが、どこかまだ違和感があるな」
指の関節をコキっと鳴らす。逝った関節も全く問題ない。流石回復魔法というところか?
「これが死ぬ前までの俺と今の俺の差か?」
今の俺の戦闘能力は異世界の俺の戦闘能力だ。しかし、その戦闘能力を育て上げた経験が俺にはない。つまるところ、経験に見合わぬ戦闘能力を無理矢理行使している状態だ。違和感が出てもおかしくはない。
「おい」
「ワフ」
魔狼の1体を呼び寄せ、その背に乗り込む。
「(というか、原付よりも魔狼に乗った方が、山の中の走破なら楽なのでは?)」
山の中を魔狼達が走り抜ける。途中何度か現れた、大バッタやゴブリンが魔狼に食い殺されてゆく。
「ん?何だ?」
魔狼達が足を止めていたのでその前に出ると、そこにいたのは武装した白人の妙齢の女であった。大鎌を持っているのが特徴的だ。
「ーーー【クロウ】?クロウではないですか」
「あ?誰だお前」
俺は魔狼から降りて、女の前に出る。動きからするとあの助けた母親よりも戦闘慣れしている。正規の軍人よりも戦い慣れしているだろう。傭兵とか言われた方がわかる。
…ってか、何故に鎌?
「誰って、【黒剣軍】の【メーテリア・ゼヌイ】ですよ。顔を忘れたのですか?まあ、最後に会ってから5年は経ってますが…え?クロウですよね?」
「俺は確かに九郎だが、お前みたいな外人を俺は知らないぜ?」
俺は女…メーテリア?を睨みつける。
「人違い?でもその鎧は、クロウが使用していた黒剣軍の鎧。間違いはないはず…」
「まさか、異世界人か?」
俺は剣を構える。
「異世界人?貴方は一体…」
「俺は異世界で死んだらしくてな。その時に記憶を失ったらしくて、異世界の記憶はないんだ。だから悪いが、アンタが今の俺にとって敵か味方か判断がつかん」
「ああ、もしかして貴方も【ルドルフ】様…<黒の聖剣の勇者>様と共に戦ったのですか?」
「ルドルフ?」
というか、黒の聖剣って俺のじゃ?
「私は別戦線で戦っていたのですが、ルドルフ様は魔王軍との和平派に嵌められ、率いていた反魔族思想の手勢と共に全滅させられました。死亡者リストにもなかったので、てっきり逃げ延びたのかと…ルドルフ様に殉じたのですね。失礼しました」
メーテリアが頭を下げる。
って、え?もしかして、こいつ俺が戦場から逃亡した逃亡兵的に思われてた?
「チッ、まあいい。それでアンタはどういう経緯でここに?」
「相変わらずの口調ですね。一応黒剣軍では私の方が上官だったのですが」
ごほんとメーテリアが空気を変える。
「いえ、反魔族団体として活動していたのですが、変な遺跡を隠れ拠点にするため調査していて、気が付いたらここに…」
「成程。事故か何かか。で?どうする?」
俺はメーテリアに問いかける。
「一先ず俺についてくるか?少し先の学園が避難所になってる」
「避難所?」
「ああ、今ここら辺はモンスターが突然現れて、大混乱の最中でな。一般市民を受け入れてるんだ。今は学園を要塞化させている最中だ」
メーテリアが考え事をしている。
「…いえ、少し周囲を調査します。同じ主を仰いだ貴方は信用できますけど、その他の連中は信用できませんから。信用できる貴方も記憶を失ってますし」
「まあ、な」
俺は頭を掻く。
「ああ、そうそう…私の部下が数名この世界に来てるかもしれません。貴方の顔を知ってるのは1人…<黒鉄>【ミサ・ゼヌイ】だけです。貴方は良くも悪くも無名でしたから、ミサ以外の構成員は貴方を知りません」
「…分かった。気をつけておこう」
女が立ち去る。
「ますます訳が分からなくなってきたな」
俺はため息を吐き出した。
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エンド
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