・第三話 ー生存者ー
第三話
「生存者」
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公民館は講演会や市民の交流の場として、それなりに大きく作られた場所だ。図書館も小さいながら併設されているほどだ。とはいえ、勿論限度はある。
「生存者は…これだけなのか」
捜索の結果見つかった生存者は、僅か18名。図書室に立てこもっていた人々くらいだった。
「よし、生存者と物資は車に乗せて、我々は後に続くぞ‼︎走れ‼︎」
「ちっ、無茶を言うな」
ゆっくりと速度遅めで走る車の後を、俺達は小走りで追いかける。落伍すればあるのは死だろう。
「(だがまあ、この速度なら問題ないか)」
しかも弓を使う生徒が、車などの上から周囲を警戒している。何とかなりそうだ。
「ぉおおい‼︎俺達も連れて行ってくれ‼︎」
「ん?」
声のした方を見ると、ゴブリンに追われている少数の人々がいた。俺は一度舌打ちすると、片手で剣を抜き、片手で鉄串を数本取り出す。
「こっちに合流しろ‼︎走れ‼︎」
俺は叫ぶと同時に、全力でゴブリンに鉄串を放つ。流石に距離があるためか、鉄串はゴブリンの急所には刺さらなかったものの、足止めには成功する。おまけに、追撃に弓を使う生徒の放った矢が、次々とゴブリンを始末していく。
「もう追加で乗るスペースはない‼︎死にたくなければ走れ‼︎」
「ち、ちくしょう‼︎」
「い、急げ‼︎」
「し、死にたくない‼︎」
俺達は全力で学校へと向かう。
「早く入れ‼︎」
正面の校門ではすでに校門が開いている。しかし、背後からはゴブリンの一団が迫っている。
「あっ」
そんな時ほどそういうことは起きる。生存者の1人が、足をもつれさせて倒れそうになる。
「ちっ‼︎」
「ひっ⁉︎」
俺はその生存者の襟を掴み、転倒を防いでそのまま走る。小柄なお陰か、速度は多少落ちるが、何とか走れないこともない。
「ぐぇ」
「死ぬよりマシだろ‼︎」
校門の中に逃げ込んだ俺は、生存者をその場に下ろし、校門の外を向く。どうやら弓矢を使う生徒達の矢で、それなりの数を殺したらしく、ゴブリン達が引き返すところであった。
「校門を閉めろ‼︎」
校門が閉まる。俺はその場に座り込んだ。
「ふぅ…痛ッ」
痛みが走った左手を見ると、中指がありえない方向に曲がっていた。どうやら生存者を持ち上げた時に、指の関節が逝ったらしい。アドレナリンでも分泌されているのか、痛みは今は薄い。
「クソがッ…」
俺は左手を押さえたまま、痛みに耐える。今は状況確認を優先する。
「怪我人、は?」
「ん?大した怪我人は…ってお前その手⁉︎」
「ああ、生存者を助ける時にな。保健室に行ってくるから、あとは任せても構わないか?」
「もちろんだ。早く見てもらって来い」
俺はその場を離れ、保健室へ向かう。
「保健室は職員室の隣だったな」
俺は保健室の中へと進む。ベットは怪我人が寝ており、臨時で作られたベットもあった。
「ふぅ、ようやく落ち着いたわね。あら、君は?」
「すみません、指の関節がやられてしまって、治療をお願いしたいのですが…」
俺が左手を見せると、女保険医が真剣な表情で確認する。
「ちょっと痛いわよ」
「痛っで‼︎」
指を握られたかと思うと、ゴキリと一気に関節を戻される。激痛が走る。
「はいはいはいっと」
「ぐっ…」
サラサラっと処置を受ける。しばらくすると添木で支えられた、包帯ぐるぐるの指が完成していた。
「それでしばらく休んでなさい」
保険医が他の生徒達の様子を見に行く。俺はそれを横目で見て、床に座り込む。
「はぁ…」
少し落ち着くと同時に、激しい眠気が襲ってくる。緊張の糸が切れたようだ。ものすごく眠い。
「少しぐらい構わないだろ」
俺は短い眠りを取ることにした。目を閉じて、ゆっくり意識を落としていく。
「(起きたら、色々やらない、と…)」
そこで俺は意識を失った。
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「ーーー君、起きて」
「うっ…」
声で目覚めた俺は周囲を見渡す。保険医が起こしてくれたようだ。
「寝てる間に、何かありましたか?」
「何人か生存者が逃げ込んできたくらいね。それよりも、手どう?」
「え?…ん?」
手を動かしてみると、痛みはない。普通だ。
「俺って関節逝ったはずじゃあ…」
「さっき杖持った女子生徒が来て、魔法みたいなの使って、全員治療して行ったのよ。もちろん貴方もね」
「は?魔法…ですか?」
俺は訝しむ。何言ってんだ?この人。
「それよりも、問題ないなら包帯とか解いて、火をつけるのを手伝って。夜になる前にやらないとまずいわ」
「は、はい」
俺は保健室を後にし、校庭へと向かう。
「(火と言ってもなぁ…分かってんのか?)」
生木を燃やすと大量の煙が出る。薪にするにはそれなりの時間がかかる…らしい。
「(…というかよ)」
俺は素朴な疑問を頭の中に浮かべる。それはある意味で俺らしい疑問であった。
「ーーーいつまで、協力してればいいんだ?」
力ある者の義務として、モンスター共と殺し合った。だが、これ以上の協力は、義務以上ではないだろうか?
「そうだ。馬鹿馬鹿しい。戦っただけで十分だろ」
俺は行き先を校庭から屋上へと変更する。
「(部室の物資も運び出してたみたいだし、俺は俺で自由にして構わんだろ)」
義務を果たした以上は、もう自由にしても問題ないはずだ。
「っと」
ドアを開けて屋上に出ると、すでに太陽が沈みかけていた。どうやらかなり眠っていたようだ。
「よっこいせ、どっこらせっと」
屋上に放置していたバックを手に取り、雨が降った時ように隠しておいたビニールシートを屋根代わりに張り、地面にも広げる。
「これで一先ずいいだろう」
俺はビニールシートに横になり、バックを枕がわりにする。地面が硬いが、何とかなるだろう。
「ちっ、鎧が硬いけど、奇襲された時がなぁ」
ーーーその瞬間、俺の胸元が光り輝く。
「な、何だ⁉︎」
俺は胸元を探ると、出てきたのは漆黒のプレートであった。それには文字が刻まれていた。
『一定時間の経過により、ステータスを解放します』
[名前:穂坂 九郎]
[種族:【ハイ黄色系ヒューマン】]
[種族レベル:Lv58]
[ジョブ
・1st:【魔狼少将:Lv88】
・2st:【暗黒精霊騎士:Lv30】
・3st:【暗黒暗器使い:Lv80】]
[特殊アビリティ
・【ウルフキングダム】
魔狼系モンスターを召喚および使役できる。また、使役している魔狼系モンスターは体内に収容可能。または、宝石化させて他者に持たせる事も可能。召喚される魔狼系モンスターはランダムである。
・【黒の聖剣】
黒属性を与えられた聖剣]
[祝福
・【女神ヘルテーの異界人勇者】
・【黒の聖剣の勇者】
・【漆黒精霊女王の加護】]
「何だこりゃ?」
しかし、何となく理解できてしまう。ここに刻まれているのが、どうやら俺の現在のステータスであるということが。
「こう、か?」
俺は片手を前に伸ばし、その言葉を唱える。
「ーーー≪魔狼召喚≫」
俺の正面に黒い光が集まり、確かな体格の狼へとなっていく。
「これが、俺の力…か?」
俺は思わず笑みを浮かべる。
「くくく…あははははは‼︎最高じゃねぇか‼︎」
「くぅん?」
召喚された魔狼…【フレイムウルフ】が不思議そうな顔をしている。
「いや、何でもないさ。一度戻れ」
「ワフ」
フレイムウルフが黒い光となって、俺の体内へと消えていく。
「これで、俺の戦力はフレイムウルフが増えたってわけだ。悪くねぇな」
そこで俺は思いつく。昔テレビで見たあれが出来るのではないか?と。
「≪魔狼召喚≫」「≪魔狼召喚≫」「≪魔狼召喚≫」「≪魔狼召喚≫」「≪魔狼召喚≫」
何度か召喚を繰り返すと、目的に合いそうな魔狼が召喚される。その名は【ビックウルフ】。俺とほぼ同等の体格の、巨大な狼である。
「すまんが、枕になってくれ」
「ワフ」
俺はビックウルフを枕にして眠り始める。少し硬いが、さっきよりもかなりまともだ。
「…すぅ…すぅ…」
「くぅーん」
俺は眠りについた。
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*********
「んあ?」
目を覚ますと、太陽は完全に沈んでおり、屋上は暗闇に支配されていた。しかし不思議なことに、かなり夜目が効く。暗くても周囲がよく見える。
「これもステータスとやらの恩恵か?まあ、今更どうでもいいが」
その時、ぐぅううと腹がなる。
「夕飯の時間だが…」
地上を見下ろすと、松明が焚かれ、武装した生徒達が警備にあたっている。
「さっさと屋上に上がってきて正解だな。さて、飯をどうするかだが…」
「バフ」
「んあ?」
振り返ると、いつの間にかいなくなっていたビックウルフがおり。その口にはウリ坊が咥えられていた。ポタポタと血液が垂れており、ぴくりとも動かないため、明らかに絶命している。
「狩ったのか?よくやったな」
「ワフ‼︎」
返事をしたビックウルフが、ブンブンと勢いよく尻尾を振るう。ビックウルフの頬を撫でてやると、さらに嬉しそうに尻尾を振る。
「解体は数度したことがあるが、まだ出来るかな?」
師匠との修行の日々を思い出しながら、俺は鉄串の入ったポーチからナイフを抜く。大きさはそうでもないため、解体に手間はかからないだろう。
「頭は食いちぎられてるか。まあ、楽だからいいか」
近くを見渡すと、掃除のための水道と、掃除用のブラシとバケツを発見する。
「まだビニールシートはあったな」
水道の近くにビニールシートを広げ。その上で作業を始める。手早く済ませよう。
「ほいほいほいほいっと」
ナイフを走らせながら、俺はふっと考える。
「(久しぶりの解体なのに、サクサクと解体できる。やはりおかしい。俺の技能が本来以上にある)」
まるで、この身体が俺の知らない経験を積み重ねたようだ。正直気持ち悪いが、現状マイナスの事態は起きていない。
「っと、思ったより早く解体できたな」
ウリ坊の解体を終えた俺は、内臓などの入ったバケツを脇に置き、調理にかかる。
「フレイムウルフ」
「ワフ‼︎」
俺の体からフレイムウルフが現れる。
「(何故だかフレイムウルフの知識もある。それによれば、フレイムウルフは炎の魔法を使える)」
つまり、フレイムウルフをコンロの火代わりに使うのだ。
「ここら辺に火を出してくれ」
「くぅん」
そういう使い道じゃないんだけどなぁという顔をするフレイムウルフが、口から炎を吐き出す。大きさ的には焚き火レベルだ。どうやら手加減して出しているようだ。
「よし」
鉄串で固定したウリ坊を火の前に置く。じっくり火を通そう。
「‥1体だと少しきついか」
「くぅん」
俺は再び召喚を行うと、1発でフレイムウルフが召喚される。ガチャ運がいい日のようだ。
「交代交代で焼いてくれ」
「ワフ」
交代交代で、フレイムウルフ達が炎を吐き出し、ウリ坊の肉に火を通していく。美味そうな匂いがしてくる。
「しかし、さてはて」
俺は少し考え込む。ひと段落つき、ようやく落ち着いて、状況を考える事ができる余裕ができたからだ。
「(街にはモンスターが溢れ、俺達は変な武装に力を持った。うん、訳がわからんぞ)」
まあ、不幸中の幸いなのは、力を保有しているということだ。これならモンスター達に抵抗はできる。
「(ステータスの勇者やら女神やらは気になるが、まあ考えたところで仕方ないだろう)」
現状の問題は物資である。自衛隊を含め国が救助に来るまでの物資だ。助けがいつ来るか分からない以上は、備えが必要だ。
「(ちっ、仕方ねぇな)」
俺は覚悟を決めた。
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エンド
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