ドルイド、湖の巫女
第十三話 ドルイド、湖の巫女
その日、マーリンは小屋でぼんやりテレビを見ていた。
テレビではテニスについてニュースをしている。
テーブル上には親指トムがいる。
二人で、だべりながら話した。
「グウェンフィヴァルって肉っていうより魚って感じですよね」
「ああ、ですね」
「アーサー、溶けるチーズを生で食べる癖があるんですよね」
「アーサー王って料理、上手い方ですよね」
「エクトールに育てられた頃、良く料理させられてましたからね。今もわりと料理してますよ。トム。今日は子供達にどんな話をしました?」
「はい。アーサー王が小さい頃、湖水地方のカーライル城におられた時代の話を。
共に妹として育ったグウェンフィヴァル様……その頃、名前はモルガンでしたね。湖から、魚の騎士が現れて、当時『麗髪の姫君』と呼ばれていたモルガン姫が襲われそうなのを、短剣で魚の騎士を倒した話をしました」
「あー、いいセレクトですね」
「前は、アーサーに惚れてしまったアラーンというアイスランドから来た、あの世の女性の話をしました。結局、他に彼氏を作ったと」
「そんなこともありましたね。そういえば最近、カーボネック城の冒険の扉から、アメリカ大陸の癒しの泉に行けるようになったんですよ。良かった」
そこへ、普段着姿のアーサーとケイが小屋に入って来た。
「主人公どうなった?」
「反対勢力の手の者によって罪を被され、拷問され、宮廷を追放されたんですけど、いい人に拾われて、賢い大人に成長しました」
「世孫様どうなった?」「見た方がいいですよ」
ケイは、ヤキモチを焼くキャラを見て「僕はそれほど酷くないな」と呟いた。
マーリンの小屋の中では、水槽の中に鱗まみれのヘチという生き物が眠っていて、猪トゥルフ・トゥルイスが欠伸をしていた。
窓からは、長い栗色の髪に星のピアスのグウェンフィヴァルと、短く青い髪で白い鎧の女のガラハッドが話しているのが見えた。
「あの二人って少し似てますよね。アーサーと男のガラハッドも何だか似てますし」
「……うん。そういや、さっき十二世紀のウィンチェスターから来たって司教が謁見の間に来たんだけど、手を閉じて開いて蝶を出す手品を教えてあげたよ」
「帰り方教えて、汽車に案内しました?」
「まあね」
「前はヴィンランド…北アメリカから男の子が来て、帰って行きましたね」
また、マーリン小屋に誰か来た。モルドレッドだ。最近は、彼もマーリン小屋に来るようになった。
「父上、またダラダラしてるんですか」
「お前もテレビでも見たら」
マーリンは陶磁器のカップに茶を入れて、焼き菓子を出した。
「これはどこの国の話ですか?」
「ずーっと東の土地の話です。朝鮮王国ですね。褐色の人々が住む砂漠の土地の向こうにある、黒髪の人々が住む土地ですよ」
そこへ、グウェンフィヴァルと女のガラハッドがやって来て、一緒にテレビを見た。
ガラハッドが「何で長女って、やな役割が多いんですかね」と言った。
二人でフクロウのピュタゴラス二世にもふもふしていた。
やがてドラマが終わり、他の恋愛ドラマが始まった。
「トム。今度はどんな物語を子供達に話すつもりですか?」
「そうですね。アーサー王が海底都市や天空城を旅した話でも、しようかと思ってます」
マーリンはその旅路について、懐かしく思い出した。
邪竜教団の残党が潜伏しているというので、アーサー、マーリン、グウェンフィヴァルにガラハッド、グウィオン、リュネットとニムエが同行した。 ヴァレリンは研究で忙しいらしかった。一行はキャメロット駅から、時空を超える銀河鉄道の汽車でアトランティス近海駅まで乗った。
アトランティス近海駅は、四方を海に囲まれ、汽車は長いこと海の上を走っていた。
一行が降りるとまた、海の真上を走り去って行った。
アトランティス駅は小さな無人島状態の駅で、地面からは階段が海中へ続いていた。
「水竜の血を引く僕達ドルイドや湖の巫女は水中も歩けますが、アーサー達は潜水服が必要ですね」
マーリンはそう言うと、懐から小さなカプセルを出して、地面にポンと投げた。
カプセルからは、ズッシリした潜水服が何着か現れた。
「ドルイドの特別購買所で買いました。余りに強力だったり進んだ兵器や魔法、道具などは『時代保護条約』で、厳しい許可を得ないと使用出来ません。僕が入手出来たのは十九世紀の潜水服です。でも、かなりの水圧にも耐えられる、いいものですから安心して下さい」
アーサーと女のガラハッドは、潜水服をゴソゴソと着出し、半分はマーリンがチェックして着させていた。 潜水服は重く、ゴム製で鎧みたいだった。
手袋を嵌め、金属製の丸いマスクを頭に被りネジを嵌め、背中にルーケロール装置を背負った。
「これ、重いよ」
「重いですね」
潜水服姿のアーサーとガラハッドを連れ、一同はマーリンを先頭に海へ続く階段を歩いた。
「ゆっくり行きますよ」
海底は日の光が降り注ぎ、様々な色の珊瑚や、岩や貝や海草やイソギンチャクが揺れ、魚達が往来していた。クラゲの群れが横切って、ヒバマタや海カズラはまるで海底の森だった。
巨大海老やクモガニを避けながら歩いていくと、石を積み、組み合わせた遺跡のようなものが見えてきた。崩れ落ち、藻が生えたアーチに円柱に神殿。
「ここが、失われた大陸?」
呼吸音を響かせながら聞く潜水服姿のアーサーに、ニムエが頷いた。
ニムエはウェーブのかかった金髪で顔の片側を隠していた。
「そう。私達、湖の巫女やドルイドは何度か来たけど、まだ最奥まで到達出来ないの。入り口があるからついて来て」
ニムエはそう言って、荒廃した神殿の奥へ入っていった。 リュネットとグウィオンが無口についてゆく。マーリンが「行きましょう」と促した。
崩れた神殿の内部は、地上から差し込む光が揺れ、小魚が泳いでいた。石の扉があって、その中央に赤い石が嵌め込まれている。ニムエが何か唱えると、赤い石が眩い光を放った。
そして、石の扉が全体が鏡のように変わり、皆の姿を映し出した。
「さ。これで中へ入れるわ。ついてきて」
ニムエに言われて、一行は鏡の扉に次々に足を踏み入れた。
中は水はなく、空間だった。ぼんやり薄暗いが、古代文明の彫刻が刻まれた円柱やアーチが見えた。
「もう、潜水服を着なくても平気よ」
ニムエに言われ、アーサーとガラハッドはマーリンに手伝って貰って潜水服を脱いだ。
「つ……疲れた」
「あー、着たり脱いだり大変だ。…ここが失われた大陸アトランティス?」
「そう。ここはその、古代文明の知識が詰め込まれた神殿よ。気圧は地上と同じだから安心して」
ニムエは金髪を掻き上げ、続けた。
「アトランティスが沈むとき、彼らは咄嗟に、あちこちに結界を張った。まだ、私達は全て足を踏み入れてるわけじゃない。未知の領域が沢山あるわ。結界を解く方法も研究中だし。私達がいるのはまだ全然手前。もしかしたら、生き残った古代アトランティス人が暮らす領域があるかも知れないわね」
リュネットが、腕を組んでアーサーに言う。
「あたしはあんまりだけど、グウェンフィヴァルやグウィオンは、マーリン様やニムエ様と何度か来てるんだ。一番良く来るのはヴァレリン様だけどね」
グウィオンがリュネットに頷く。
「僕達、ドルイドや湖の巫女にとって、何よりありがたいのは…中央神殿の図書室です。様々な知識が詰め込まれていますから」
「本ですか」
ガラハッドが興味を示したみたいで、グウェンフィヴァルが言った。
「私も良くここのお世話になるのよ」
一行は、ニムエの後をついて、図書室に足を踏み入れた。
その部屋は筒状、四方八方に本棚が並んでいた。本棚はずっと上まで続いていて、何階ごとかに区切られ、それぞれの階に柵と手すりが張られ、階段が置かれていた。
天井は全く見えない。アーサーも、興味深げに本を手に取った。アーサーが手に取った本には、恐らくはずっと未来の、人間が培った技術の話や絵が描かれていた。
「今は取り敢えず、邪竜教団の残党の潜伏場所を探しましょう」
マーリンの言葉に、一同は一旦、図書室を出て、神殿の廊下から外の街に出た。
目の前には、すっかり廃墟になった古代文明の大陸の街が広がっていた。…だがここもその一区画に過ぎない。
街に入ると、突然、四足の蜘蛛のような白いロボットが何体も襲い掛かってきて、皆で倒した。アーサーとガラハッドは剣で。マーリン、グウェンフィヴァル、ニムエ、リュネット、グウィオンは魔法で。
「何だよこれ」
「前はいなかったんだけど」
アーサーとグウェンフィヴァルの言葉に、ニムエが説明する。
「邪竜教団の残党。大司祭とサロメって魔女が潜伏してるの。あいつらが、あちこち弄って、古代のロボット展……機械人形達に、自分達以外の侵入者を排除するように命令してる」
「つまり、こいつらを倒して、邪竜教団の大司祭と魔女を倒せばいいんだな」
「そう」
マーリンは「問題はここです」と、街の隅に聳える塔を指差して、皆を連れて塔に入った。
塔に入ると、警報が鳴り響いて巨大な白い機械人形が、剣を手に襲い掛かってきた。
女のガラハッドは男の方を呼んだ。
「何、僕もやるの」
「経験値稼ぎ」
「はいはい」
そして、一瞬で二人が倒した。
失われた大陸の一区画……大神殿の街の片隅にある、石造りの塔。
その最上階に邪竜教団の大司祭と魔女サロメがいた。石造りの塔の最上階は、真っ暗で、ただ、真ん中に巨大な水晶が浮かび上がり、光を帯びていた。
「この石が命令装置なのだ。この石に呼び掛ければ、機械兵達を操作出来る。ここまで使いこなすのには苦労した」
「でも、やられてるじゃない。仕方ないからあたしが行くわよ」
そう言うと、魔女サロメは転移呪文を唱えて、フロアから消えた。
アーサー達は、白い機械兵を倒しながら塔を登って行った。マーリンは控えて戦闘に参加しないようにしていた。女のガラハッドは、人型で剣を持った白い機械兵を斬りつけながら男の方に聞いた。
「大丈夫?」
「うん」
やがて、広いフロアに出ると、機械兵はどこにもいなかった。
女が一人立っているだけだった。
「貴方は……邪竜教団の幹部、サロメですね」
女は「フフッ」と笑うと、パチンと指を弾いた。
すると、巨大な白い機械兵…今までよりもずっと大きな奴が四体も現れた。
皆で勢いに任せて機械兵達と戦った。
アーサーと二人のガラハッドは、機械兵達の剣劇を避けながら斬りかかる。
リュネットは皆の速度を上げる呪文を掛け、グウィオンは機械兵達の時を止めたり闇の魔法を掛けた。グウェンフィヴァルは皆に言った。
「あの魔女は私に任せて」
そう言うと、アリアンフロッドの杖でサロメを狙って青い炎の呪文を唱えた。
「あんた達、何でこんなことするのよ」
「知らない。つまんないからよ」
「あんた、パーシヴァルの従兄弟の首を斬って、盆に乗せてたっていう魔女ね」
「ええ、そうよ。私はグロスターの魔女」
サロメは笑いながら、長い杖を振って幾つもの炎を出し、グウェンフィヴァルを狙うが、グウェンフィヴァルは滝の呪文を唱えて水の壁で炎を掻き消した。
そしてすぐに、嵐の呪文を唱えてサロメを吹き飛ばした。
間髪入れずに、グウェンフィヴァルはまばゆい熱光線の呪文で、サロメを貫き、サロメは、血をボタボタ吐いて倒れた。
「……何、あんた……何でこんなに…高等魔法ばかり…あんた一体」
グウェンフィヴァルは黒い髪に赤いドレスでアリアンフロッドの杖を手に、サロメを見下ろして言った。
「……私は、アヴァロンの女神。アヴァロンのあるじ。魔法なら私は、マーリン様よりも誰よりも上なのよ。申し訳ないけど」
アーサー達も三体の巨大機械兵を倒して、グッタリしていた。
壊れた機械兵から、コードや細かい機械がパチパチと電流を迸る。
グウィオンの氷魔法の凍り付いた跡や、ニムエの光魔法の焦げ跡がそこらにこびりつ、女のガラハッドは「疲れた」とへたり込んだ。
マーリンは「少し休んでから行きましょう」と言い、一同は一旦その場に座って休んだ。
階段に座りながら、ニムエがマーリンに言った。
「マーリン様、ガニエダ様が顔を出せとおっしゃられてましたよ」
「そうですか」
海底都市の塔の階段で、休憩の間にニムエはマーリンと話した。
「小さい頃の記憶ですが、グウェンドロエナ様は……明るい方でしたね」
「ええ。元気で皆の人気者で。彼女には姉がいて、良く一緒に遊びました。姉は素直な人だったんですけど、気が合わなくて。僕は素直じゃないグウェンドロエナの方が好きでした」




