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ウーゼル


アーサー王の宮廷には、ローマ皇帝ルシウスと名乗る男の使者…オリーブの枝を手にした十二人の老人が訪れ、円卓の騎士達がざわめいていた。

(僕の先代は元々は、ローマ提督の、ローマ帝国の皇帝の血が、ちょっと入ってる血筋だった。

だけど、祖父の時代……ローマ皇帝がブリタニア放棄宣言をして、ローマが二つに分かれ西ローマ帝国が。父は……ウーゼルは、ブリタニアをローマ帝国の属国ではなく、ブリタニア王国そのものとして育てたんだ。今、ブリタニアはローマ帝国でなく……ブリタニア王国だ)

アーサーは謁見の間にて……皆の前でローマの使者達に告げた。

「貴殿方が仕える皇帝にこう伝えよ。我らブリタニア王国は、もはや貴殿方ローマ帝国の属州ではない。故に、命令を聞くつもりもないし、貢物をするつもりもない」

アーサーはそう言うと、使者達に金目のものを沢山持たせて、使者が国を出るまで丁重に案内するよう命じた。

だが、これを伝え聞いたルシウスは、復活祭前にガリアに進軍し、ガリアのブリタニアの領地を狙った。

アーサーもサンドウィッチ港から多くの軍勢を率いて、船に乗りガリアに着いた。

マーリンやパーシヴァル、モルドレッドはカールレオン城に残し、国を任せた。

国の守備を考えたら、全てを連れていくわけにも行かない。

マーリンはアーサーに言った。

「僕がいなくても……アーサーはもう、大丈夫ですね」

「まあ、頑張るよ」

「……貴方は、ヒーローですからね」

マーリンはそう言って、アーサーを送り出した。医療や藥の心得があるグウェンフィヴァルは同行した。


ローマ皇帝はガリアのブルゴーニュにて大部分を破壊し、村を焼き、人々を殺した。アーサーはガウェイン、ボールス、ライオネルを遣わせて『ただちに領地から立ち去れ。立ち去る気がないのならば戦争の用意をせよ。無抵抗な人々を苦しめるな』と伝えた。ルシウスは『アーサーもアーサーの領地も残らず屈服させる』と返した。


ガリアの地で、戦争が始まった。

ガウェインとランスロットはめざましい働きをした。

ルシウス、兵力六万。

ランスロットは二人のガラハッドに加え、騎士達と一万の兵士を率いて、ローマ軍やローマと同盟関係のサラセン軍を破った。

やはり、ランスロットは凄まじかった。二人のガラハッドも凄まじかった。親子で前後左右、あらゆる敵を薙ぎ倒した。多くの敵兵は、三人を見て次々に逃走した。

「……ガリアは僕の故郷だ」

沢山の死骸が転がる荒野に立ち、愛剣アロンダイトに付着した血を振り払いながら、ランスロットは呟いた。二人のガラハッドも剣を仕舞う。

「……戦争なんて嫌い」

「同感だね」

ランスロットも二人のガラハッドも、返り血を浴びていた。

ランスロットの黒い髪と、二人のガラハッドの青い髪が風に靡いていた。

アーサーはその報せを聞いて喜んだ。

「さすが最強の騎士ランスロット」

だが自分達の側もベリエル卿、モーリス卿、マウレル卿という騎士を失った。

アーサーは、騎士達に言った。

「……勝ち目がないなら逃げろ。一旦、後退したところで面目を失うわけじゃない。勝ち目のない戦に踏み留まるのは愚かだ」


ローマ皇帝(皇帝を名乗る行政長官だろう)ルシウスは、戦争から戻った元老の一人に進言されていた。

「皇帝陛下、退却しましょう。この前線でこれ以上戦っても、手酷い損害を受けるだけです。

今日のいくさはそれ程に凄まじかったのです。アーサー側は一人の騎士が、百人分の働きをするのです。特にランスロットとガラハッドという騎士が、人とは思えない異常な強さでありまして」

ルシウスは長い赤毛にソバカスで、その言葉を受けて、酷く怒った。

「臆病なことを。そちの言葉の方が今回受けた損害より余程、余の気持ちを暗くするわ」

ルシウスはレオミエ卿という名の王に大軍隊を率いさせ、進軍させた。

ルシウス自身も、すぐにその後を追った。

このことは、アーサー側の斥候…ピクト族のフェルグスとブーティカによって、アーサー達も報せを受けた。アーサーは密かに、部下達を、谷間にあるセスワンという町にやり、ローマ軍から町と城を奪った。

次に、アーサーはカドール卿に、円卓の騎士数人を率いて最後部の部隊を指揮するよう命じた。そして、ケイ、ランスロット、ボールス、マロック、マルハスは自分に随行するように言った。

軍勢を分散させるのは、敵の逃げ道を絶つためだ。

ルシウスがセスワンの谷間にやって来たとき、アーサー王の陣営も旗印も見えた。

だが、そのとき既にアーサー側に囲まれ、退路を絶たれていた。

ルシウス側は戦うか降服するか、選択を迫られた。

ルシウスは自軍に大声で言った。

「良いか、ローマ帝国は全世界を支配し、君臨しているのだ。ブリトン人など、端っこの、田舎者に臆するな。奴らの抵抗を許すな! 戦え!」

ルシウスがそう言うと、進軍のラッパが鳴り響いた。

両軍は互いにぶつかり合い、罵倒し合い、挑発し合い、斬り合い、刺し合った。

大勢の兵が谷底に突き落とされた。

アーサー自身も鎧を纏い、聖剣エクスカリバーを抜いた。

どの馬よりも速い、真っ白な愛馬スタリオンに乗り、敵勢が最も集中している場所や、自軍が追い込まれている窮地に駆け付けては、敵を殺しに殺し、部下を救った。

ガウェインもランスロットもガラハッドも剣を手に、ベイリンとベイランも槍を手に奮戦していた。

ケイも、宰相の顔でなく騎士の顔で、弓兵を率いてロビン・フッド・フェローの弓矢で応戦する。

グウェンフィヴァルもアリアンフロッドの杖を手に魔法で参戦した。

だが、モルガン・タッド……黒い手を持つモルガンの名を持つグウェンフィヴァルは、その名の通り薬草を混ぜ込んだ黒い傷薬を手に、傷付いた兵士達の手当てが多かった。

アーサーは、愛馬スタリオンを走らせ、ルシウスを探した。

ルシウスは、ガラパスという背の高い ……成人男性三人分の背丈がある巨人を、傍に連れていた。アーサーはガラパスの両膝を斬り付け、ガラパスが膝を着くと、一気にガラパスの首を斬り落とした。

ガラパスが倒れると、長い赤毛に、顔にそばかすの浮いたルシウスが見えた。

ルシウスも、アーサーが馬を走らせ駆けてくるのが見えると、剣を抜いた。

互いに激しく打ち合い、ルシウスの剣がアーサーの顔に傷を付けた。

アーサーは、いつもの呑気な表情ではなく鬼気迫る顔付きで、エクスカリバーを振るい、ルシウスをてっぺんから引き裂いた。

ついに、ルシウスは死に倒れた。

アーサーはルシウスの首を切り落とすと、髪をひっつかみ、首を上に挙げて叫んだ。

「敵将ルシウスを討ち取ったぞ!」

これを見ると、ルシウスの軍は一斉に逃げ出した。

だが、アーサーは全ての騎士を引き連れて追跡し、追い付いたルシウス側の敵兵を皆殺しにした。

アーサーも円卓の騎士達も、返り血を拭いながら、息を吐いた。

皆、返り血で真っ赤だった。セスワンの谷は、ほぼ、敵の死骸で満ちていた。


アーサーは死者を良くしらべて、自分の部下には相応の埋葬をした。

怪我人は皆、グウェンフィヴァルや軍医らに看させ、全治するまであらゆる藥を幾らでも使わせた。

その後、アーサーは、首を失ったルシウスの周辺に転がる死体を見た。

ローマの元老六十人。南方……サラセン他、様々な王達、十七人。

アーサーはこれらの死骸を手厚く葬った。

損傷したり異臭を放ったりしないよう、高級な香油をたっぷり塗り、上等な麻製のろうびきの布で六十回も体を巻き、鉛の棺に安置した。

そして、それぞれの死体の上にその者の紋章入りの盾と旗印をつけて、出身がわかるようにしてやった。三人の元老が生き残っているのが発見されて、アーサーは言った。

「お前達の命を奪うつもりはない。助ける代わりに、これらの死体をローマまで運べ。そして統治者に俺の手紙を見せろ。ルシウスは……ローマ皇帝の血を引いているかは知らないが、今の東ローマ皇帝ではないだろう。恐らくは……東ローマ帝国の行政長官で、レオ皇帝よりは下だろう。取り敢えず、これらの死骸が貢物だ。今後、ブリタニアの領地に貢物や税を要求したら首をはねるぞと伝えておけ。多分、これでローマ帝国の奴らも、ブリタニア王国に貢物を求めるとき、要心するようになる筈だ。あと、俺も一旦ブリタニアに帰ってから東ローマに行くから」


その後、アーサーはその通りに、一旦、船で王都キャメロットに凱旋し、勝利の宴を開いた後、また船旅に出て東ローマ帝国に入った。そしてイタリア旅行を楽しんだ。マーリンも一緒だ。

「はあ、疲れた。僕はやっぱりのんびりしていたい。ポンペイやコロッセオが見たい」

「僕はパルマの生ハムが食べたいですね。ジェノバもヴェネチアも行きたいし。あっ、女神ニケの像だ」

グウェンフィヴァルは「ローマに行きたい」と言っていた。

マーリンがはしゃぎなから言う。

「次はギリシャとかー、コンスタンティノーブルのアヤ・ソフィア聖堂とかー」

マーリンは、フクロウのピュタゴラスを肩に乗せ、大きな樫の杖を手に振り返った。

「アーサー、実は他の様々な世界のアーサーの中には、ローマ帝国の皇帝になっちゃうアーサーもいるんですよ」

アーサーは頭を掻いて苦笑いした。

「それはさすがにちょっとね」


アーサーは、ブリタニアに帰ると、マーリンに転移呪文を頼んだ。

王の姿ではなく、普段着の青年姿で……背中に聖剣エクスカリバーを背負い、花束を手にして。

そして、ブリタニア王国の最南部……ソールズベリー平原に出た。

すぐ近くにカドバリー城がある。

サクソン族との戦いの最前線で、今は休戦を結んでいる。

ソールズベリー平原には、石の環、ストーン・サークルがあった。

昔、古代の人々が進んだ知識で、築いたものだ。

以前、聖剣エクスカリバーをロンディニウム教会の広場から……ウーゼル王の墓から抜いた後……マーリンが、実父ウーゼルの遺骨をこちらに移した。

今は、ウーゼルの墓だ。

生前は余り仲良く出来なかった。アーサーは花束をそっと置いた。

「……僕は、貴方が守りたかったものを守れましたか」

眼鏡を掛け、少し離れて見ていたマーリンが言った。

「ウーゼル王は今は、略奪婚した前王妃オルウェンの遺骨と一緒に葬られてます」

アーサーは吃驚してマーリンに聞き返した。

「略奪婚?」

「旦那からでなく」

マーリンは少し笑いながら話した。

「……これは、僕がウーゼル王に仕える前の話です。オルウェンは、ウェールズ地方の王カラドック王の娘でした。でも王位を狙ったグリフィスという男にカラドック王は殺されました。……本来王位につく筈のオルウェンの兄メリアドックは、ウーゼル王の元に援助を求めました。

グリフィスはオルウェンを森の中で処刑しようとしましたが、メリアドックとウーゼル王がこれを挫いたのです。結局、グリフィスは追放しましたが、ウーゼル王は恩に着せてオルウェンを妻にし、メリアドックから王位を譲らせ、ちゃっかりウェールズ地方を手に入れました」

マーリンは懐かしい顔をしていた。

「でもオルウェン前王妃は病気で亡くなってしまいました。ウーゼル王は……イグレインにオルウェンの面影を見ていたのかも知れませんね」

「ウーゼル王か……」

アーサーはカールレオン城に戻ると、育ててくれたもう一人の父エクトールや、育ての母のフィラヴィラや、共に育った兄、ケイに、旅の土産を配った。

小さかった白狼のカヴァルは、大きく育っていた。グウェンフィヴァルは長く伸びた栗色の髪を三つ編みに結い、風に揺らして、静かに見つめていた。


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