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ケイ

ある日の、カールレオン城の謁見の間。

ナ少女が迷子になって帰りたいというので、彼女の話を聞いて、グウェンフィヴァルが魔法で元の場所に帰したその後で。

キャメロットの大聖堂にいるバルドウィン主教が相談した。

彼は恰幅のいい剃髪僧で、灰色のローブに十字架の首飾りをつけ、荷物を入れた袋を背負っていた。

用件は『カーライル城の城代、カールが呪いで巨人にされてしまったので、元に戻して欲しい』ということだった。

宰相であり、アーサーの義理の兄であるケイが手を挙げた。

「僕が行こう。僕だって気晴らしに冒険の旅に出たいからな」

「……ケイが行きたがってるんだけど、それでいいかな?バルドウィン主教」

アーサーがバルドウィン主教に聞くと、バルドウィン主教は頷いた。

ケイは眼鏡を外し、ヤンチャな顔で「よし、ロビン・フッド・フェローの弓矢を持って行くぞ!」と、喜んでいた。

昔、アーサーやマーリンと、妖精の城に冒険したときに手に入れたもの……エルフ製の弓矢だ。アーサーとマーリンが相談して、ケイの旅には、バルドウィン主教に、妻の小柄なアンドリヴェートと、ガウェインが同行することになった。

マーリンはアンドリヴェートに声を掛け、何かを渡していた。

カーライル城はアーサーの三大居城の一つであったので、マーリンに頼んでカーライル城まで転移呪文で飛ばして貰うことにした。

だが、マーリンは生憎、ケイがいない分アーサーに付きっきりだった。ので、ケイ達はグウェンフィヴァルに頼むことにした。グウェンフィヴァルは薬草の粉末を四人に振り掛け、転移魔法を使った。


風景は変わり……湖水地方の……湖に面したカーライル城の門前に、四人は立っていた。

湖畔は静かで清らかだった。

青い空や緑色の山々、林並木が美しく、鳥の鳴き声と羽ばたきが聞こえた。

「へえ。綺麗なところじゃないか。確か、ここでアーサーは育ったと言っていたな」

「アーサー王の育ったところなんですか?」

景色を見渡すケイに、ガウェインが聞く。

「まあな。父エクトールがアーサーを連れて来る前は、ここにいたと聞いた。俺も、焼けたサクソン族の村から、父に拾われ育てられたんだ」

歩きながら、ケイは話す。

「俺は、アーサーが王なんてわからずに『ウォート』……イボって呼んで馬鹿にしてた。俺の方がでかかったから、喧嘩も大概、俺が勝った。……まあ、その頃、俺は付近のガキの中で一番、喧嘩が強かった。ガキ大将みたいなもんだったんだ。でも、今考えると馬鹿だな。俺が」

ケイは弓矢を背負い、褐色の髪を風に靡かせて、懐かしそうに笑った。

少し離れて、小柄で眉毛の太い金髪のアンドリヴェートが、ついてくる。

「アンドリヴェート姫って余り喋りませんね」

「無口なんだ」

アンドリヴェートを心配そうに見るガウェインに、ケイは笑った。

カーライル城の門までの道を、ガウェインとケイは話ながら…アンドリヴェートがついてきているか確認しながら進んだ。

ケイは途中下手糞な歌を口ずさんでいた。

前方には案内のために、バルドウィン主教が先を歩く。

「……アンドリヴェート様とはどういう馴れ初めなんですか?」

「あんまりいいもんじゃない。ノーサンバランドのカドール王が死んで、あいつの叔父デトルスが王位を狙ってた。アンドリヴェートは王位継承権第一位だった。だから、デトルスは、いやーな男とあいつを結婚させて、厄介払いしようとしたんだ。あいつは逃げ出してカールレオン城に来た。で、偶々空いてた俺が名乗りを挙げた」

ケイは振り返り、アンドリヴェートがちゃんとついてくるのを確認しながら続けた。

「デトルスを討伐する準備をしたが……デトルスが上手いこと、俺達を悪者扱いして、民衆を操作したんだ。ノーサンバランドの王位は、今、そのデトルスのものだ。まあ、デトルスの国の治め方は決して悪いものじゃないから、それでいいんじゃないかと、事は収まった」

ガウェインはケイをまじまじと見つめた。ケイは背が高く、顔も整っている。

褐色の髪で、昔は活発だったような名残がある。だが、今は苦労を重ねたような顔に見えた。

アーサーと共に育った、アーサーの義兄。家族。宰相で執事。

今、アーサーとは仲がいいように見える。だが、弟が王で兄の自分が仕える側というのは、辛いものがあるのではないだろうか。多くの人間がそう、思いを馳せる。だが、そんなことを思われるのはケイは嫌だろう。いや、どこか既に慣れてしまっているのかも知れない。

ケイは小柄で無口な妻、アンドリヴェートを気にして度々足を止めていた。

ケイは円卓の騎士の中でも、弓矢が上手い。あと、サクソン族の血を引いていてゲルマン語が喋れる。アーサーの宰相として、彼は存分に腕をふるっている。

だから、本当はそこまで下に見るのは逆に失礼だ。

色々、考えを巡らせてしまうのは、きっとガウェインもケイと同じ長子だからなのだろう。


四人はカーライル城の城門に辿り着いた。城門が開き、兵士が城代のいる広間まで案内した。

そこには、巨人と化した城代のカールがいた。

「おお、アーサー王の遣わした円卓の騎士様。良かった。頼めるのは貴方達しかいない」

ケイが「呪いで巨人になってしまったと聞いたが」と言うと、カールは、ぼろぼろ涙を溢しながら頷いた。そして、自分の胸にある、呪いの刻印を見せた。

「悪い魔法使いに呪いを掛けられました。私の首を切り落とさなければ、私の呪いは解けないらしいのです。でも、誰も切り落とせないのです。誰かが切り落とそうとすれば、この刻印から、赤い猫の姿の亡霊が出てきて邪魔をするのです」

ケイとガウェインは互いに頷き合った。

「……わかった。俺達がどうにか呪いを解いてやる」

そう言うと、ガウェインが愛剣ガラティンを抜いた。

飛び上がり、一息にカールの首に切りかかった。

だが、カールの胸元の黒い刻印から、黒い煙がもくもくと吹き出し、赤い猫の亡霊が三匹現れた。ガウェインの剣は、そいつらの牙でガチンと弾かれてしまう。

三匹の亡霊がガウェインに襲い掛かるが、ケイがロビン・フッド・フェローの弓矢で三匹一気に貫いた。亡霊はたちまち、弾けて消えた。

「亡霊は俺がやるから、ガウェインはカールの首に集中しろ」

ガウェインはケイに頷き、カールの首に剣を振るった。

また、亡霊が三匹現れたが間髪与えずケイが亡霊を三匹射抜いた。

「今の内に一気にやれ!」

「……いや、でもちょっと狙いが……」

「グズグズ言ってねえで、とっととやれ! チャンスだっつってんだよ!」

ガウェインはケイにちょっと驚きながら、思い切り、力任せにカールの首を切り落とした。

そこへ、アンドリヴェートがケイの元に駆け付けて一本の矢を渡した。無口だった筈だが、一生懸命に話す。

「……解呪の矢だそうです。マーリン様が、呪いの刻印をこれで射てと」

「わかった」

ケイは頷き、カールの首元にある呪いの刻印目掛けて、解呪の矢を……光の矢を放った。

カールはみるみる小さくなり、首も現れた。 胸の呪いの刻印も消えていた。

カールは、ようやく人間に戻れたと泣いていた。ケイとガウェインは溜め息を吐いた。

ガウェインがアンドリヴェートに「大丈夫ですか」と聞くと、アンドリヴェートは小さく頷いた。バルドウィン主教も駆け付けて喜んだ。

「ああ、良かった。カール殿、ようやく戻れたのですね!」

城中の者がカールの元にやって来て「良かった、良かった」と喜んだ。

そして、カーライル城では宴が開かれた。

吟遊詩人(バード)(ドルイドの修行時代だ)が歌を歌い、広間ではテーブルに沢山の酒やご馳走が並び、花が飾られ、燭台に火が灯され、人々は手を取り合って踊った。

ケイとガウェインとアンドリヴェート、バルドウィン主教は手厚いもてなしを受け、少しの間、滞在した。ガウェインはカールの娘を口説いて、一緒に踊ったりしていた。

ケイとアンドリヴェートは踊らずに静かに料理と酒をたしなむ程度にしていた。

二日目ぐらいに、カーライル城のバルコニーで、祝いの酒に酔った顔を冷ましがてら…星を見ながら、ケイとガウェインは話した。

「……俺には、アーサーは眩しかった。何て言えばいいのかわからないけれど。嫉妬って言うのかな。あいつの純粋さとか真っ直ぐさとか。色んな、俺に欠けているもの。それを感じることが嫌だった。情けないだろう」

「そんなことはないですよ。俺とガレスに似てるかも知れませんね。俺も、あいつ程は純粋じゃないし、優しくないですよ」

「……でも、あいつは弟だ。そして、俺も何も与えられてないわけじゃない。だから、俺は俺の立場を、どうにか全うしなきゃならない。あいつを支えてやらなきゃ。あいつは少し、寂しがり屋なところがあるからな。俺は不器用だけどな。大事な弟だからな」

「それでいいんじゃないですか。……ていうか、宰相じゃないですか。ゲルマン語も喋れるし、弓矢を使わせればキャメロット一ですし」

「……はーあ。ガキ大将だった頃が懐かしいな」

その後、二、三日して、ケイとガウェインとアンドリヴェートは帰り支度をした。

バルドウィン主教はもう少し滞在すると言う。友人のカールと語り合いたいらしい。

ケイは、カールレオン城に戻る力がある……マーリンやグウェンフィヴァルが作った護符を出して、三人は簡単にカールレオン城に帰った。ケイはまた、宰相の座に収まった。


「アーサー。実は僕はそこまで大人しくない」

「うん、知ってる。だってお前、ガキ大将だっただろ。何を今更」

アーサーは少し考えながら、ケイに言った。

「……兄貴。もうちょっと普段から、素のお前でいたらどうだ?」

ケイは少し間を置くと、笑って言った。

「俺が素でいると、俺のイケメン性にお前かすむぞ」

「うるせえ」

出窓から梟のピュタゴラスが飛んできて、マーリンの肩に留まった。

出窓のところに、鳥がいてさえずっている。

「ピュタゴラス、あの子は友達ですか?」

「ああ。ヒララという友達じゃ」

カールレオン城の中庭では、木陰で二人のガラハッドが話していた。

「……こっちの世界の母上は、幸せそうで良かった」

「君、マザコン?」

「いや、そこまでではないと思う」

「私はマザコンの気がある気がする。君って真面目だけどクールって程じゃないよね」

「うん」

屋上では、グウィオンが「自分は虫に見えるか」と悩んでいて、リュネットが「そんなことはない」と否定していた。


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