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ランスロット

エレインは、どうも視力が悪くなって来たみたいだった。

縫い物などしても、何だか上手くいかない。

なのでマーリンの小屋に行き、マーリンに相談して、眼鏡を貰った。以来、縫い物や織物、糸紡ぎなどをするときは眼鏡を掛けるようになった。

二人はカールレオン城の自分達の部屋で、のんびり過ごしていた。暖炉には火が入っていて暖かい。

ランスロットは剣や鎧の手入れをして、エレインはソファーに腰掛け、眼鏡を掛けて縫い物をしていた。 レインの隣では、ランスロットに似た小さな黒髪の男の子と、エレインに似た小さな銀髪の女の子が、マーリンから貰った絵本を読んでいた。だが、雪が降り始めたので、はしゃいで外に出ていってしまった。

「気を付けて。転ばないようにね」

エレインの言葉が届いているのかいないのか。

そこへ、親指サイズの小さな男の子の妖精が…巻き貝の帽子に青いマントの親指トムが現れて言った。

「大丈夫。僕が見てますから、安心して下さい」

そう言うと、親指トムは二人の子供を追い掛けていった。

「親指トムがいるなら安心かしら」

「親指トムは、巨人のガルガンチュアより強いから大丈夫さ」

ちっとも気にしないランスロットに、エレインも「そうですね」と頷いた。

「……ランスロット様、上の子は……二人のガラハッドについてはどう思いますか」

「女の子の方は言うことを聞いてくれるけど、男の方は扱いづらいな。何だか、もう一人僕がいるみたいでね」

「私はそこまで、似てるとは思いません。あの子は何ていうか……きっと、色々あったんでしょうね。どこか、荒んでるような気がして」

「……僕にはちょっとわからなくて。まだ女の方がわかるみたいでね。……僕らは出ていかない方がいい気がする。でも、どこか旅に出るときは誘おうかな」

「カーボネック城の冒険の扉はどうですか」

「それもいいね」

ランスロットは鎧や剣を磨きながら、ふと懐かしく昔を思い出した。

「……そう言えば昔、カーボネック城の冒険の間からブロセリアンドの森に来たエレインと出会ったんだった。僕は、湖の底で師匠のヴィヴィアン様に育てられ、修行をしていた頃だったな」

「懐かしいですね」

「ああ。懐かしいな。乙女の城に連れて行かれたこともあったよ」

エレインは針を手に布の縫い目を見ながら、ランスロットに聞いた。

「……ランスロット様。グウェンフィヴァフ様のことは、どう思ってますか」

ランスロットは突然の言葉に驚いたが、少し考えながら迷いなく話した。

「……何だか、昔に色々あった気がする。でも、可愛らしいお姫様だと思うよ。多分それだけだ。エレイン。君は何で、僕がいいと?」

「……助けてくれたから。それだけですよ」

ラ ンスロットはまた、鎧を磨く手を動かしながら「最近は、グウェンフィヴァフ様の護衛はガウェインやケイや……モルドレッドが多いな」と言った。

王妃の間では、騎士の妻や娘、母、祖母達が綿や羊毛から糸を紡ぎ、機を織り、縫い繕ったり編んだりして服や旗などを作っていた。賑やかに世間話をしながら。


その日は、手が空いたグウェンフィヴァルや、グウェンフィヴァフ、エレイン、イゾルデ、、訓練の合間のラグネル、女のガラハッドが手を動かしていた。一番上手いのは、グウェンフィヴァルで、エレインとは気楽に話ながら手を動かしていた。

「最近、グウェンフィヴァル様のファンだって男が増えてきてるみたいよ。さっきも廊下で騎士達がグウェンフィヴァル様を見て、みとれてたし」

「美人だものね。それに心優しいし、しっかり者だし」

二人は、長い黒髪を三つ編みにして後ろで纏め、赤とピンクのドレスを着たグウェンフィヴァルを見やった。グウェンフィヴァルは黙々とひたすら糸を細く綺麗に紡いでいた。グウェンフィヴァフも糸を紡ぎ、イゾルデは鈴の刺繍をしていた。

女のガラハッドはやり方がわからなくなって、たびたび隣のラグネルに聞いて教わった。

さすがのラグネルも溜め息を吐いた。

「あんた、こんなのも出来ないわけ?」

「……すみません」

「別にいいけどさ。教えられないでも出来るようになりなよ」

ラグネルは溜め息を吐いて女のガラハッドに言った。

「あんた、染色や模様を描くのは上手いんだけどね。ちょっとそこいらで、一人で冒険に出て腕を磨いてみたら。どうせ、いざとなれば男の方のあんたがいるでしょ」

女のガラハッドは少しムッとして、立ち上がった。

「わかりました。取り敢えず私も騎士になってしまったので、仕方ありません。冒険の旅に出てきます」

女のガラハッドはそう言うと、王妃の間を飛び出ていった。

女のガラハッドは、グウェンフィヴァルから貰った傷薬、それに干した果物やチーズやパン、水の入った皮袋を荷袋に詰めた。

そして、男のガラハッドを呼び出した。

「……冒険の旅に出るんだって?」

「貴方はついて来なくていいよ。私が強くならなくちゃいけないんだ。貴方はグウェンフィヴァルさんの護衛でもしてて」

「……君、多分十分強いと思うけど」

女のガラハッドはそう言うと、マーリンに頼んで、カーボネック城にまで転移呪文を掛けて貰うようお願いしようと、マーリン小屋へ向かった。

途中の廊下で父、ランスロットに出会した。

「その格好……冒険に出るのか?」

「はい」

「……そうか。まあ、お前も騎士だからな。でも、男の方も連れて行った方がいいと思うぞ」

ランスロットは娘を見ながら、少し過去を思い出して話した。

「ガラハッド、僕の持つ、喜びの砦のことは知ってるね」

「はい。お父さんがキャメロットに来る前に……一人で攻略して手に入れた城ですね」

「……僕の最初の冒険さ。最初は、悲しみの砦と言う名前で、領地の人々は領主に虐げられていた。僕は領主を倒した。そして、その砦の地下にある……本当の主だけが開くことが出来るという、石の扉を開いた」

ランスロットは懐かしい目をして続けた。

「その石の扉の中には、空間以外何もなくて……。ただ、石の扉の裏側にこう書かれていた。『ここは、この砦のあるじ、ランスロットの墓である』。砦を解放して、僕は喜びの砦と名を変えた。

まだ、墓に入るつもりはないけどね」

「それが、お父さんの最初の冒険なんですね」

「……やっぱり、僕もついて行くよ。心配だからね」

女のガラハッドは、父ランスロットと共にマーリンの小屋に訪れた。

「……そうですか。親子で冒険の旅ですか。ガラハッド、一人でというのは大変ですよ。他の円卓の騎士達も、数人か、ドルイドや湖の巫女を連れていくのが普通なんですよ」

「強くなりたいので」

「まあ、ランスロットが一緒なら心配はいりませんね。寧ろ、僕達の方が心配になってしまいますかね」

マーリンはお茶目にそう言うと、ランスロットとガラハッドをカーボネック城まで飛ばした。

二人は気付くと、周囲の風景は森に変わっていた。潮の匂いがして、すぐ近く……海や砂浜が見える。

二人の眼前には、石造りで美しく荘厳な城と、城門が聳え立っていた。

エレインやパーシヴァルの実家……ペリノア王の治める聖なる城だ。聖杯を祀っていたので、別名、聖杯城とも呼ばれる。

「カーボネック城は何度か来たな」

「はい。火を吹くベッドが苦手です」

「魔法のベッド……リ・メルヴェイユは、今はマーリン様がただの普通の、安全なベッドに変えたよ」

男のガラハッドがスッと現れた。

「僕も行きますよ。父上」

「男の方は強いから、心配はいらないが、女の方がちょっと心配だからな」

「充分、強いですよ。……でもまあ、いいんじゃないですか」

カーボネック城に入ると、ペリノア王が以前に、騎士の死体で作った死霊兵団の残りが何体かいて、骸骨の騎士など……三人は一々、倒しながら進んだ。

「……義父上の城は、相変わらずだなあ」

まず、三人はペリノア王のいる王の間に入った。

騎士達が並ぶ中、玉座にペリノア王が座していた。

「久しいな。エレインの婿、ランスロット。それに、私の孫だったな。ガラハッド。あと……」

「男のガラハッド。二人で一つみたいなものですよ」

ランスロットはペリノアに説明した。

「……ところで、冒険の扉を使わせて頂きたいのですが」

「ああ、冒険の扉は自由に使えと言っている。普段から、お前ら円卓の騎士がやって来ては、あちこちに行くではないか」

「まあ、そうですね」

挨拶もそこそこに、三人はカーボネック城の冒険の扉に向かった。

冒険の扉は木製で、古めかしく、細かい装飾がされていた。近くに番人の炬人(こびと)がいて、ランスロットが「ついこの前に行ったところ」と言うと、頷いて、扉に取り付けられた金属のダイヤルを回した。そして、無口に冒険の扉を開いた。


三人が冒険の扉をくぐると、どこかの街に出た。

土は乾き、雲がどよめいて夜のように暗い。それに、家はどこも壁や屋根が崩れていて、枯れ木や空の間を蝙蝠が飛び交っていた。

「……ここは?」

女のガラハッドにランスロットが説明する。

「この世ならざる地。霊魂の街だ。前も来たことがあるんだ」

良く見ると、ぼおっと青白く光る魂のようなものが飛び交い、土色の顔の死人や骸骨が土の中から這い上がってきた。して有無を言わさず、三人に襲い掛かってきた。

「……女のガラハッド。お前は優しすぎる。いいか、思いきりやれ。男の方は躊躇なくやれるから心配はしてない。好きにやれ」

女のガラハッドは「はい」と言い、片刃の剣の持ち方を変えた。 二人のガラハッドの剣には赤い石が付いていて、光を反射していた。男のガラハッドはランスロットが苦手みたいで、余り話したくないという苦々しい……鬱陶しそうな顔つきだった。 ランスロットが言い切る前から一気に、幽霊三体、一発で斬り倒し、返し刃で蝙蝠の化け物や生きる屍を二体倒していた。

「好きにやってますが何か」

ランスロットは(生意気だなあ~)と苛立った。

その合間にも、男のガラハッドは幽霊や生きる死骸や骸骨達を、何体も倒しまくっていた。

「なあ、娘。何故、男の方はあんななんだ」

「とにかく強くいたいって感じですね。一言で言うと」

女のガラハッドやランスロットも、男のガラハッドに続いた。次から次へと土の中から現れる、死霊系の魔物達を次々に倒した。 ある程度倒し尽くすと、段々と魔物達も出なくなって来た。女のガラハッドは髪がボサボサで「幽霊みたいになってるぞ」と男の方に言われていた。

ランスロットも、汗を拭いながら息を吐いた。

「大体、出尽くした感じかな。でも、ここまで倒しまくったのも凄いな。以前、僕が一人で来たときは、そこそこでやめたけど」

「この辺でお昼にしますか? お弁当を持ってきました」

女のガラハッドがそう言って、バスケットを広げた。

「そうだね。そうしよう」

男の方も呼ばれて、剣に付いた死骸の血を払いながら鞘に納めた。

女のガラハッドは「このチーズは私のですからね」と言って、チーズとパンにかぶりついた。

ランスロットは、男のガラハッドに何となく聞いてみた。

「君の世界の僕ってどうだった?」

「グィネヴィアは一人で、美しく気高く、父ランスロットはがんじがらめでした。二人の恋が原因で国は滅びました」

男のガラハッドは苦々しい顔で言う。

ランスロットも一転、顔色が変わり、女のガラハッドが心配そうに父を見ていた。

「こちらとは別人ですよ。でも、今思うと不思議で。僕のいた世界のアーサー王は、何故何もしなかったのだろう。今となっては、本当に不思議でなりません。国が滅ぶ前に、もう少し何かしら出来ただろうと。あんな女と別れて父と二人を見送るなり、他の妻を迎えるなりすれば良かったのに。まあ、それでお鉢が回ってきたのが僕なんですけどね。でも、もう聖杯探求なんかしませんよ。僕は」

マーリンがいたら『やり直したんです』と言っただろうか。女のガラハッドは男の方の頭を撫で、ランスロットは複雑そうに見た。

(苦手意識を感じるのは、僕に似てる気がするからかな?)

話している内にまた、死骸や霊魂が襲って来て三人で倒した。


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