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グウェンフィヴァル


グウェンフィヴァルは最近、本を読んだり調合するときは眼鏡を掛けているが、それ以外は眼鏡を外している。ワイン色とピンク色のドレスで、星のピアスを付けている。

現在、真名はアナだ。

この頃は薬作り……虫除け薬など作るのに熱心だ。

だが、自室の箪笥の奥から出てきた性別逆転薬を、体力回復薬と間違えて飲んでしまって大変だった。円卓の間で、食事を取りながらアーサーがグウェンフィヴァルに言った。

「ぐうぇんふぃばる、お前オカマになってるぞ。ヴァレリンみたい」

「ええっ」

そこに、チャイナ服を着た太った糸目の男が、二人のチャイナ服の娘を連れて行商にやって来た。

「ワタシ、ずっと東の国からやって来てるね。何か買って欲しいある」

「買ってある」

「買ってある」

グウェンフィヴァルは女に戻る薬を買った。アーサーはレーザー光線の刃が出るという、手二つ握った分くらいの長さの棒を見ていた。

「ビームサーベルだって。前、マーリンと一緒に、カマーゼンのドルイド養成所に行ったとき、これ見たな」

アーサーは青く光るビームサーベルを出して喜んでいた。

グウェンフィヴァルは女に戻ったか鏡を見て確認して、ホッとしていた。

皆それぞれ、商品を色々見ていた。だが、暫くすると、糸目のチャイナ服姿の男は荷物を仕舞って、二人のチャイナ服の娘と共に行ってしまった。

「また来るから、そのときはよろしく」

窓の外から、荷物を積んだ軽トラックが空を飛んで行くのが見えた。

アーサーがマーリンに「最近、エメラインに良く会いに行ってるんだって?」と聞いた。

「……ええ、まあ」

「栗毛の美少女だよな。マーリンって、実年齢幾つなんだ?」

「……結構、行ってますよ。単に友達なんですよ。さすがに三桁も離れてる子に手は出しませんよ」

フフフとマーリンは笑った。

「マーリンの奥さんのグウェンドロエナって、明るい美人だったっけ」

「ええ、まあ」

最近、礼拝堂に美人なシスターがやって来て、聖ギルダスや聖パトリックと良く話していた。

円卓の脇の方で、何だかベイリンとベイランが萎びていた。

「毎日、俺らは門番ばかり。たまに遊びに行くけれど」

「今度、美人のねーちゃん達と海にでも遊びに行こうぜ。それか、ともかく冒険の旅を」

ケイが「僕も行きたいな」と口を挟んで、ベイリンとベイランが嫌そうにケイを見つめた。

「一応、義兄弟なわけなんだが?」

ベイリンとベイランは、何だか不満げにそっぽを向いた。

アーサーはケイに「程々にしとけよ、ケイ」と突っ込んだ。

女に戻ったグウェンフィヴァルは眼鏡を外して、茶色っぽい栗色の髪を後ろで纏めた。黒髪の婦人を見て「黒髪もいいわね」と呟いた。

マーリンがアーサーの癖っ毛な髪の毛を見た。

「アーサーの髪の毛って金髪ですよね。黄色っていうか」

「うん」

マーリンがグウェンフィヴァルに聞いた。

「ランスロットに興味はないんですか」

「ないわね」

「グウェンフィヴァフのが仲良かった気がするわ。ランスロットはどこか困ってたみたいだけどね。ランスロットもエレインと随分、落ち着いたわよね。以前は、どこか色々後悔してたみたいだから、それでいいんじゃないかしら。そもそも、ランスロット自身、私に興味ないもの。私がモルガンだったときからね。……私はもう、モルガンをやめたけれど」

グウェンフィヴァルは、また眼鏡を掛け、アーサーは持ってきていた本を出して読み始めた。

「でも、ランスロットも真面目よね。女にモテるけど、エレイン以外はきっぱり断ってるみたいだもの」

マーリンはグウェンフィヴァルに言った。

「貴方、しっかり者の美人ですよね」

「そう? ブリタニア一の美人のエレインには、さすがに敵わないわよ。普通よ。私のことはいいけど。ランスロットとエレインを見てると、何だかエレインが可哀想だった。でも、ランスロットも落ち着いたみたいで良かったわね」

グウェンフィヴァルは円卓の向こう側で、銀髪に白いドレスの美女エレインや子供達と一緒にいるランスロットを見た。

「……エレインといいグウェンフィヴァフといい、美人に弱いのよね。ランスロットは」

マーリンは何となく、ガラハッドを思い出した。

「ガラハッドは、女の方ですけど……貴方になついてましたね」

「そうね。一応、ナイト役…だったのかしら?」

グウェンフィヴァルは笑った。

「また、久々に会いたいわね」

「ランスロットってグウェンフィヴァフをどう思ってるんでしょうかね」

「……さあ。そういうのは、本人に聞いた方が早いんじゃない? ……でも、エレインといる今、幸せそうなのよね」

モルドレッドが、カールレオン城の屋上でボンヤリ空を眺めていた。

隣で狼なんだかライオンなんだか良くわからない、チューバもボーッとしている。

「眠い……」

モルドレッドの緩く編んだ金髪や赤い髪飾りや、白いマントやマントを留めている羽根飾りが、パタパタ風に揺れた。

背が低くプラチナブロンドで薄いピンク色のドレスを着て、赤や黄色の花飾りを付けたグウェンフィヴァフが、モルドレッドを見つけて、ちょっとどもりながら話し掛けた。

「……あの、さっきお花の刺繍をしたんですけど」

「……あ、グウェンフィヴァフ姫」

「……こ、これ、あげます。身に付けて下さい。身を守る力があるかも知れません! それだけです」

グウェンフィヴァフはそう言って刺繍をモルドレッドに押し付けると、慌てて走り去ってしまった。 モルドレッドはボケッと、グウェンフィヴァフ姫が去っていくのを見送った。

「あるかも知れない?」

モルドレッドは刺繍を見て、ちょっと首を傾げた。チューバがポンポンとモルドレッドの肩を叩いた。

ちょうどガウェインが見張りの当番にやって来た。グウェンフィヴァフ姫が走り去って行くのと、モルドレッドとチューバが屋上で座ってるのを見て、ガウェインは不思議そうに呟いた。

「……ちっこいの同士で何が?」

 ガラハッドは男の方がアグレスツィアがどうしているか知りたがって、暫くカールレオン城を留守にして旅に出ていた。だが、この世界のアグレスツィアは嫁に行って家族に囲まれ、穏便に暮らしていた。 それを見て男のガラハッドは複雑そうだったが、どこかホッとしていた。

アグレスツィアは美しい長い金髪の娘で、女のガラハッドもそれはそれで少し複雑な想いを抱いていた。グウェンフィヴァルがガラハッド(女の方)に会いたがるので、グウィオンがカールレオン城に来たときに、頼んで召喚して貰った。

女のガラハッドは幽霊の如くスッと現れた。

懐かしい、黒っぽい青いショートカットに白い羽根飾り、白い鎧、白いマント姿だ。

アクアマリンとトルマリンの石で出来た、月のブローチを付けている。

「……すみません。お昼ご飯だったんですけど」

「ガラハッド! 久し振り! 会いたかった! 幽霊みたいに現れるのね」

「幽霊です。透明化出来ます……。最早、妖怪です」

マーリンが口を挟んだ。

「つまり、グウェンフィヴァルの騎士枠は貴方なんですよね。ガラハッド」

「……はあ。女ですし、別に女とくっつく趣味なんてありませんが。一応はそうでしょうね。不倫するつもりはありません」

「ガラハッド……ランスロットの幼名ですね」

「私を出すと、もれなく男の方の私も出てきますよ」

男のガラハッドがスッと現れて「フフフ……僕は強いからね」と言った。

「男の方は、何でかこんな性格です。兄みたいなもんです」

「僕はとにかく強くいたいんだ」

その頃、手が空いて暇を持て余したグウィオンは、カールレオン城の屋上……モルドレッドとチューバが座る横で、一人でハーモニカを吹いていた。

マーリンは懐を探って、グウェンフィヴァルに金色のブレスレットを渡し、ガラハッドにしるしを描いた。

「グウェンフィヴァル。このブレスレットは召喚石がついてます。これで、今、契約した相手……ガラハッドを、いつ、どこでも召喚出来ますよ。グウェンフィヴァル。少し武者修行に行ってきてはどうですか」

「武者修行?」

「最近、魔法を使ってないでしょう。ガラハッドと一緒に行ってきては?」

「そうね。乙女の城時代は、良くあちこち行かされたわね」

「獰猛な巨人がいるスノードニアか、狂暴な飛竜がいる竜の谷の洞窟とか」

「マーリンも言うわね」

苦笑いしながらグウェンフィヴァルが「ガラハッド」と言うと、スッと女のガラハッドが現れた。

「何ですか?」

「ちょっと、腕試しに一緒に来てくれない?」

「いいですよ」

「じゃあ、調理場でお弁当作って行きましょう」

グウェンフィヴァルは、調理場で(ガレスは騎士の訓練をしていた)炬人(こびと)のメロットや料理人達に頼んで、食材を分けて貰った。

ガラハッドと一緒に、パンに卵や野菜やチーズを挟むと、バスケットに詰め込んだ。

そして、アリアンフロッドの杖を掲げて転移呪文を唱え、竜の谷の奥の洞窟へ行った。

竜の谷はカールレオン城から近い、北東の山岳地帯にあった。岩山を枯れ木や茨が覆っていて、風に土煙が舞っていた。竜の鳴き声や、翼の羽ばたく音が聞こえ、空にはちらほら、竜の陰が見える。

「なんか、独特の空気が漂ってますね。グウェンフィヴァルさんは前も来たことがあるんですか?」

「乙女の城時代にね。修行場の一つだったわ。ここらへんの竜は比較的大人しいから、なるべく近寄って怒らせないように。相手するのは、洞窟内の狂暴な方」

「洞窟内のは狂暴なんですか」

「まあね。それに強い」

グウェンフィヴァルは、長い栗色の髪を掻きあげた。

二人は、そこら中を飛んでいる竜を刺激しないように、 奥へ奥へと進み…ボロボロに壊れた吊り橋を渡って、洞窟へと入った。洞窟の中はひんやり冷たかった。鍾乳洞になっていて、雫がポタリと落ちる。

「足が滑りそうですね」

「気をつけて」

そろそろ歩いていると、どこかから突然ドラゴンが、鋭い牙を剥き出しにして吼えながら襲い掛かってきた。

グウェンフィヴァルが素早く呪文を唱えてドラゴンの時を止め、ガラハッドが剣でドラゴンの頭を叩いて瞬時に気絶させた。また、ドラゴンが襲い掛かってきたので、二人は一気に倒した。そうして散策する間にグウェンフィヴァルは、鍾乳石の欠片や倒した竜の鱗などを、腰のポーチに入れていた。

「調合に使えるのよ」

あらかた、洞窟内のドラゴンを倒して気絶させてしまうと、二人は洞窟の奥に出た。

奥は高い岩壁に繋がっていて、深い谷底や、高い空が見えた。二人は岩に腰掛けて、バスケットを広げて昼食をとることにした。たまに男のガラハッドも戦いに参加した。

ガラハッドが男の自分を呼ぶと、幽霊みたいにスッと現れた。女のガラハッドは「君も食べたら」と男の自分に促した。グウェンフィヴァルはバスケットの中身を、男のガラハッドに差し出した。

「……やる気しない」

男のガラハッドは項垂れていた。アグレスツィアが結婚していたことがショックで、それをまだ引き摺っているのだ。女のガラハッドが「男の私はまだアグレスティアが忘れられないの?」と聞いてみると、男の方は「そうかも知れない」と言った。

女のガラハッドはちょっと悩んだ。

「人妻ですよ。まあ、美人ですしね。アグレスツィアさんは」

男のガラハッドは悩ましい顔をして、女の方はグウェンフィヴァルに聞いてみた。

「ここ、アーサー王も良く何度か攻略してますよね」

「そうね」

男のガラハッドは溜息を吐いて引っ込み、グウェンフィヴァルと女のガラハッドは苦笑いを浮かべた。


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