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マーリン


マーリンはアーサー王の相談役の魔法使い。ドルイドの一番偉い大司祭長だ。

普段は少年の姿でくすんだ緑のローブを身につけ、大きな樫の杖を持っている。

この樫の杖は、四つの宝の一つ、第四の宝、知恵(ソフィア)であり、マーリンが生れたときから師匠から貰いうけたものだ。

時を逆さに生きるさだめにあり、少年期に差し掛かっていたが、アトランティスや天空の城に行って、そのさだめは今は解かれている。だが、取り敢えず今は少年期だ。

妻の名はグウェン……グウェンドロエナ。第四の宝、知恵(ソフィア)の巫女だった。でも、昔に亡くなってしまった。マーリンは、湖の巫女で一番偉いガニエダとは双子だ。マーリンは、ガニエダの恋愛相手……ストラスクライド王国の王、リデルフとは仲がいいのか悪いのか謎だ。敵対していたという話と、仲間だという二つの説がある。

師匠は、マーリンに洗礼を施してくれた隠者ブレイス。

弟子は取らない主義だったが、いつのまにかグウィオンという男の子が弟子になっていた。

マーリンが青年期……遊び人時代だったとき……女の子達と遊びまくっていた時代の話だ。そんなときだったか。グウェンドロエナと出会ったのは。

グウィオンはマーリンの後継者でタリエシンと呼ばれている。二人のマーリンの片方だと言われている。だがまあ、元を辿ると別人だ。

マーリンは、単に真面目な男の子ではない。

何か良くわからない不思議でへんてこで、意味不明なところが沢山ある…しかし、アーサーの大切な……大事な指導者だ。

マーリンは、ウェールズの古いオークの森に足を踏み入れた。

巨大なオークの木々の枝葉の間から、僅かに木漏れ日が差し込んで、木々の根本には大きな茸が幾つもあり、リスやキツネ、ウーゼルぎ、鹿達が駆け回っていた。

マーリンは中でも一番巨大なオークの元に行った。

巨大なオークの木の節々やこぶが、女の顔の形に変わり、喋り出した。

「マーリン、おひさしぶり」

「お久しぶりです。ドライアド」

「『あれ』はちゃんと保管していますよ」

「ありがとうございます」

マーリンはそう言うと、巨大オークの根本を掘り出した。

マーリンが昔にこっそり隠した……手のひらサイズの小箱が現れた。

梟のピュタゴラスが、マーリンの肩で呟いた。

「一体何なんじゃ。急にこんなところに来て。それは何の小箱なんじゃ」

「僕の想い出の小箱ですよ。色々収めたり、出したりしてるんです」

ピュタゴラスは一瞬、マーリンの姿が以前の……老人の姿になったように見えた。

大きな樫の杖を持ち、長く白い髭と髪の、ローブ姿のおちゃめな老人だ。

「そう。わしの想い出の小箱じゃ」

マーリンは眉毛を動かして笑った。


マーリンはウェールズのカマーゼンに生まれた。

元々、父なし子で夢魔インキュバスの子ではないかと言われた。

が、母親が近くに住む隠者ブレイスのところに双子を連れていって相談し、洗礼を施して貰った。なので、それほど酷いことにはならなかった。

だが、どうも、双子の姉ガニエダと共に、時を逆さに生きるさだめになってしまい、老人からはじまってしまった。母親も吃驚していた。

ちょっと、生まれる前にティル・ナ・ノグで本を読みすぎたのだとマーリンは言った。

魔法も始めから上手かった。時を逆さに生きるさだめにあるが、赤子にも青年にもなれた。

マーリンが生まれた頃、当時のブリタニアの王、フォルティゲルンがディナス・エムリスの山に塔を建てようとしていた。

だが、工事がはかどらず、お抱えの魔術師から『基礎の部分に父なし子の血を振り掛けよ』と言われ……父なし子を連れて来いと命令した。

そして、赤子姿のマーリンはフォルティゲルン王の元に連れて来られた。

マーリンは少年の姿に変身して、宣託をした。

『塔の工事が(はかど)らないのは、基礎部分に二匹の竜がいて、戦っているからだ。その戦いもいずれ決着がつく。サクソンの白い竜が勝ち、ブリテンの赤い竜が負ける。……だが、赤い竜は自身の分身によって救われるだろう。貴方は、ガリアに亡命しているアンブロシウスとウーゼル兄弟に焼かれ、塔の中で死ぬ。本当の王は貴方でもアンブロシウスでもウーゼルでもない。だが彼らの血筋から現れるだろう』

そして、その通りになった。フォルティゲルンは塔の中で焼かれて死んだ。

マーリンは、古いオークの森からカールレオン城のマーリン小屋に戻った。

カールレオン城の頂きには竜の旗が風に靡いていた。

公務が終ったアーサーがマーリン小屋を訪れると、マーリンは想い出の小箱を開いていた。

「なあ。マーリンは、どういう女の人が好きなんだ?」

アーサーが聞くと、マーリンは「気配りの出来る人ですかね。気立てが良いというか」と言った。

「アーサーには……僕の妻、グウェンドロエナの話はしたことはなかったでしょうか」

「ないな。ほんの少し聞いたことはあるかも知れない」

「僕には奥さんがいたんですよ。三人姉妹の長女で、何でおとぎ話の長子は悪役が多いんだと怒ってる、面白い人でしたよ。昔、ちょっと遊び人だった時代に出会いました」

外で、女使用人がガミガミ怒ってて、他の女使用人を叩いていた。

「僕が昔どうだったか、アーサーに話したことありましたっけ」

「ない」

マーリンはリモコンでテレビをつけ、テレビを見ながら話した。 テレビでは、高い山の麓の美しい入り江が地震で破壊され、すっかり死に絶え、跡形もなくなくなってしまった話をしていた。

「昔、僕は女好きだったんです」

「女好き?」

「まあ、何というか。魔法を教える代わりに付き合えと、女の子達に言って。それで、ガニエダに怒られて乙女の城に出入り禁になったし……。他にも色々……、ゲールとブリタニアの情勢の問題もあったんですけどね。色々あって岩屋に閉じ込められてしまったことがあります。まあ、他のドルイドに手伝って貰って出ましたけど」

アーサーはポカーンとマーリンを見つめながら、辿々しく言った。

「出られて良かったな」

「出られて良かったです。まあ、若かったんですよ。ですから、今は女性関係は控えているわけです。でも、グウェンドロエナにはちゃんと本気だったんですよ」

マーリンはふうと溜め息をつきながら続けた。

「あと、昔に姉のガニエダの恋人……リデルフと……まあ余り仲良くない相手と、アルスレットの戦いに挑んだときなんですけど……。戦いの最中に、空に異様な光景を見まして」

「うん」

「なんか、それで正気を失って野人になってしまって大変だったんです」

「……そ、そうか」

「僕は森で陰遁生活を送りました。妻のグウェンドロエナには離婚して再婚を勧めたんですけど」

「えらいな」

「ちょっと狂気が再発しまして。牡鹿に跨がって鹿の群れを引き連れて、結婚式に押し掛けてしまって」

アーサーは何と言っていいかわからなかった。

「結局、牡鹿から角をむしり取って、花婿に投げ付けて花婿を殺してしまったんです」

アーサーはもはや何も言わなかった。

「僕は森に帰りました。グウェンドロエナは結局、再婚には至りませんでした。双子の姉妹のガニエダは僕のために星の研究が出来るように、星の観測所を作ってくれました。……そして、僕は、正気を取り戻してゆきました。わけがわかんないでしょう」

マーリンは少年姿で遠い目でテレビを見ながら、ふうと溜め息を吐いた。

「色々あったんだな」

「そりゃ、僕は貴方の倍以上生きてますからね。色々ありましたよ。その後…僕は成長したウーゼル王に仕えました」

アーサーは少し迷って……母イグレインとゴーロイスのことについて聞いてみた。

マーリンは「あのときは、ああするしかなかった」と言った。

だが、その後は続けなかった。『偉大なる王。貴方が生まれるためには』とは。

マーリンは窓の外を見上げた。フクロウのピュタゴラスが窓の外……屋根の上で羽根をつついていた。

「お爺さんですからね。僕は」

そのとき、アーサーの目には、くすんだローブに長い白髭、白髪の老人が笑うのが見えた。

アーサーも少し笑った。

(……そう、彼はマーリンだ。魔法使いマーリン。僕の師で友達)

「まあ、その後はエンジョイしまくりましたけどね。世界旅行したり宇宙旅行したり時空旅行したり」

マーリンはいたずらっぽく笑った。

アーサーは、グウェイズブィルのボードの駒を手に持ちながら、マーリンに言った。

「マーリン、君は僕のことどう思う?」

「アーサーはグウィズブィル好きですよね」

「まあね」

アーサーは、近くにあったマーリンの眼鏡を掛けて、鏡を見てみた。そして、眼鏡を置いた。

代わりにマーリンが眼鏡を掛けた。

「また、新しく奥さんを迎える気は?」

「どうでしょうかね。懲りたんで、控えめにしておきますよ。でも、考えてもいいかも知れませんね」

「最近は、ガリアやヒベルニアや、スコーティアとの貿易が盛んですね」

「うん。助かるよ。サクソンとも多少は交易してるし」

訓練場から騎士達の賑やかな声が聞こえる。

「僕も、弓の訓練でもしに行こうかな」

アーサーはマーリン小屋を後にした。

訓練場では、モルドレッドとチューバが一緒に剣を振るっていた。

アーサーはモルドレッドに「お前、最近、強くなってきたし友達も出来て良かったな」と、声を掛けた。モルドレッドはアーサーが声を掛けると、なんだか睨み付けてきて、アーサーは少し後ずさった。

「……俺は、あんたを父親と呼んでもいいんですか。ガラハッドは…ランスロットを父さんと呼んでました」

モルドレッドは視線を下に逸らした。

「あんたにとって、俺は……なんなんですか。俺は……息子を名乗っても許されるんですか」

今やライオンに見えるチューバは、何と言っていいのかわからずわたわたしていた。

「……俺って一体なんなんですか」

アーサーは何と言っていいか迷ってしまった。

「うーん。多分、お前は俺の息子だ」

「た、多分……」

「父上と呼んでもいいよ別に。だって俺とグウェンフィヴァルの息子だろ。そんな感じするもん」

アーサーがそう言うと青いマントがバサリと風に翻った。

あっさりしたアーサーに、モルドレッドはポカーンとしていた。

「髪は俺と同じ金髪。目も俺と同じ青色」

「王位の話は」

「そこが酷く面倒だし、ややこしい。お前は俺とグウェンフィヴァルの息子だが…。モルゴースの息子として育てられたからな。モルゴースは姉上だ。そこが問題なんだ。実の姉との私生児だって思ってる奴も多いから。乳母や産婆もいないし、証明しづらいと思う」

「……俺は別に、王位なんていりません」

「……悪いな。王位はやれそうにない。でも」

アーサーはモルドレッドの頭を撫でて笑った。

「このウェールズでは…お前は裏切り者ではなく、英雄と讃えられるだろウーゼル」

それに、これから、グウェンフィヴァルがアーサーの子供を産むかも知れない。

モルドレッドの弟や妹が出来るかも知れない。モルドレッドの黒い服と白いマントが風にそよいだ。モルドレッドはアーサーに騎士の礼をとった。


数日後、東方からチャイナ服を着た男が、軽トラックに様々な雑貨を乗せ、空を飛んで売りに来た。マーリンは、怪しげなものを幾つか買っていた。

それを、エレインとが子供を連れて、不思議そうに見ていた。

小さな女の子が「マーリンしゃま、何やってるの?」とエレインに聞いた。

女の子は、弟である黒髪の男の子と手を繋いでいた。

金髪のは、幼い息子……パーシヴァルに似た黒髪のローエングリンを抱いていた。

夜空の星を眺めるモルドレッドに、グウェンフィヴァフが話し掛けた。


後日。コーンウォール地方に住む公爵コノンの娘……盲目の少女エメラインが、ケントの新王オズワルドに拐われてしまった。コノンはアーサーにエメラインを嫁がせるつもりだった。

アーサーとマーリンで捕われのエメラインを助け出し、マーリンは……マーリン自身眼鏡を掛けていたが……。魔法でエメラインの目を見えるようにしてやった。 エメラインは長い茶髪の美少女だった。

エメラインはマーリンに惚れたようで、頬を染めてマーリンを見上げていた。

マーリンはそれから、エメラインの住む城へ通うようになったようだ。


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