モン・サン・ミッシェル
航海に出て数日が経った。カールレオン城ではエレインが産気づいていて、医師や産婆に診て貰い「多分、男の子と女の子の双子ですね」と診断されていた。なんだか重くて「双子じゃないか」と言われていた。
海の上のプリドウェン号では、何度か、青色に白い水玉の海竜や魚人が現れたので、皆で倒した。 食堂で、リュネットは青いローブで青い髪を高く結っていた。籠に飾られた梨をつつきながら「彼氏欲しいな~」と呟いていた。
「梨って可愛いよねー」
黙々と食事を取っていたグウィオンが「リュネットさんは美人ですよね」と言った。
マーリンは腕を組んでガラハディアを見て悩んでいた。
「ガラハディアはガラハッドについてどう思います?」
「……私は、悪い人じゃないと思います」
「そうですね。僕もそう思いますよ」
グウィオンが現れて、マーリンに頷いた。
……モン・サン・ミッシェル。
フランス北西部。サン・マロ湾に存在する、海に浮かぶ美しい小島だ。ヨーロッパでも潮の干満の差が激しく、頂きにはベネディクト会の修道院がそびえ、下部は門前町が並んでいた。
潮が引いた砂地は、ところどころ水溜まりが出来て、漁船が幾つも取り残されていた。
マーリンが、アーサーに説明した。
「ここは、潮の満ち引きがもの凄く激しいんです。
波が引いたら、速く渡らないと、すぐまた波が押し寄せて海になってしまうんです」
「へえ。良く知ってるなあ」
「昔、旅行で来たことがありますから。数世紀後には世界遺産に登録されますよ」
「……でも、じゃあ、どうやって、あの…モン・サン・ミッシェルに行くんだ?」
マーリンは大きな樫の杖に乗って、宙に浮かび上がった。
「僕が満ち潮の粉を撒きますから、このままモン・サン・ミッシェルの港に船を繋いで、降りましょう」
やがて、プリドウェン号はモンサンミッシェルに着いて、皆、船から降りた。
ケイはロビン・フッドから貰った弓矢を手に「暴れるぞ~」と笑っていた。ヴァレリンとマーリンは航海の間で随分話すようになっていた。はワイン色のマントで、眼鏡を掛け、マーリンに聞いた。
「マーリンは、どういうタイプの女の子が好みなんだ?」
「……ブレイス師匠に女装させられるんですよね」
「……そういう方向でいいのか?」
「そうですね。そうしようかな。僕も、昔は良く何人もの女の子と付き合ったもんですよ。ふふふふふ」
マーリンは杖を振って、背の高い金髪イケメンになった。
「おーイケメンイケメン」
「でも、そうですね。僕は、ブレイス師匠や姉妹のガニエダや……昔に失った妻が大事ですね」
マーリンは溜め息を吐いた。
「魔法で見た目などどうにでもなりますが……。やはり、逆成長の呪文を解きたいですね。ヴァレリンはアトランティスの失われた術に詳しいですよね」
「親が古代アトランティスの研究をしてたから、その名残さ。成長呪文は、やり方は教えるなと言われてるから、そうしてる。すまないけどね」
ヴァレリンは「巨人戦か」と呟いた。モン・サン・ミッシェルの周辺は、マーリンの魔法が解けたのか、潮が引いて、渡り鳥が浜辺に羽根を休めていた。風が強く吹いていた。
ヴァレリンは眼鏡をポケットに掛けて、ワイン色のマントを風に靡かせた。そして、赤い石を掲げた杖を出した。マーリンは、肩まで伸ばした金髪を掻き分けた。緑色のマントを羽織り、杖も変化して、樫の杖の先に、マーリンの瞳と同じ、緑色の石を掲げていた。
「ヴァレリン。君、もう少し他人に興味を持った方がいいですよ」
「そうか。でも、僕は多分これでいいんだ。結局、現実主義だし」
二人の後ろから、黒髪をボサボサに靡かせたガラハッドが、白いマントをバサバサ風に靡かせて、聖杯剣を背負ってついてきた。
「あいつ髪ボサボサだな」
三人の前を、青いマントを靡かせ腰に聖剣を穿いたアーサーや、眼鏡を掛け赤いローブにアリアンフロッドの杖を持った……栗色の髪の髪を靡かせたグウェンフィヴァルが歩く。続いて、ケイ、パーシヴァルとボールスは赤いマントを靡かせ、ガウェインも緑のマントを靡かせて、話しながら。ランスロットはガラハッドを心配していた。 リュネットは青い髪を靡かせて、キャーキャー騒ぎ、グウィオンは何も言わず淡々と、皆の後をついて歩いていた。
「……綺麗なところだね」
ガラハッドは呟いた。背負っていた荷袋に三毛猫が入っていて『ニャー』と鳴いていた。
大体、モンサンミッシェル全体の下部は門前町で、上部……中腹から頂きがベネディクト聖道だ。七百八年、司教聖オベールが大天使ミカエルに献堂した順礼地の一つだ。
参道は二つで、聖堂の下にはノートルダム地下聖堂があり、回廊の下には騎士の間、修道士達が執筆や写本を行っていた。一行は、ノートルダム聖道でホエル王に出迎えられた。
ホエル王は背が高く、痩せていて黒い髭が生えていた。
「良くいらっしゃいました。夜毎、巨人が襲って来るので困っているのです。どうにか退治して頂きたい」
「今、巨人の居場所はわかるんですか」
「……いいえ。兵を出して探させてはいるのですが」
取り敢えず、巨人が現れるまで皆、モン・サン・ミッシェルで待つことになった。
グウェンフィヴァルとリュネットとガラハッドは、土産屋の集まった参道に出て、名物のお化けオムレツを食べていた。
「凄く綺麗なところよね」
「この後で色々回ろうよ」
リュネットはキャッキャと騒ぎ、グウェンフィヴァルは、ガラハッドを心配していた。
「ガラハッド……。貴方、大丈夫なの」
「……大丈夫だと思います。ありがとうございます。グウェンフィヴァルさん」
聖堂の木にもたれ掛かり、海辺の風景を見つめながら、ヴァレリンとマーリンは話していた。
マーリンは、緑のマントを羽織り、肩まで金髪が伸びた美青年の姿をしていた。
ヴァレリンが溜め息を吐いた。
「何か最近疲れてて」
「色々やり過ぎですよ、君」
「もう、僕は疲れた。嫌だ。癒されたい。この風景は癒されるな」
「……ガラハッド。彼女は彼女です。それでいいんです。君や僕は自分のことを考えなきゃ。…僕は、もっと姉のガニエダのことを大切にしなければ。貴方も、余りやり過ぎないで」
「君の姉ってどんな感じなんだ?」
「薄い茶色の髪で三つ編みですね。まあ、美少女ですよ」
アーサーも、聖堂からぼんやりと空を見つめていて、グウェンフィヴァルが近付いた。
「アーサー、どうしたの?」
「ちょっと疲れて」
船旅で、アーサーだけでなく皆も少し疲れていた。
女のガラハッドが男のガラハッドに言う。
「私は貴方をどうすればいいの」
「僕は君さ。それだけさ。本当に……それだけなんだ」
「そうだね。貴方は私なんだ。私はどうしたらいいの」
「強く」
「何故、そこまで」
何も言わずに、男のガラハッドは女のガラハッドに戻った。
「そう、私は。強く。でも、私は……」
参道で土産物屋を見ていたリュネットは、書店でグウィオンを見つけて話しかけた。
「何やってんの。何か、いい本でもあった?」
「……微妙に。リュネットさんは何やってるんですか」
「土産に何か買おうかと思ってさ~」
「リュネットさん、美人ですよね」
「うん」
リュネットが、犬だか猫だかの耳のカチューシャを見つけて、グウィオンに掛けてみた。
「おー可愛い可愛い」
売店で塩漬け肉を食べるアーサーが見えた。リュネットが「塩漬け肉食べよー」とグウィオンを誘って二人で食べた。聖堂の木陰で、ヴァレリンとマーリンは話していた。
「疲れましたね」
「まあね」
ガウェインは女の子達にキャーキャー騒がれ、ケイとパーシヴァルとボールスは名物を食べ歩き、ランスロットは海辺を歩いていた。 グウェンフィヴァルは竪琴を出して歌を歌っていた。
数日後、腹が出て獰猛な巨人が現れてホエル王の娘、ヘレナを誘拐したので、アーサー達は巨人を倒した。マーリンの魔法やヴァレリン達の魔法、アーサー達の剣、ケイの弓矢などで、巨人は倒された。幸い、ホエル王の娘ヘレナを救い出すことが出来て、一行はモン・サン・ミッシェルを後に、一旦、ブリテンに帰ることにした。




