プリドウェン号での会話
甲板では、パーシヴァルとランスロットが燻製肉を食べながら、ベイリンとベイランについて話してた。
「あいつら、奥さんとどうなの?」
「自由気ままだからな。また新たに彼女でも作ってるんじゃないか」
ガラハッドは白いマントに白い服で、船の部屋で外を見ながら、あれこれ考えて、もう一人のガラハッドと話していた。もう一人のガラハッドがどんな道筋を辿ったのか。そして、彼が行なった過酷な聖杯探求の旅……。聖杯探求の旅の話を聞いて、ガラハッドは怯えた。
「男のガラハッドは何となく、お父さんに似てますね」
「そうかなあ。僕は父さんよりは、女の人とか、割りとキッパリ断るけどな。別に女嫌いじゃないけど」
突然、後ろで大きな物音がして……船員が樽を転がした音だったのだが、女のガラハッドがびくびく怯えているので「君はビビりだなあ。僕もはじめはそうだったなあ」と感慨深く言った。ガラハッドは船の縁にいるマーリンを見つけた。ガラハッドは声を掛けた。
「マーリン様」
ガラハッドの足元でニャーと三毛猫が鳴いて、マーリンがよしよしと撫でた。
「君達、男のガラハッドはガラハッドで、女のガラハッドはガラハディアにしたらどうですか」
女のガラハッドと三毛猫を見つめてマーリンは言う。
そこへ、眼鏡を掛けた黒いローブの男が甲板に現れて、近付いてきた。
「君達は一体何やってんですか」
男は眼鏡を掛け直した。眼鏡がピカリと光る。
「……あなたは、ヴァレリン」
マーリンが呟いた。
「……急に、ガラハッドがもう一人現れたもんで、悩んでたんですよ」
「ああ、兄妹ですか、あんたら」
「みたいなもんですね。別の次元のガラハッドが出てきました。あんまり女のガラハッドがアレなので、ダメ出しに」
ヴァレリンが笑いながら、ヤレヤレと溜め息を吐いた。
「おやおや。これは大変なことだ」
(『ガラハッド』。元々、彼女は僕が……ランスロットとエレインの子供に、成長促進などの魔法を掛けて造った。ホムンクルスだ。……別次元のガラハッドね……興味はあるが…ふっ。似たようなもんだろうな。似ているからな。彼も恐らくはホムンクルス……。まあ、人ではないのだろうな。……そう、恐らくは彼女と同じ、『白竜』だ)
ガラハディアは何だか、ヴァレリンにびくびくしていた。
「あんまりびくびくしないで」
「……あ、あの、普段は女の子の猫なんですけど」
「オカマですか」
「ちょっと否定出来ません」
ガラハディアはヴァレリンに怯えていた。
「うーん」
ヴァレリンは腕を組んで考え込んだ。
「めんどくさいなあ」
「はあ?」
「君、めんどくさい。大して美人でもないし、ヘタレだし、同じ白い格好の女でも、ブランシュフルールは美人なのに。びびり過ぎ」
「…はあ。そうですね。男のガラハッドは凄くかっこいいですし」
「彼は最後まで登り詰めたのさ。違う次元の沢山のガラハッド。聖杯を手に入れる純白の騎士。
その多くは、聖杯を手にして終わる。だが、彼は砂漠の国の王にまで登り詰めたんだ」
ヴァレリンはガラハッドに淡々と言った。
「まあ、君も精々頑張りなよ」
「……あ、あなたは、一体何なんですか?」
「さあね」
ガラハッドが去って、ヴァレリンとマーリンは話した。足下には猫であるガラハッドが残っている。
「どう思いますか」
「さてね」
マーリンは、眼鏡を掛け直すヴァレリンを見て、何て言えばいいのかわからなかった。
「……ヴァレリン、貴方は何を考えているんですか」
「どう思う?」
「……わかりません。僕には」
男の……ガラハッドの元に、タリエシンと呼ばれるの若い天才ドルイド……グウィオンが現れた。
「……僕は時を司る魔法や召喚術が使える。僕なら、君を元の世界に帰せる」
猫であるガラハッドは肩をすくめる。
「……まだ、暫くはここにいるさ。彼女の先生としてね」
風が吹いて、ガラハッドの黒髪と白いマントが靡いた。
近くの壁の影で、リュネットが両手を頭の後ろに組んで、ガムを噛んで風船を作っていた。
ヴァレリンとマーリンは甲板で話していた。
「ブリテンの赤い竜とサクソンの白い竜の話ですが……ヴァレリン、貴方もわかってますね」
「ああ、ブリテンの赤い竜はサクソンの白い竜に倒されるという話だな。まあ、僕はサクソン……ゲルマン被れしているがね」
「聖杯はダグダの、またはブランの……鍋だか釜だかが元だと言いますね」
「……ブランは白という意味だ。そして、ベンウィックのバン王。バン王はゲールの神……ブランの血筋だと言われている。ベンもバンもブランと同じ白の意味。
そして……聖杯を手にするのは……バン王の子である、ランスロットの子……白き騎士ガラハッドだ。……さて。『白』ばかり出てくるわけだが」
ヴァレリンは眼鏡に指を掛けながら言った。
「聖杯とは何なのだろうね。……まあ、キリストの血筋だの、キリストが最後の晩餐に使った聖杯だの、ダグダ…またはブランの鍋だの釜だの……色々なものを言うみたいだが。僕は融和の概念なのかもしれないとも思うよ。……ブリテンとサクソンのね」
ガラハディアはランスロットとエレインの船室で、不安そうな顔で呟いていた。
「……何か良くわからないんですけど、これでいいのかな?」
ランスロットが「お前は何を言ってるんだ?」と言った
「……お父さん、私どうすればいいの。私、別に、砂漠の王とか、支配者にならなくったっていい。私は……いつの間にかこうなってて、でも、無理に何か凄いものにならなくたっていい。……聖杯は……既に母さんの手から、巫女さんに祀られてる。だから、聖杯を探す必要はないんだ。既にあるのだから。……でも、何だかね、私どこかで見た気がするの。そして知っている気がするの。こんな旅を」
「聖杯探求?」
ランスロットの言葉に、ガラハッドは頷いた。
「いつか猫ガラハッドから聞いた、聖杯探求の旅に似ている気がするの。この旅は。聖杯探求の旅はね、次々に人が死んで行くんだって。私、そんなのは嫌だ」
「大丈夫、それとは違うよ」
女のガラハッドの頭を、ランスロットは撫でた。
あるとき、食堂で本を手にしたアーサーがガラハッドに言った。
「君は僕に似ているな。……悩み過ぎるな。気楽になれ」
アーサーはいつものように、青いマントを羽織っていた。
そこへ、グウェンフィヴァルが通りかかった。
「ガラハッド、最近、顔が暗いわよ。……どうしたの?」
「ちょっと……色々悩んでいて。グウェンフィヴァルさんは美人ですね。かっこいいですし」
「そう? もう少し背が高ければって思うのだけど」
グウェンフィヴァルはガラハッドより小柄だ。
アーサーは、塩漬け肉を食べながら言った。
「グウェンフィヴァル、グウィズブィルでもするか?」
「嫌よ。アーサーに勝ったことないんだもの」
食事の後、本を開きながらアーサーはガラハッドに向いて言った。
「ガラハッド、あんまり根、詰めんなよ」
その後、ガラハッドが自室で本を読みながら、三毛猫を、いいこいいこと撫でていると、グウェンフィヴァルがやって来た。
グウェンフィヴァルは、ピンクの花の髪飾りをガラハッドにあげた。
「……やっぱりこっちのが合ってるかしらね。ガラハッドは身長はやや高めよね」
「ありがとうございます。グウェンフィヴァルさんは小柄ですね」
ガラハディアは溜め息を吐いた。
「私、前髪長いけど前は開いてるんだよなあ」
船の甲板の後ろの方で、男のガラハッドが白いマントを風に靡かせて溜め息を吐いていた。
ランスロットは甲板の上で、マーリンや、グウェンフィヴァル、リュネットが奏でる竪琴に聞き入っていた。グウェンフィヴァルは正当なゲール音楽なのだが、マーリンとリュネットはちょっと変だった。マーリンはビートルズを歌って、リュネットはポップス歌っていた。
そこへ、アーサーとケイがやって来てランスロットの隣に座った。
「今頃、キャメロットでは皆どうしてるかなあ」
「ガウェインは相変わらず、女の子に壁ドンしてるんじゃないですか。ベイリンとベイランの双子はどうなんでしょうね。自由気ままに旅でもしてるかも知れませんね」
「……あいつらには、あいつらの旅があるさ」
ランスロットに、ケイが言った。
「ガウェインはついて来たがってましたね。一緒に来れば良かったのに」
「国の守りが薄くなるからなあ」
そこへ、背の低い銀髪の少年、グウィオンが近付いてきた。
「いざとなれば、僕が召喚しましょうか?」
「召喚?」
マーリンが竪琴を奏でながら言った。
「グウィオンは時の魔法や召喚術が得意なんですよ」
「……じゃあ、ガウェインでも呼んでみましょうか」
グウィオンが呪文を唱えると、空中に水平に魔方陣が光を帯びて浮かび上がった。
「……出でよ、オークニーのガウェイン!」
そう言うと、ちょうど使用人に壁ドンしていたポーズのガウェインが現れた。 「ちょ、おま、何するんだよ! いいところだったのに!」
ガウェインは赤い薔薇を持ちながら憤慨していた。
「……ん? あれ? ここは……?」
「突然ですが召喚させて頂きました」
グウィオンが淡々と言う。
「ここ……船の上じゃないですか! 何なんですか!」
ガウェインに、アーサーが説明した。
「……いや、グウィオンが召喚術を使えるって言うから」
「俺を旅に連れていってくれるんですか?!」
ヴァレリンが通り掛かって、フー、ヤレヤレと首を振った。
ガラハディアは食堂で頭に花の髪飾りをつけ、三毛猫の隣で、パンに蜂蜜を掛けて食べた。
魚介類は食べられないので避けた。
ヴァレリンが甲板で、どこまでも続く海を見ながら「面倒臭いなあ。もう、困ったなあ」と愚痴を溢していて、マーリンが近づいた。
「なんかマーリンってぶりっ子な僕って感じだな」
「ぶ、ぶりっ子とは失礼な!」
ヴァレリンの言葉に、マーリンは酷く憤慨して怒った。
「そうだなー。まあ、ぶりっ子にもいい子はいっぱいいるからな。他人を否定していても仕方がない」
ガラハッドは船の甲板の後ろ側で一人、海を見つめていた。 ランスロットとガウェインが話していた。
「もうすぐ巨人戦なんだけど巨人ってどう思う?」
「わからない」
ガウェインもそう答え、ランスロットも呟いた。
「そうだなあ、僕も巨人じゃないからな」
マーリンは甲板でヴァレリンに言う。
「……ヴァレリンは何でそうなっちゃったんですか。ドルイド七賢人の一人でありながら、サクソン族の魔法や邪竜教団の魔法に興味を持ったり」
「君はいい奴だね。そう思うよ。でも、僕はまあ何でかこうなってたんだ。僕は。僕はね、人間じゃないんだ。僕自身もホムンクルスなのさ。研究者の親が造った……ね。魔法の研究は楽しいよ。マーリンもそうだろう」
「ヴァレリンは邪竜教団に行ってたのは良くなかったと思いますよ」
「まあ、邪竜教団については今はそんなに興味はないよ。サクソン族の魔法は興味深いがね」
足下に三毛猫が歩いていて、ヴァレリンがふと聞いた。
「ガラハッド、お前は何で出てきた?」
「……ふぅ。ガラハディアが余りにも酷いから。そして、彼女を……強くするためさ」
「邪竜教団を潰した前線の中に、貴方もいましたね」
マーリンが困り顔で呟くと、、ヴァレリンは船縁に寄り掛かって言った。
「まあね」




