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ガラハッドとガラハッド2

ガラハッドは街の大聖堂に入って、椅子に座り、ステンドグラスとキリストやマリアの像を眺めながら、聖歌を聴いていた。

高い天井に響き渡り、震動する神聖な声が、ガラハッドは好きだった。

(……戦いなんて、そんなもの、しないで済むなら、その方がいいのに)

 ガラハッドは、自分がそんなに美人ではない自覚があった。彼氏なんて出来たことがない。卓の騎士達も、仲間ではあるが何だか心に距離があった。 目の前に仲良く話すカップルがいて、少しイラッとして溜め息を吐いた。

(……私は、考えてばかりな気がするな。何で、私は戦ってるんだろうか。女の子達は皆、おしゃれに着飾って、働いて、男の人と恋をして、結婚をして……)

ガラハッドはステンドグラスを見つめながら思った。

(何で私は一人で、なのにもう一人私がいるんだろう)

「……僕のことは、余り、ぞんざいに扱わない方がいいよ」

 すっと、男のガラハッドが幽霊みたいに現れた。

「君の戦闘力に関わるからね。僕が随分、補ってると思うよ」

「そ……そうなんですか。ありがとうございます」

 男のガラハッドは、暗いというよりは、とってもクールだった。

「そう、僕はめちゃくちゃ強いからね」

 男のガラハッドはそう言って、口元に笑みを浮かべた。

「か、かっこいいですね」

「そう。僕は神聖で強くてかっこいいからね」

 数日後、アーサー王達は沈んだ古代大陸に遠征するため、航海の旅に出ることになった。留守中は、ガウェイン達に任せる。

 ……だが、まず巨人退治のため、ガリアのブルターニュとノルマンディーの境近くの海に浮かぶ、聖なる小島に向かわなければならない。その小島は、モン・サン・ミッシェル。美しいと名高い巡礼地だ。そこに、巨人が現れたらしい。アーサーの城にいる巨人は優しく大人しいが、モンサンミッシェルに現れたのは、オークみたいな巨人らしかった。

メンバーは、アーサーが言っていたメンバーに加え、キリスト教の修道士からは、カールレオン城の礼拝堂を預かっている聖ドゥプリシウスに代わり、聖ギルダスが乗り込むことになった。ドルイド養成所や乙女の城からは、三人。グウィオンという少年と、リュネットという少女。それに、古代アトランティスに詳しいという、ヴァレリンという、眼鏡を掛けた黒いロープ姿の男が同行することになった。

アーサー達は、見送りの人々と共に、キャメロットに程近い、ウェールズ北東部にある港へやって来た。そこで、ドルイドの三人と合流する手筈だ。


港は、浜辺に木の板を組み合わせて造られていた。

幾つもの帆が畳まれた船が並んで、ロープで木の棒に括りつけられいて、そこら中に交易品を入れた木箱や樽が沢山積み重ねられていた。かもめが沢山飛び交っていて、海ならではの潮の匂いが漂う。アーサー達が乗る……マーリンが用意していたプリドウェン号は、数世紀先に生み出されるような、見事な帆船だった。

そこで、杖をついたガニエダやタナブルスら……ロープを纏ったドルイド達数人がやってきて、マーリンやアーサーに話しかけてきた。

「……アーサー王。私らドルイドからは、ヴァレリン、グウィオン、リュネットの三人が同行します。どうか、邪竜教団を止めて下さい」

「アーサー王。どうか、わしらの成長の呪いの解き方も見付け出してくれ。…失われた大陸ならば、古代文明の術が沢山ある筈じゃ」

「はい。わかりました。絶対とは必ずしも言えませんが…全力を尽くすつもりです」

アーサーはケイ、マーリンと共に、タナブルスとガニエダと握手を交わした。

アーサーは、タナブルスらの隣にいる眼鏡を掛けた男に目を向けた。

「……えーっと。貴方が」

「ヴァレリン。ドルイド七賢人の一人じゃ。……悪そうに見えるが、まあそこまで悪い奴じゃない……とは思う。そう、言い切る自信はないが」

「……は、はあ」

「どうぞよろしく」

 ヴァレリンが眼鏡を掛け直しながら手を出し、アーサーはちょっと苦手意識を感じながら握手を交わした。

(……うん? 何だ? 何か苦手な気がするな。うーん、何でだろう)

続いて、タナブルスは後ろに控えていた、背の低い銀髪の男の子と、茶髪を後ろで纏めた女の子の二人を前に出した。

「こっちはグウィオン。『タリエシン』と呼ばれる、我がカマーゼンのドルイド校、きっての天才じゃ。マーリンの後継者と言われている。……こっちはリュネット。

若く見えるが、戦闘に長けている二人じゃ。邪竜教団の本部を見つけたとき、プロの大人のドルイドに並んで戦闘に加わっておったからな。……きっと、力になる筈じゃ」

アーサーは二人を見た。グウィオンは、背が低く、おでこの開いた銀髪で黄緑色の瞳だ。

緑や茶色、白を基調にした幾何学模様のぶかぶかのローブを着ており、リュネットはミニスカートを履き、貝や天然石のアクセサリーをジャラジャラ付け、青い髪を後ろで高く纏めてポニーテールにしていた。グウィオンはマーリンに近付いた。

「マーリン様、お久しぶりです」

「お久しぶりです、グウィオン」

 マーリンは、隣にいるアーサーにグウィオンを紹介した。

「アーサー。彼はグウィオン。カマーゼンのドルイド学校の代表として来ました。僕の後継者と言われてるんですよ」

「……へえ。そりゃ凄いな。よろしく。どうやったらそうなれるんだ?」

「……マーリン様に付きまとっていたら、いつの間にか天才と呼ばれていました」

アーサーは、可愛い子ぶったマーリンと、淡々としたグウィオンを見比べて、何と言っていいかわからなかった。……が、取り合えずグウィオンと握手を交わした。

リュネットは荷物を詰めたトランクを手に看板に上がり、グウェンフィヴァルを見つけて声を掛けた。

「やっほー。グウェンフィヴァル」

「ええ……。リュネット、あなたは乙女の城の代表として来たんだって?」

「そう。沈んだ大陸には、古代の術やお宝がたくさん残ってるって聞くから、興味があってさ」

 リュネットは、右手を腰に当てながら言った。

 グウェンフィヴァルは、栗色の髪を髪飾りで後ろに纏めて黒いマントを羽織り、丈の短い赤いミニスカートをはいていた。

「あんたの城はどうしたの?」

「……車輪(チャリオット)城は、城代に任せてるわ」

ガラハッドは、母のエレインに抱き締められていた。

「……きっと、無事に帰ってくるって信じてるからね」

「うん。ありがとう、お母さん」

「……行ってくるよ、エレイン」

「行ってらっしゃい。二人とも、絶対帰ってきてね」

ランスロットはエレインにキスをした。

「お父さんとお母さんはラブラブだなあ」

 やがて、皆が乗り込むと、プリドウェン号はウェールズ北西沖の港を出港した。

マーリンが雇った船員達が、ロープを引っ張り上げて、真っ白な帆をいっぱいにあげる。

「面舵いっぱーい!」

帆はやがて潮風を受けて、青い海原を走り出した。

グウェンフィヴァルはリュネットと、パン屑をカモメ達にあげてはしゃいでいたが、船員に「あんまりやり過ぎるなよ、カモメの糞まみれになるからな」と言われ、餌をあげるのをやめた。ガラハッドは、船員達に邪魔そうにされて、避けながら、エレインが見える場所へ移動して、船のヘリに掴まった。港で、エレインが手を振っていて、自分も手を振り返した。

ガラハッドが不安げに海を見つめていると、荷物を詰めた袋から、三毛猫が顔を出して、うんと伸びをしていた。

「おはよ」

三毛猫は可愛くニャーと鳴いた。どこからか、声がした。

「いいかい。ガラハッドっていうのは、白くて、神聖で、強くて優しくて、ちょっとミステリアスなんだ」

「よ…妖怪猫だ」

ガラハッドの耳元の白い羽根飾りと白いマントが風に靡いた。プリドウェン号は、マーリンが出した船なだけあって、とても速く海の上を駆けた。騎士達は、船室のベッドで武器や鎧を磨き、グウェンフィヴァルは船内の医務室で、医療用の道具や薬品を並べ、アーサーとマーリンは作戦室で今後の話をしていた。夜は、グウェンフィヴァルやリュネットやマーリンやグウィオンが、竪琴で歌を歌った。賢者(ドルイド)の基礎は吟遊詩人(バード)だ。グウェンフィヴァルやマーリンは、空の天候の様子なども、航海士と話していた。食事時は、聖ギルダスがありがたい話をして、皆で讃美歌を歌った。ガラハッドは、大体、甲板から海の景色を眺めるか、船室で引き込もって、マーリンが持ってきたという本を読むことが多かった。

……青髭の話でプルプル震え「ぎゃあー!」とびびりまくっていた。

「……あ、青髭、苦手過ぎる」

更に、死神と、みの虫お化けの本を見てびびっていた。

「……死神も、みの虫も苦手だ」

グウェンフィヴァルやリュネットも、青髭の話には気分が悪くなったようだった。

その頃、ガラハッドは猫に「弓矢の訓練もした方がいいよ」と言われていた。

ガラハッドは基本、引き込もっていたが、たまに猫と一緒に甲板に出たり、アーサーや他の騎士に混じって弓矢の訓練をしたりした。船には他にも猫がいて、三毛猫は他の猫達にも挨拶したり、仲良くしていた。

聖杯剣は、弓矢の形にも姿を変えることが出来ることを知った。

ガラハッドが船縁でどこまでも広がる水平線を見ていたら、ランスロットとパーシヴァルがガウェインについて話していた。

「ガウェインの奴、女嫌いなの?」

「いや、あれは女好きだろ」

ガラハッドは猫に聞いた。

「君は女の子嫌い?」

「嫌いじゃないよ!」

途中、雲がどんよりと曇り、青色に白い水玉の巨大な海竜、シーサーペントが現れた。

グウェンフィヴァルが騎士らに跳躍の呪文を掛け、アーサーやランスロット、パーシヴァルが剣を手に、シーサーペントに斬りつける。だが、鱗に弾かれてしまう。

「駄目だ、こいつ鱗が凄く固い!」

三人は、シーサーペントに吹き飛ばされ、船の甲板に振り落とされてしまった。

グウェンフィヴァルは急いで、空気のクッションを作って三人が壁にぶち当たるのを防いだ。グウィオンがシーサーペントに時を止める魔法を掛け、シーサーペントの動きを封じた。

「……今の内に」

ガラハッドは弓矢で、光の矢を放った。すると、シーサーペントの頭の鱗がボロボロと落ちた。

「今だ!」

アーサーとランスロットとパーシヴァルは、剣を手にシーサーペントに振りかぶった。

そして、ランスロットが顎を、バーシヴァルが腹を、アーサーが頭を突き刺して、シーサーペントは海に沈んだ。空の淀んだ雲間から、光が差し、空は雲が引いて青く晴れ渡った。

やがて、海の向こうに水の引いた砂地と、美しい、聖堂を頂きに抱いた小島……モン・サン・ミッシェルが見えてきた。


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