ガラハッドとガラハッド
他の騎士から、ガラハッドは何だか変な奴扱いされていた。
血が流れるのが嫌いだ。戦いの場も嫌いなのだ。訓練も苦手だ。普段、運動神経などない色街へ女遊びに誘っても、来ない。だけど、円卓の騎士なのである。
そして、父のランスロット(もう、皆、ガラハッドがランスロットの子供だと知っていた)に似た、東方を思い出させる黒髪と黒い瞳。聖杯剣によって三分だけ強くなれるという、もう剣のお陰だろというチートぷり。あと、何故か危険の席に座れる。
マーリンが「十字架の刺繍でも付けとけ」と言うので、ガラハッドはその通りにして…周囲は、取り敢えず『騎士っていうか、坊さんに近いんだ』と思うようになった。
そんなある日の朝だった。
ガラハッドがベッドで、太陽の眩しい光に目を細めて目覚めると、目の前に透き通った若い騎士がいた。自分や、父のランスロットに似て、黒髪と黒い目だ。
ガラハッドが目をぱちくりさせていると、その透き通った騎士は、冷たい、憤慨した表情でガラハッドを見下した。
「君は、なってないな」
「だ、誰だ、あんた!」
ガラハッドが吃驚仰天してキョドっていると、その騎士は溜め息を吐いた。
「僕はガラハッド。こことは別の世界のガラハッドだ。……パラレルワールドというのかな。僕は、砂漠の国サラスの王になって、数日前に死んだところだ」
「はあ。良くわかりませんが、別世界の私なんですね」
「うん」
もう一人のガラハッドはガラハッドを冷たく見下して言った。
「君は、全くなってない」
「な、なってないと言いますと」
「君はこの世界でオカマ扱いされてるんだぞ!あんまり、ダメダメ過ぎて、馬鹿にされてるんだ! いいか、ガラハッドというのはな、神なんだ。神聖なんだ。そして不思議でミステリアスでチートで強くて純潔なんだ!」
「……ああ、確かに、私を女と知らない人から見るとオカマに見えるかも知れませんね。女と肉体関係を持ったことはないですが」
ガラハッドがそう言うと、もう一人の透き通ったガラハッドはぷんすか怒りながら言った。
「ある程度は君と似た設定だが、僕は砂漠の国の王まで登り詰めた!だが、君はなんだ」
「あ、でも、マーリン様は、過去、私はいっぺん、聖杯探求で聖杯を見つけて死んだって言ってました」
「ああ、うん。そういう死に方のガラハッドは他にもたくさんいるな」
男のガラハッドがうーんと唸って、女のガラハッドが返した。
「誰ともくっつきたくないだ? と言われましても、ガラハッドという人物は、誰ともくっつかない役割ですし」
「僕は、他の男に抱かれる本が出回っても許せる!」
「……はあ、そうですか。では、出回ってるガラハッド本は皆、貴方ということで」
「別にいいよ。僕はその程度では揺らがない。痛くも痒くもない。まあ一応、ギリギリの線でモテないよう調節してるけどね。モテちゃ、いけないからね。ガラハッドだから」
ガラハッドは腕を組んで言った。
「モテるくせに、モテないように調節してるじゃないですか」
「君が余り酷いようなら、僕が君の代わりに出るよ。この世界のガラハッドとしてね。
僕は、多少なら男にモテても構わない。男だから。まあ、あんまりモテても困るけど」
「そ、そうですか」
「それじゃあ、僕は消えるよ。でも、たまに出てこさせて貰うよ。まあ、僕は君だから」
そう言うと、男のガラハッドは消えてしまった。
ベッドで呆然としていたガラハッドは困り顔で唸った。
それからガラハッドが知らない内に、別世界のガラハッドはこの世界に出てきた。
ガラハッドが知らない内に、彼はベイリンと意気投合して友達になっていた。
そして、ガラハッドがグウェンフィヴァルに、本のカタログを見せて貰うと、ベイリンとガラハッド…男同士の恋愛本が出ていて、ガラハッドは絶句して、叫んだ。
「……こ、これはー!」
(……これは、私じゃない。別世界のガラハッドだ!)
ガラハッドは、兵舎で他の騎士達と騒いでいるベイリンに声を掛けた。
「すみません。私の他にもう一人、ガラハッドを知りませんか」
「ああ……。お前と同じ名前だけど、お前とは全然違って落ち着いててしっかりしてるな。友達になったよ」
「……そ、そうですか」
ガラハッドがとぼとぼと歩いて、裏庭の石段に座っていると、もう一人のガラハッドが、どこからかスッと現れた。
「うわ !吃驚した!」
「……君がベイリンを好きだったみたいなので、仲良くなっておいてあげたよ。えーと、あとは君が好きにしなさい」
「何言ってるんですか! 別人と認識されてますし! 大体その人、既婚者ですからね!あと、いじめっ子っぽくて今は苦手なんで! 全然、心配いらないんでね!」
もう一人のガラハッドは、ちょっと眉根を寄せた。
「せっかく、フラグを立ててあげたのに」
「あんたのフラグですよ!」
必死で言うガラハッドに、もう一人のガラハッドは、腕を組んで近くの木にもたれ掛かりながら語り出した。
「いいか。君はわかってないみたいだけど、僕達の肩にはアジアと欧米の友好が掛かってるんだ。金髪を嫌がるなんて全く、赤毛属性が微妙にある癖に」
この会話は、端から見るとガラハッドの独り言にしか見えなかった。
「君はもう仕方ないから、僕がアジア代表として、陰で色々と、欧米人達と仲良くなっておくから。……仕方ない。世界平和のためだからね」
男のガラハッドはそう言うと、また、透明になって消えた。
それから、ガラハッドはたびたび色んな人に声を掛けられた。
「おい、ガラハッド。イケメンなガラハッドが最近現れたな」
ボールスに言われて、ガラハッドは「うん」と頷いた。
「なんか、色んな奴と仲良く友達になってるぞ。アーサー王とかモルドレッドとか、トリスタンとか、グウェンフィヴァル様とか。あと、今日、お前が連れてきた三人の子供とか」
「えっ、グウェンフィヴァル様も?」
ガラハッドが真っ青になって、様子を見ていたランスロットが「お前、反応するところがおかしいぞ」と突っ込んでいた。
「なあ、ガラハッド。えーっと、お前は好きな奴いないのか? 本当は女なんだから、男でな」
「猫が好きですね。いい人がいたら付き合いたいですけど、フラグがないんでね。でも、何か、私を好きとか言う人は苦手ですね。そもそも、人が苦手なんで。友達としての好きならいいですけど」
「お前、人間嫌いだよな」
「なんかもう、死んでるようなもんですから」
ランスロットが「……赤ん坊みたいな奴だな。」と言った。
ガラハッドが溜め息を吐いて、前と同じ裏庭の石段に座ってると、もう一人のガラハッドがまた、スッと現れた。
「色々話したけど、君はアーサーに似てるね。あのね、別に僕は友達になっただけで、誰かと付き合ってるわけじゃないんだよ。まあ、僕も、別の人生の中でちゃんと恋をしたけどね!」
「どんな相手ですか」
「アグレスツィアという娘だ。僕が聖杯を探す途中、血が足りなくて困っていた王妃に血を分け与えて死んでしまった。彼女のお蔭で僕は通れなかった道を通れるようになったし、僕のダビデの剣の鞘に髪の毛を編み込んでくれたのも彼女だった」
瞼を伏せ、悲し気に言う男のガラハッドを、女のガラハッドは見つめた。
「……私は、私自身の髪の毛をダビデの剣の鞘に使っています。だから、多分、アグレステツィアという人が死ななくてもいい気がします」
「それは良かった。そうだといいな」
男のガラハッドが言うので、女のガラハッドも頷いた。そして、おずおずと言った。
「あの、アーサー王からグウェンフィヴァル妃を取らないで下さいね」
ガラハッドはそう言うと猫耳としっぽが現れた。
もう一人のガラハッドも、猫耳しっぽが現れ、女の子になった。
「うん?猫娘になってますよ」 どこからか、「ごめーん」グウェンフィヴァルの声がした。
グウェンフィヴァルが、十六世紀から来た子供達……リズ達に魔法を見せてやっているのだ。
「グウェンフィヴァルさんが、勢いでこっちまで、魔法を掛けたみたいですね」
ガラハッドがそう言うと、もう一人のガラハッドは消えて、猫が現れた。
グウェンフィヴァルの魔法の被害で猫になってしまったようだ。ガラハッドは何となく、近くに生えてた猫じゃらしで遊んでやった。猫になってしまった、もう一人のガラハッドは、猫じゃらしに喜んでじゃれついた。しかも、性別がメスに変わっているので、とても可愛い声で鳴いた。
「おー、可愛い可愛い」
ガラハッドは、猫をよしよしと撫でて飼うことにした。
「何か知らんけど、可愛いから。飼おウーゼルっきの人は凄く苦手だけど、この子は可愛い」
グウェンフィヴァルが魔法で、空に花火を上げていた。
ガラハッドは、猫に名前を付けて、抱っこして可愛がった。
その猫は、グウェンフィヴァルが飼っている猫のパルとも、アーサーが飼っている白狼カヴァルとも、気が合うみたいだった。
スッと透けることが出来るので、マーリンは「猫の妖精、ケット・シーの類ですね」と言っていて、ガラハッドが「日本の妖怪みたいなもんですか」と聞いたら、マーリンは頷いた。
マーリンは、懐中時計の姿をした運命測定器で、リズとウィリアムとフランシスが安全に、無事に帰ったことを確認していた。
少しだけ……未来を見たら、成長した三人が仲良く笑う姿が浮かんだ。
エリザベスがすっくと立ち、フランシスが笑いながらウィリアムに絡んでいるのが見えて…マーリンは笑みを浮かべた。
その日、夕食時の円卓でアーサーが本を片手に、玉と鉄の輸入について悩んでいたので、マーリンは相談に乗ってやった。 グウェンフィヴァルに掛けられた魔法の名残で、頭から猫耳が生えていた。皆、ニシンを食べていたが、ガラハッドは魚が苦手なので、魚を避けて脇の野菜を食べていた。
不意に、マーリンがグウェンフィヴァルに言った。
「……貴方を、人間に戻しましょう」と。
グウェンフィヴァルは驚いた顔でマーリンを見た。
「アトランティスに行けば、きっと貴方を人間に出来る。貴方は、湖の巫女では…妖精ではなくなる。人間に戻るんです。でも、そうすれば、貴方はアーサーの妻だと周囲から認めて貰い、悪く言う人達も少なくなるでしょう。……でも、湖の底や、乙女の城には行けなくなります。
貴方は魔法を使えなくなります……。それでも、いいなら」
グウェンフィヴァルは少し悩んでいたが、頷いた。
数日後、ガウェインの妻ラグネルが完全に実家から戻ってこず……。
ガウェインは、他の恋人を妻として暮らし始めた。
ラグネルは「まあ、どうせ私はブスですからね」と怒っていた。
アーサーはランスロットやガウェインと一緒に弓矢を手に狩に出て、猪や鳥を捕った。夕食には、猪や鳥の丸焼きが飾られ、皆が喜んでいた。
円卓で、ガラハッドはアーサーに「貴方は私だ。私の分まで、色々やって下さい」と言ってチーズをかじった。
乙女の城でリュネットは、求人チラシを見て、アトランティス遠征の求人を見た。
(……ガニエダ様が、アトランティスに行けば古代の魔法や技術が残っているから、成長の呪いが解けるかもって言ってたな。アトランティスか。行けばお宝がいっぱいあるかなあ)
アーサーは屋上に出て、ドラゴンの旗を感慨深げに見上げていた。




