十六世紀から来た子供達
「虹よ出ろ!」
グウェンフィヴァルがそう言って杖を両手で振ると、光を帯びて、空に大きな七色の架け橋が現れた。
リズは、頬を染めて空を見上げた。
「……綺麗。こんなに大きな虹、はじめて見た」
そこへ、渡り廊下を歩いていたアーサーとケイとウィリアムがやって来た。
「おい、何やってるんだ」
「魔法を見せて貰ってるの」
リズが大声で言った。
グウェンフィヴァルは少し、イタズラ心でまた魔法を掛けた。
「髪の毛の色よ、変われ!」
そう言って杖を振ると、アーサーは黒髪に、ケイは銀髪に、ウィリアムは七色に変わってしまった。リズはピンク色になり、グウェンフィヴァルは水色に変わった。
「おい、ケイ。お前白髪になってるぞ」
「はあ?いや、アーサー、お前も黒髪だし、ウィリアムの髪は……凄いな」
「ケイさん、随分お年を取りましたね」
グウェンフィヴァルは、更に「えい!」と杖を振って、皆の口元と顎に長い髭を生やしてしまった。
「アーサー、お前、もはや誰だかわからない!」
「ケイ、お前は爺さんだな」
「……あれ、あそこにピンク色の老人がいるな」
「虹色の小さい爺さんには敵わんわ」
グウェンフィヴァルはまたもや、杖を振った。すると、アーサーは栗毛のツインテールで赤いチャイナ服の女の子になり、ケイは黒髪ロングの白衣の女看護士になり、ウィリアムは眼鏡にセーラー服の女の子になっていた。グウェンフィヴァルはカウボーイの格好になり、リズはターバンを巻いたアラブの男の子の格好だ。リズは、アーサー達を見て、腹を抱えて笑った。
やがて「戻れ」とグウェンフィヴァルが杖を振ると、皆は元の姿に戻った。
「あのな、グウェンフィヴァルやり過ぎだ!」
アーサーがぶち切れてグウェンフィヴァルに怒っていたが、ケイが「おい、アーサー。猫耳としっぽが生えてるぞ」と指摘した。
「ふざけんな!」
アーサーは怒り心頭だが、皆、猫耳としっぽが生えてて、リズとグウェンフィヴァルはケラケラと笑った。彼女は、また杖を振って、アーサーを猪にしてしまう。自分は牛だ。
その次は、アーサーは日本の殿様の格好にされてしまった。
ケイは十二単で、ウィリアムは巫女、グウェンフィヴァルは袈裟を着た僧侶、リズは忍者。
そして、たまたまそこを通りかかったモルドレッドが、腹を抱えてゲラゲラと笑っていたら侍の格好になっていた。ガウェインも巻き添えで、白髪のお爺さんにされてしまった。
皆、文句を言ってグウェンフィヴァルに戻して貰った。
夕食どき、円卓の間でアーサーはブツブツと愚痴を溢していた。
「あいつ、なんなわけ?意味がわからん。アホと違うか」
「でも、リズが来てからグウェンフィヴァル、何だか前より明るくなりましたね」
マーリンに言われて、アーサーは苛ただしげにグウェンフィヴァルとベスを見た。
「……そうかなあ」
「最近、みんな少しずつ明るくなって来た気がします」
「……そうかあ?」
円卓では、グウェンフィヴァルが魔法で子供達に食べ物を出してあげていた。
リズにはお好み焼き、ウィリアムにはカレーライス、マイケルにはミルク。
グウェンフィヴァフにはパスタ、イゾルデには蕎麦、モルドレッドにはピッツァ。
皆、喜んで賑やかに食べている。
「……あれは、なんなんだと騒がれてるな」
「……聖杯つっとけ」
パンをかじりながら、アーサーがケイに言った。
のちに、アーサー王の円卓に突然、聖杯が現れ、様々なごちそうを出した……という伝説が残るのだった。
赤ん坊のフランシスは、乳母代わりのパーシヴァルの妻や、グウェンフィヴァフとイゾルデに囲まれて寝た。フランシスが夜泣きしたら、変わりばんこで起きて世話をした。
ウィリアムは、既に十三歳なので一人で寝ると言い、部屋を与えて貰って寝た。
リズは、グウェンフィヴァルと一緒のベッドで寝た。
本当はグウェンフィヴァルはアーサーと同室なのだが、リズが寂しそうだったのだ。
アーサーは一人で寝た。外で、カラスがカアと鳴いた。
次の日は、リズとグウェンフィヴァフとイゾルデで一緒に遊んだ。木登りをしたり、小さな妖精を追い掛けたり、虫取りをしたり。ガルガンチュアの肩や頭に乗ったり、親指トムをつついたり。グウェンフィヴァルは、侍女らを連れて見守っていた。
モルドレッドとトリスタンは、少し離れて見ていた。
「モルドレッドも参加すれば?」
「お前が参加するならな」
ウィリアムは、アーサーやマーリンやケイにくっついて、色々と質問したり、彼らの仕事をじっと見ていた。 フランシスはぐっすり寝ていて、パーシヴァルの妻や侍女のアグネスが面倒を見てた。だが、フランシスが起きて泣き出す頃、ベスやグウェンフィヴァフやイゾルデがやって来て、一緒に遊んだ。昼食どきに、円卓の間でマーリンがリズに言った。
「リズ。貴方も少し、アーサーの仕事を見ていて下さい」
リズは良くわからないが「はい」と頷いた。
そして、リズもウィリアムに習って、アーサーやマーリンやケイにくっついて行動した。
謁見の間で、アーサーが人々の話を聞いて、官吏や騎士達らを交えて相談する姿。法廷で、裁きを下すアーサーの姿。彼女は真面目な目で、じっとアーサーの姿を見ていた。確実に、何かを感じ取っていたようだった。渡り廊下で、リズがちらりとマーリンに言った。
「……この人は……私の父と同じ仕事についています。でも……私の父とは、違います」
リズの言葉が聞こえたウィリアムは、少し、驚いた顔でリズを見た。
「……リズ。君はもしかして」
アーサーが公務を終えると、マーリンはアーサーに、二人とチェスのようなボードゲーム……グウィズブィルをするように言った。
アーサーは不思議がりながらも「いいよ」と頷いた。
二人は、マーリンの小屋でアーサーとグウィズブィルをした。ウィリアムもリズも、グウィズブィルに慣れているアーサーに勝てなかったが、マーリンは何度も続けさせた。そして、二人とも、何度も繰り返す内にかなりいい手が出せるようになっていた。 アーサーも、この二人は……かなり出来る方だと感じ取っていた。覚えるのが凄まじく早い。
「……ウィリアム。君は政治家になるのが夢だと言ったね。きっと、君ならなれるよ。
君は中々、豪胆だし、とても頭がいい」
アーサーがウィリアムにそう言うと、ウィリアムは自信ありげに頷いた。
そして、アーサーはリズの方を見た。
「……リズ。君は、何だか不思議な子だね。グウェンフィヴァルに似てると思ったけれど。…何だか、僕にも似てる気がする」
ずっと閉じ込められていたリズは、久々に褒められて、顔を赤く染めた。その後も、夕食どきまでずっと、マーリンは彼らにチェスをさせた。円卓の間での夕食が終わり、外はすっかり夜の帳が降り、月や星が明るく輝いていた。マーリンは懐中時計型の運命測定器を見て、それをポケットに仕舞った。
「……そろそろですね。あと少しすれば、汽車がキャメロット駅に着きます。さあ、子供達を元にいた場所に返してやりましょう」
マーリンの言葉に、アーサーやケイやグウェンフィヴァル、グウェンフィヴァフ、イゾルデは頷いた。
アーサー達は、リズとウィリアムとフランシスを連れ、マーリンの薬草畑の先、蔦まみれの扉の向こうにある無人駅に向かった。
フランシスはグウェンフィヴァフとイゾルデが抱き締めていた。リズは、最初に来たときの、薄紫のネグリジェに着替えた。監守に怪しまれないようにだ。マーリンは、ポケットから切符を出すとリズに握らせた。フランシスはウィリアムが抱いて預かった。どくろの眼帯は、離すと泣くので顔に付けてやった。
「切符は僕が買って置きました。十六世紀は時計台駅です。時計台駅に降りて下さいね。
これは三人分の特別切符で、タクシーに乗れます。時計台駅からタクシーが出てますから、これを見せれば貴方達がいた時間と場所に、それぞれ届けてくれますよ。最初にフランシスを届けてあげて下さい。貴方達は賢いから、大丈夫ですね」
やがて、夜空から蒸気機関車が走ってきて、キャメロット駅に到着した。
真ん中の車両の扉が開いて、別れを惜しみながら三人の子供は、汽車に乗り移った。
「バブ、バブ、バーブ」
ウィリアムの腕に抱かれたフランシスがおしゃぶりをしながら何か言って、マーリンが翻訳した。
「俺はいつか、すげえ海賊になる。七つの海を巡って、いい女達をつかまえてやるぜ。お前達のことは、ちょっとだけ覚えといてやるよ。色々ありがとうよ、小娘共」
赤ん坊のフランシスは右手の親指を立てていた。グウェンフィヴァフとイゾルデは、フランシスを信じられない顔で見つめていた。ウィリアムは父のステッキを突き、被っていたシルクハットを脱いで、紳士らしくお辞儀をした。
「僕は、ジェントリの出身だ。僕達の時代、紳士階級は……貴族階級に勝てないでいる。けれど、僕はイングランド……いや。このブリテン一の政治家になってみせる。そして、ブリテンを世界一の国にしてみせる。階級制度だって変えてみせる。貴方に会えたんだ、きっと……大丈夫だ。多分、そういうことだ。……貴方に会えて良かった。アーサー王。……僕達の王様」
ウィリアムは、アーサーに手を伸ばし、握手を交わした。 そして、リズがアーサーとグウェンフィヴァルの前に進み出た。
「……アーサー、貴方の名前を私は知ってる。凄く吃驚した。私は、ロンドン搭で、ずっと一人だったから。友達はカラスさんだけだった。初めてボードゲームをしたわ。グウィズブィルや……貴方の仕事を教えてくれてありがとう」
アーサーは、先程のグウェンフィヴァフやイゾルデのような、驚愕の顔をしていた。
(……初めてで、あれだけ強いのかよ?! ちょっと本気出したぞ……)
リズは、アーサーの隣にいるグウェンフィヴァルを見た。
グウェンフィヴァルは、穏やかな優しい顔を……少し寂しそうな顔をして、リズを見つめていた。
「……グウェンフィヴァル。凄く優しい人。……噂とは違う。もっと優しい人。私、何でだか貴方を他人だと思えないの。……何でかしら」
「……私も、何だか貴方を他人だと思えないの。貴方を見ていると何だか……昔の私を思い出すの。本当、何でかしらね」
グウェンフィヴァルはリズを抱き締め、キスをして彼女を離した。リズは、アーサーの方を向くとアーサーの頬にキスをした。アーサーは少し頬を染め、微笑んでリズの頭を撫でてやった。グウェンフィヴァルはちょっとだけムッとしたが、リズの方を向き直して別れを惜しんだ。
「……それじゃあね、リズ」
リズがこれから向かう所を思うと、グウェンフィヴァルは彼女の手を取って引き留めたかった。だが、マーリンが「そろそろ時間です。行かせなきゃ駄目です。グウェンフィヴァル」と口を出して、グウェンフィヴァルは悲しみながらリズの手を離した。
『大丈夫、きっとまた会えるよ』
どこからか声が聞こえた。バサリとカラスが飛んでいた。




