ドルイド七賢人会議
深い岩山の奥、ガーゴイル像に囲まれた古城は、あちこちが破壊され、瓦礫の山と化していた。邪竜を象った像も、多くの人間が生け贄に捧げられた…血塗れの祭壇も、全てが破壊され、邪竜のタペストリーも破られている。
壊された祭壇の向こう側にある大きな穴には、邪竜の死骸があった。
ローブを着て杖を持ったドルイドや湖の巫女が、穴の縁からそれを覗いていた。
「……近寄るなよ、邪竜の死骸だ」
年配のドルイドが言う。青い髪を後ろで纏め、天然石や貝殻のアクセサリーをじゃらじゃら付けた湖の巫女の少女が呟いた。
「……これ、どうしたらいいわけ? だってさ、死んでるのに、色々邪気をばら撒いちゃってるわけっしょ?」
「そう、邪気を何とかしなくちゃ」
少女より年上の湖の巫女が言う。
「……浄化しなければなりませんが、それには聖なる泉の水が大量に必要ですね」
灰色のローブに銀髪の少年が呟いた。
彼が呪文を唱えると、大量に聖なる水が雨のように振り出した。
邪竜の死骸は、段々と腐り果てた肉が消え、骨と化して言った。
「すっげ。どうやんの?」
「ただの召喚術です」
驚く少女に、年配のドルイドが言った。
「そいつは特別なんだ、リュネット。そいつは……グウィオンは、マーリン様の後継者だからな」
リュネットと呼ばれた少女は、銀髪の……自分より背の低い男の子をまじまじと見た。
「……ちっこいのに凄いな、あんた」
のちに、マーリンともされるドルイドの大司祭長『タリエシン』。
そう呼ばれる少年は、杖を振って聖なる雨を止めた。
カマーゼンのドルイド養成所、購買所の奥で、マーリンはアーサーに言った。
「……古代アトランティス人は、地球に生命の種を撒いた宇宙生物と、同じ血を、その身に宿しました。僕達、魔法が使えるドルイドや女ドルイド……湖の巫女は、彼ら、古代アトランティス人の血を引いています。だから、僕らは……魔法が使える」
マーリンは棒を……魔法の杖を売り棚に置いて、アーサーに笑い掛けた。
「……もしかしたら、僕達は、古代アトランティスに行く必要があるかも知れない」
会計カウンターではテンガロンハットを被り、アメリカ国旗柄の服を着た金髪猫耳の娘がいた。その隣には、着物を着た猫耳娘が。
マーリンはアーサーに、「宇宙世紀のソロモン社から来た社員さんです。アメリカ人と日本人ですね」と説明した。マーリンは会計カウンターに行くと、様々な商品の名前を言って、会計を済ませた。
カールレオン城の裏庭。
モルガンは眼鏡を掛け、魔法書を並べて、青い炎の魔法の練習をしていた。
夕空を見上げると、燕が飛んで行った。杖を良く見ると、多少磨り減っている。
モルガンは溜め息を吐いて「……新しいの買わなきゃ駄目か」と呟いた。
本を持ったガラハッドが渡り廊下を通り掛かり「モルガンさん、不調なんですか?」と聞いてきた。並んでみると、モルガンよりガラハッドの方が背が高かった。
モルガンが答えようとすると、踊り子の格好をした太った女がやって来て、「がっはっは!今日はあたしが笑わせてやるよ!」と豪語していた。黒髪に赤い衣装をつけている。
そこへ渡り廊下にケイが通り掛かって「最近、彼女が好きなのか良くわからない」と、愚痴っていた。ガラハッドがケイを見て「ケイって、女にモテますよね」と言って、モルガンも応えた。
「薬学も結構詳しいのよね」
「モルガンさんて、そんなに背高い方じゃないですよね。羨ましいです。パッと見、目立たなくて」
「……黒いドレスを着るから目立つのかしら?」
「……さあ。目立つのが嫌なら、逆に明るい色のドレスを着てみたらどうですか?」
そこへ、パーシヴァルとボールスが通り掛かって、パーシヴァルの彼女のが子供が出来たから、結婚するかもという話をしていた。
ガラハッドが「さっきの踊り子って、ボールスに似てるかも」と呟いた。
ガラハッドが渡り廊下を通り過ぎると、モルガンは転移呪文を唱えた。
乙女の城に行って、購買所で、新たな杖を見比べていた。
「……どうしようかなあ」
悩むモルガンの背中を、ちょんちょんと誰かが突っついた。モルガンが後ろを振り返ると、ヴィヴィアンだった。傍にはニムエもいる。
「ヴィヴィアン様にニムエ様」
「やっほー。モルガンは今日は何の用なのん?」
「杖を新しくしようと思いまして……」
「杖ね。最近はルーン文字入りとか流行ってるわね。ソロモンの護符付きとかね」
「私、ルーン文字とゲルマン神話は習いました。ソロモンの護符も買いましたけど…ルーン文字入りの腕輪なんかいいですね」
何だか何を考えているか良くわからない銀髪のヴィヴィアンと、ちょっと高飛車なところがある金髪のニムエは、モルガンより背が高くスラッとした美人だった。
「ニムエ様とヴィヴィアン様はどうしたんですか?」
「ちょっとドルイド七賢人会議があるから、ガニエダ様と一緒に、カマーゼンの養成所に行こうと思ってね」
「そういえば、ガニエダ様がモルガンに渡したいものがあるって言ってたわよん」
「……渡したいもの?」
何だろうと思って、モルガンはガニエダのいる校長室をノックした。
「入りなさい」
と声がしたので、モルガンは動物の装飾がされた木の扉が開いた。
ガニエダは、暖炉の近くでソファーに座り、編み物をしていた。
「おや、モルガンかい。何の用だい」
「あの、ヴィヴィアン様とニムエ様が、ガニエダ様が用事があると仰っていたので」
「ああ、そうだ」
ガニエダは編み物をソファーに置くと、木の棚から銀色の長い杖を出した。
銀色の杖の先端は、綺麗な紫色のオーブに、星の飾りが付いている。
「……これは?」
「アリアンフロッドの杖。常若の林檎の園。アヴァロンのあるじの杖じゃ。聖剣エクスカリバーと共に、我らドルイドに古くから伝わって来た。……どちらも、古代アトランティスの遺物で、対になっていると言われている。……持っていけ。それとな、お前に言いたいことがある」
日が暮れて、カマーゼンのドルイド養成所は魔法でシャンデリアや燭台に炎が灯された。
会議室では、ドルイド七賢人会議が行われていた。
大司祭長のマーリンに、七賢人の一人であるケヴィンが報告した。ケヴィンは、中年で口許に髭を生やし、家庭を持ったドルイドだった。
「……邪竜教団の本拠地を発見しました。ドルイドと湖の巫女、数十人で戦い、幹部のサロメとオズモンドを倒しましたが、完全には潰せず。大司祭長と配下数名を逃がしてしまいました」
「……なるほど」
マーリンが言うと、ケヴィンがヴァレリンを睨んだ。
「……ヴァレリン。お前は、ゲール、ゲルマン、東洋、未来、古代。様々な魔術や錬金術の研究に没頭しているが。……お前が、邪竜教団に通じているという噂がある」
「……否定はしない。私は様々なことを研究し、世界の謎を調べたいからな。彼らがどういうことをしているのかも、興味があった」
睨み付けてくるケヴィンやニムエ達に、ヴァレリンは眼鏡を掛け直した。
「だが、今は余り興味がない。中東の文化や文明は興味に値するが、邪竜教団は単に…悪いことをしたいだけだからな」
「……しかし、大司祭長は古代アトランティスの知識が深い。古代兵器を動かそうとしているむきがある」
そう言うヴァレリンに、マーリンが言った。
「……古代アトランティスの古代兵器を。ということは、奴はそちらに」
「……彼は、古代アトランティスの力を手にして、神になりたいのさ。この星のあるじになりたい。そして、この星に命を植え付けた者達を超えたいんだ。僕は、『彼ら』を敵に回してどうしたいんだと思うがね。アトランティスは、そうして滅んだのだから。まあ、仕方ない。
彼は、アトランティスをそのようにした当人の魂だから」
ヴィヴィアンが呟く。
「哀れな魂だわね。その繰り返しの鎖を、切ってあげられたらいいのだけれど」
ニムエが「こいつの言うことなんかアテにならないわよ!」と言うが、ガニエダがヴァレリンに向いて言う。
「……ヴァレリン。お主は古代アトランティス研究の第一人者じゃ。。お主は、それを止めるために力を貸してくれるか」
「……まあ、別にいいですけどね」
ヴァレリンは、眼鏡をくいっと掛け直し、マーリンはヴァレリンを見つめて言った。
「……アーサー王と円卓の騎士達にも力を借りましょう」
「……海に沈んだ大陸に行くには、ちょっと色々掛かりますよ。多分、邪竜教団もすぐは行けないでしょう。何と言っても、場所がイマイチ掴めないですし、海の底ですからね」
ガニエダが言った。
「湖の巫女達に、しらみ潰しに探させましょう。私達は水の底も行けますからな」
その頃、モルガンは乙女の城の購買所で、ガウェインとランスロットの恋愛小説を見つけた。更に、アーサーとシンリックがいちゃつく絵もあった。
(……ランスロット受けは相変わらず多いわね)
モルガンが何となく思っていると、リュネットが「やっほ」と声を掛けてきた。
リュネットは、銀色の髪を後ろで纏めて青い服を着ている。
「何、モルガンはボーイズラブ見てるの?」
「……リュネットって、こういうの興味ある?」
「良くわかんないな。作品の中の恋愛を見るのと、現実に恋したいのは別だし?」




