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カマーゼンのドルイド学校

夕食時、アーサーがカールレオン城でいつものようにチーズをかぶりついていたら、マーリンの手元に、燕が手紙を運んできた。

燕の足に括り付けられた、羊皮紙の手紙を読むマーリンに、アーサーが聞いた。

「一体、どうしたの?」

「カマーゼンのドルイド養成所からの広告です。購買所で新しい商品が入荷したらしいので、明日ちょっと行ってみようかなと」

「……ふーん。カマーゼンってマーリンの故郷だっけ。ねえ、僕も一緒に行っていい?」

「いいですよ」

マーリンは、伝達役の燕を外に戻してやった。

翌日の昼過ぎ、アーサーが執務を終えると、マーリンは早速、普段着姿のアーサーを連れ立って、カマーゼンへ転移呪文を唱えた。

カマーゼンは、ウェールズの南方にあった。

古いオークの森に包まれた巨大な岩山に所々穴があって、穴からはチラチラとローブを着た男の子や老人の姿が見えた。この自然のままの岩山の城がまるごと、ドルイド養成所だった。

「へぇ、ここがマーリンの育った場所か」

「さ、中へ入りましょう」

岩山の石を削って造られた、巨大な鷲が二匹、両脇に聳える門を潜って中に入った。

中は、ゴツゴツした岩屋そのものかと思った。

だが、そんなことはなかった。

玄関口のロビーはとても高く吹き抜けで、上を見れば六階立て程で、廊下や階段を、ローブを着た男の達が歩くのが見えた。

柱や天井に、入り組んだゲール模様や動物の細かい装飾が沢山施されて、床には絨毯が敷かれている。

空へ続く吹き抜けの天井には、二階辺りで大きな水晶のシャンデリアがあり、炎が照されてとても明るかった。近くには、ゲール文字で『案内係』と書かれた木の札が立てられた白い机に、ほっそりした女の人が座っていた。

「まず、校長に挨拶に行きましょう」

マーリンはそう言うと、アーサーを連れて、青い絨毯が敷かれた玄関ロビーを歩き、透明な硝子で出来た扉の方を向いた。マーリンが、扉の近くにあったボタンを押すと、ボタンが明るく光って扉が開いた。

「さ、入って下さい」

アーサーはマーリンに言われて、中に入る。だが、扉の中は小さな部屋だった。

「行き止まりだよ」

と、アーサーが言うと、マーリンは「上へ行くんですよ」と言って、2Fから6まで並んだ数字のボタンの中で、6を押した。すると、小さな部屋は上へと上昇した。

「……何だ、これ?」

「エレベーターです」

ガラス張りの扉から、小部屋が上昇していくのが見えた。

扉の上部分に2Fから6までの銀で造られた数字が並び、銅の針がそれぞれ数字を指し示していた。途中、四階で扉が開き、竪琴と本を持ったローブ姿の男の子達が沢山入ってきた。

男の子達は賑やかに離す。

「次の授業は、竪琴の試験かあ」

「自信ないよ」

賢者(ドルイド)になるには、まず吟遊詩人(バード)にならなきゃいけないからな」

「俺は歌い(フィリー)を目指してるんだけどな。世の中のニュースを世間に教えて回るのさ」

「俺は薬学かな」

「これからはゲルマンやキリストの時代だから、俺らの覚えるものも変わっていくさ」

「僕は古いままのゲールのやり方が好きだなあ」

扉はまた閉まり、エレベーターは六階に止まって開いた。

ドヤドヤと男の子達が出ていくと、マーリンもアーサーを連れて出て、青い絨毯が続く道を歩いた。校長室と、ゲール文字で彫刻された小さな木の看板が取り付けられた扉を、マーリンはノックした。

「入りなさい」と老人の声がして、マーリンは扉を開いた。

中には、恰幅が良く、口許に長い白髭を生やした、ローブ姿の老人がいた。青い絨毯に虎の毛皮が敷かれ、木の机が置いてある。老人はマーリンを見ると、目を丸めて喜んだ。

「おお、マーリン久しぶりじゃのう」

「お久しぶりです。タナブルス校長。……アーサー、こちらがカマーゼンドルイド養成所の校長、タナブルス先生です。ドルイド七賢人の一人です」

「……ドルイド七賢人?」

目をパチパチするアーサーに、タナブルスは微笑んで握手した。

「アーサー王。貴方に会うのは初めてですな。……成程。純粋な、澄んだ目をしたお方だ」

「……いや、純粋って程に純粋なわけでも……」

しどろもどろ言うアーサーに、マーリンは、あははと笑った。

「タナブルス校長。今日は、購買所に来たんです。取り敢えず、挨拶だけですが、これで失礼します」

「おお、そうだ、マーリンよ。お主に少し話したいことがあるのじゃ」

「話したいこと?」

マーリンが顔を上げると、タナブルスは深刻な顔をしていた。

「……うむ。恐らく、ドルイド七賢人会議を開くことになる。用事が済んだら、またここに寄って欲しい」

マーリンは、多分長い話になりそうだと勘付いて「わかりました。では、また後で」と、アーサーを引き連れ校長室を後にした。

マーリンはアーサーを引き連れて、エレベーターに戻った。

「……タナブルス校長の用事ってどんなのかな? 何か込み入ってそうだけど。……マーリンはドルイド七賢人の大司祭なんだっけ?」

「……ええ。取り敢えず、また後で寄りましょう」

マーリンはエレベーターの3のボタンを押した。

三階に付くと、目の前には、大理石の床に広い空間が広がっていた。

沢山の木棚に商品が並び、脇には『購買所』と書かれた木の看板とカウンターがあった。

ローブ姿の男の子や、中には女の子もいる。

「ここが購買所です。湖の巫女…女ドルイド養成所にも購買所はあるんですけど、カマーゼンの方が広いので、女ドルイド達も割りと来るんですよ」

マーリンは近くに詰まれていた木の篭を掴むと、様々な商品が並ぶ売り場へと入った。

天井から吊り下げられた幾つもの薬草や、消毒用の強いお酒、色々な花の入った瓶、ガチョウの羽根ペンや羊皮紙、練習用の竪琴などが並んでいた。アーサーも、キョロキョロ商品を見回した。

「……これから僕達が行くのは、世界中の限られた者だけが入れる売場なんです」

マーリンは、突き当たりの木の扉で、ぼんやり眠っていた、ゼリー状の緑色の生き物に話し掛けた。生き物は、二つの目玉をマーリンに向けた。

「やあ、僕はマーリンだけど。入ってもいいかな?」

生き物はぷるぷる震えながら言った。

「キルフウフの妻は?」

「そうだった、謎掛けがあったんだ! オルウェン!」

「マビノギオンのグウィディオンは何ができる?」

「変身!」

「モーツァルトの作曲した、『小さな夜の曲』という意味の曲は?」

「アイネ・クライネ・ナハトムジーク!」

「アメリカの第四十四代大統領の名前は?」

「バラク・オバマ!」

「ハンプティ・ダンブティは何故塀に落ちた?」

マーリンは「ワインの飲み過ぎか居眠りしてたか、ハチに吃驚したか」と悩んだが、アーサーが「色んな説があるんじゃない?」と言ったら、当たったらしく、緑色の生き物は頷いて扉を開けた。

そこは、雑貨売り場のようだった。

靴のヒモや、麦わら帽子、葡萄酒の樽に乱雑に入れられた、模造の剣や槍や杖。

カツラに、絵の具に、シルクハットに、テンガロンハット、水晶の骸骨に、水玉の眼鏡。

木彫りの千手観音像に、風車に、エッフェル塔や、浅草寺や、自由の女神、帆船、タクシーや自転車、電車、バイクの模型。

スポーツカーや飛行機、ヘリコプター、UFOのラジコン。望遠鏡に地球儀に天体儀。

サッカーボールに、演歌歌手のレコードに、美少女フィギュア、ネズミのぬいぐるみ、猫耳のカチューシャ。棚の上のラジオからは、ジャズが流れている。

マーリンは、フリフリのドレスを見て「……これ、この前、師匠に着てみてくれって言われた服に似てるなあ」と呟いた。

「最近、君の師匠の話を良く聞くな」

「……まあ、ちょっと。色々ありまして」

そう言って、マーリンは顔を赤らめた。

「見てみて、マーリン。この光る剣、僕に似合わない?」

アーサーは光る剣のオモチャを手にして喜んでいた。

「……この辺は二十一世紀の雑貨売り場ですね。もうちょっと向こうに行きましょう。宇宙世紀売場がありますから」

マーリンとアーサーは、ランニングマシンや、ダンベル、ミキサー、フライパン、ガスコンロの並ぶ道を歩きながら、もう少し向こうのフロアに行った。

「凄く広いね」

「このドルイド養成所は山をくりぬいて造られてますからね。女ドルイドの乙女の城も湖の底一帯ですけど……。どっちも広いですよ。今度、乙女の城にも行ってみましょうか?以前、ナンパしまくってたんで、姉妹のガニエダに近付くなと言われてるんですけど」

アーサーはちょっと驚いた顔でマーリンを見た。

「ふふふ……僕は遊び人から賢者になった変わり種として、ちょっと有名なんですよ」

売場も、培養土や温度計、フカフカの毛布、掃除機に冷蔵庫にパソコンが並ぶ道から、段々、周囲が変わり出した。

何だか、様々な形のロボットや機械が並んでいた。

それはやがて、シンプルで小さくて、一見するとただの石や、棒や、玉にしか見えないものに変わっていった。

それなのに、道のスペースは広く、天井はとても高くなっていた。

手を二掴み分の小さな棒があって、何だろうとアーサーが掴んだら、白い熱線を帯びたビーム状の光の刃が現れた。バラリと、アーサーの前髪が何本か、ジュッと焼かれてしまった。

「……な、なんだこれ! さっきのやつに似てるけど……全然違うぞ!」

「一応、武器、魔法、兵器といったものは全部模造品です。本物はカウンターで免許証を出さないと買えないんですよね」

マーリンはふうと、息をついた。

「物はどんどん、携帯性と利便性を備えたものに変わってゆくんですよ。例えばこの小さなカプセル」

マーリンは、棚から手のひらサイズの小さなカプセルを手にすると、『出てこい』と言って、ぽんと地面に投げた。すると、銀色の自動車が出てきた。自動車は、タイヤがあるものの、地面から僅かに宙に浮いていた。

「空飛ぶ自動車です」

マーリンがカプセルのボタンを押して「戻れ」と言うと、自動車はカプセルの中に戻った。

「こういった物は『未来』のものです。だから、透明化するか現在の時代に存在するものの形に変えて、使わねばならない。そういう決まりなんです。さっきの車も透明化が出来ます。」

マーリンは売場を歩きながら話した。

「こういった古代から未来までの商品を僕達ドルイドに販売するのは……遥か未来の人々です。人類は、やがて宇宙に進出し、過去や未来への行き来を可能にし、地球に生物の種を撒いた『神』と呼べる宇宙生物と再会する」

ぼけっとするアーサーを振り返り、マーリンは話を続けた。

「……ちょっと、ストックに揃えておこうと思いまして。これからのことを考えて」

「これからのこと?」

マーリンは頷いた。

「……これからのことです。アーサー。僕達、ドルイドは魔法を使える。魔法を使えない者も様々な知識と技術を覚えるため、この養成所に通います。……けれど、ドルイド養成所の真骨頂は、魔法使いの育成です」

マーリンは、棚から小さな棒を手にして、呪文を唱えた。すると、隣の、丸いカプセルが宙に浮かんだ。

「もっと未来になれば、誰でも魔法を使える時期が来ます。

科学という名の技術によって、様々な現象を操作出来るようになる。…けれど」

マーリンはまた何か呪文を唱え、棒を振って丸いカプセルを元の位置に戻した。

「今、この地で魔法が使えるのは、古代アトランティスの末裔だけです」

「……古代アトランティス……。あの、プラトンの『クリティアス』に出てくる、エジプトの神官が語る失われた大陸?」

「……そう。アトランティス大陸は、生命を造った神と呼べる、遠い宇宙生物と交流し、高度な文明と栄華を誇っていました。けれど……まあ、色々とやり過ぎたので、神から危険と見なされ、海に沈められてしまったのです」

マーリンは、アーサーが背中に背負っている聖剣を指差して言った。

「そのエクスカリバーも、アトランティスの文明が生み出した、オリハルコンという鉱物で出来ているんですよ」



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