集まりゆく円卓
第二話 集まりゆく円卓
アーサーの謁見の間に、グウェンフィヴァルとガラハディアはいた。
テンの毛皮で縁どられた青いガウンを纏い、玉座に座ったアーサーと、その横には大きな杖をついた少年姿のマーリンに、黒い皮のマントを羽織ったケイがいて、様々な国事について話している。
「……この前の雨で水路が崩れたから工事しないと」
「橋の修理もな」
三人は、扉から入ってきたグウェンフィヴァルとガラハディアを見た。
マーリンは、ガラハディアが背中に背負っている白い剣に気付いた。
「……その、剣は」
「ああ、グウェンフィヴァル……その子は?」
「……ガラハディア。四つの宝の一つ、第一の宝である剣を抜いてしまったの。鞘に、自分の切った髪を巻き込んで力を抑えてはいるけど……」
マーリンは、ガラハディアを見て微笑むと杖を手に進み出た。
「大丈夫。この子なら、この剣を……ダビデの剣を扱えますから」
グウェンフィヴァルとアーサーとケイは、マーリンを見つめた。
「……これは僕達だけの秘密にして下さいね。この子は、ランスロットとエレインの娘です」
三人は、今度は黒髪に黒目のガラハディアを見つめて驚いた。
「……ラ、ランスロットとエレインの娘?」
「でも、おかしいな。僕の記憶では、以前は男の子だった気がするんだけど」
マーリンがガラハディアを見て不思議そうに呟いた。
その頃、城下町の酒場、黒馬亭では看板娘のベルちゃんが、仕事終わりのベイリンとベイランの元に、酒を運んでいた。
ベルちゃんはストレートな黒髪で黒い目の小柄な女の子だった。
「同じ黒髪で黒目でも、こっちは超美少女だよな。さっきの子、ちょっと暗いんだもん」
「ベイリン、あんたまた来たわけ? ここんところ、しつこいわよ」
「いいじゃん。俺やっぱ君しかいないんだよ」
「他の子に行こうと思ったけど、やっぱベルちゃんが好みなんだとよ」
「そう。背が低くてSでプロポーションもいいところが好み」
「うっざー。でも仕方ないわね。仕事の後で相手したげるわ」
ベルちゃんは髪を掻き分けた。
「ベルちゃん超可愛い」
「まあ、ベルちゃんが可愛いのは認めざるを得ない」
周囲の男達が杯を片手に「ベルちゃん踊ってー!」「ショータイムまだー?」と沸いていた。
「俺はベルちゃんのダンスを見るためだけに通い詰めてんだよ」
「俺も俺も」
「仕方ないわねー」
ベルちゃんは頭に花を飾り、しゃらしゃらした東方のダンス衣装に着替えてきて、楽団の音楽に合わせて踊り出した。
「ひゅー!」
「ベルちゃん、マジかわいー!」
ベイリンとベイランが騒いでいると、パーシヴァルがやって来て言った。
「へー、俺も口説こうかな……。なんかグウェンフィヴァフ様に似てない?」
「お前、彼女いるっつってたろ!」
「そういやさ、ケイの奴に彼女出来たの知ってる?
「え、マジで?どんな?」
「アンドリヴェートって言う、俺らの背のちっこい妹」
「そういや、ガレスも赤い騎士を倒しに行ってリオノルスって彼女作って帰ってきたな」
「あ、バイトのメグちゃんもいる」
錯綜の(・)森から皆が帰還して数日。グウェンフィヴァフは、ようやく廊下でモルドレッドに声を掛けた。
中々、声を掛けられずにいたが、本当にようやく声を掛けられた。
グウェンフィヴァフは柔らかな赤色のドレスで、髪には花が飾られていた。
「あ……、あの、助けてくれてありがとうございます」
「……ああ、えっと、はい」
モルドレッドが照れたように言うと、緊張していたグウェンフィヴァフは口許に手をやって可愛く笑い出した。
「あなたも、照れたりするのね」
「え?」
グウェンフィヴァフは周囲をキョロキョロすると、モルドレッドの頬に口付けして、顔を赤くして走り去っていった。
謁見の間から場をマーリンの小屋に移して、アーサーとケイとグウェンフィヴァル、マーリンが、ガラハディアについて話した。
アーサーとケイは楽な普段着姿だ。アーサーは黄色いよれたシャツに緑のズボン、ケイは青いシャツを着ていた。
「本当にランスロットとエレインの娘なのかよ」
「未来から来たのか?」
「ええ。ランスロットとエレインの子です。いつ出来かについて、詳しくは言えません。
彼女は第一の宝を使えますし、危険の席も座れますよ。どうやら、モルガンに取り付いていたファブニルを……モルガン・ル・フェを倒したみたいですね」
「……彼女のお陰で、助かったわ」
「元のモルガンの名前に戻ったらどうですか」
「……うーん。その方がいいのかしら」
マーリンに言われて、グウェンフィヴァルは…モルガンは唸った。
ケイがガラハディアを指差して言う。
「ガラハディアはどうするんだ? 女だろ? 女が円卓入りするのか? 僕は反対だぞ」
「まあ、色々と問題がありますから、男のフリをすることになるでしょうね。ガラハッドでいいんじゃないでしょうか。彼女は第一の宝を使えますし、危険の席も座れますよ」
「……へえ、でも、何で?」
「そりゃ、ランスロットとエレインの血を引きながら、女にあんなことやこんなことする必要がないからですよ。まあ、通常、どう頑張っても女からは生えませんからね。生涯不犯!
生まれてすぐ、どこぞの魔法使いに東方の国に置き去りにされて、東方の人に拾われて育てられた、東方の仏教徒の子ですがね」
マーリンがいそいそと、樫の杖を振り変身の呪文を唱えて、ガラハディアを男装……白いマントに白い鎧、白い半ズボン、白い羽根飾りの姿に変えてやった。
マントはダビデの星と月を象ったブローチで留められていた。
「でも、円卓の騎士の規律が……」
「副席にラグネルがいますし、いいじゃないですか」
「……うーむ」
ケイは唸りながら、ガラハディア……ガラハッドを見つめた。
翌日、ガラハッドは早速、マーリンに円卓の危険の席に座らされた。
以前、面白がって座って大地に飲み込まれた騎士がいたが、ガラハッドが座るとただの椅子にしか見えなかった。
ガラハッドが実は女の子で、ランスロットとエレインが作った子供だという秘密は、当面は限られた人々の間だけの秘密となった。
だが、ランスロットは何か感じるものがあるのか、自分の幼名を名乗るガラハッドが他人という気がしないみたいだった。
……ただ、エレインがランスロットを酷く疑って、もうランスロット以外の人に行くべきか愚痴っていたので、結局ランスロットとエレインに教えることになったが。
黄金の腕輪は、マーリンが見つけて処分した。
ある日の、円卓の間での朝食どき。
円卓の名前が揃いつつあるのを見て、マーリンとアーサーも感慨に耽っていた。
「ずいぶん、揃ったよな。全員揃ったら、何かあるの?」
「さて?」
騎士や婦人達が、モルガンとガラハッドが仲良く話をしているのを見て、がやついている。
アーサーとマーリンは小声で話した。
「それより、最近モルガンとガラハッドがいい仲なんじゃないかと、噂が立ってますね。モルガンは、アーサーといい仲だから浮気なんじゃないかとか。ランスロットの幼名のせいで、ちょっと離れた村なんかじゃランスロットが巻き込まれて、グウェンフィヴァルとランスロットがどうのって話になってますよ」
「女の子なのにな」
そこに、グウェンフィヴァフが話に割って入ってきた。
「アーサーは、モルガンのために、戦ったりはしないの?」
「ん?」
グウェンフィヴァフはにっこりと笑う。
「だって、王様だからって、どの女の人の名誉のためにも、戦ったことがないじゃない」
「……あー、うん確かに」
グウェンフィヴァフに押されて、アーサーは渋々頷く。
「たまには、騎士らしく女の人を守るために戦ってみたら?」
アーサーもマーリンも、いつものおどおどしたグウェンフィヴァフと少し違うような気がして、顔を見合わせた。
「……グウェンフィヴァフ、何があったんだ?」
「アーサーが放置してる間に、いいことでもあったんじゃないですか」
「うっ……」
アーサーは何か言いたそうにしたが、結局何も言わなかった。
マーリンは、ちょっと考えてモルドレッドの方を向いた。
モルドレッドは隣のチューバとばかり話していたが、ガウェインに果物の小皿を差し出されていた。
マーリンは、少し考えて「まあ、みんな色々あったみたいですね。いい方に向かうならいいんじゃないでしょうか」と言った。
ランスロットはガラハッドをまじまじ見つめていた。
突然の娘の出現に、何と言っていいかわからなかった。
(……父? 僕が父?)
エレインも、困った顔で娘を見ていた。
(……何の覚えもないのに、娘?)




