聖剣グラム
錯綜の森の山頂の城、地下牢。
ガウェインは両手を石壁に取り付けられた手枷に嵌められ、鎧を剥ぎ取られ、上半身裸にされていた。そして、ずる賢そうな顔の炬人に鞭で叩かれていた。
「おらあ!」
「ぐっ!」
顔を鞭で叩かれ、ガウェインは血を吐いた。
炬人はガウェインの腰より背丈が低く、ガウェインの身体に鞭の痕が赤く残るのを、楽しそうに眺めながら、鞭をしならせている。
ガウェインは、顔も身体も鞭の痕だらけで、皮は裂け、赤く腫れ上がり、血が迸っていた。
(……くっそー。暗いから力が出ねえ。普段の今頃の三割以下だ。大陽の光がもうちょっと届けば……)
ガウェインはガチャガチャと音を立て、壁に取り付けられた手枷ごと手を動かすが、どうにもならなかった。
右上の石壁には小さな窓があり、錆びた柵が嵌められている。
大陽の光はそこから射すのみで、その光は壁に張り付けられているガウェインでなく、小人の方を照らしていた。
「ブゥー、ブゥ、ンガアー」
そこに、大きな……ガウェインより頭二つ分ぐらい大きそうな、全身を茶色い毛で覆われた化け物が、小人の横にやって来た。
「あ? その辺にしてやれ、可哀想だ?」
炬人が言うと、全身が茶色い毛の大男は「フンガ、ンガ」と首を振った。
「ざけんなよ。チューバ。ヴァレリン様から好きにしていいって言われたんだ!こいつはこの、ドリュイダン様のもんだ!」
茶色い毛の大男が「フンガー!」と怒り、ドリュイダンという炬人が「うるせぇ!喚くなチューバ!」と言い返す。ガウェインは口許から血を垂らしながら考えていた。
(あー、どうすっかな。全く、俺としたことが情けねぇ。ランスロットが来るだろうけど…。あー、くそ)
そこで突然、炬人のドリュイダンの頭上に黒い稲妻が落ちた。
「ぎゃあー!」
ドリュイダンが叫び、「なんだ!」と振り返る。
ガウェインも、ドリュイダンの背後に目をやった。
そこには、黒いマントを羽根飾りで留め、長い金髪を髪飾りで結った黒服の少年がいた。
その少し後ろには、剣を手に鋼の鎧にマントを靡かせた黒髪の騎士が。
「……モルドレッド、ランスロット!」
ドリュイダンが鞭を構えて二人を睨む。
「何だ、てめぇら! ……お、お前は」
「兄を助けに来た弟だ」
「……僕は……オマケみたいだな」
ランスロットが呟く。
モルドレッドの右手からは、黒い雷が迸っていた。
ドリュイダンはモルドレッドを見て、指を指しながら「ヒィィ!」と後ずさる。
「兄上を解放しろ」
「か、鍵なんか外に投げ捨てちまったから、ねーぞ!」
モルドレッドの脅しに、ドリュイダンが必死で喚く。
「ンガ、ンガア……」
茶色い毛並みの大きな男に、ランスロットは剣を抜きかけたが、モルドレッドが手を出して止めた。
「待った。そこの炬人ドリュイダンはアレだが、チューバはいい奴なんだ」
「……モルドレッド」
「言わなかったか? ここは俺の知り合いのいる場所なんだ」
モルドレッドとランスロットが話していると、ガウェインが「おい」と言った。
「モルドレッドにランスロット。お前ら、どちらでもいいから、剣を出せ」
ガウェインの台詞に、二人は顔を合わせた。ランスロットが、慌てて、剣を出す。
「……悪い、待ってろ。今、どうにかして手枷を外して」
「おう。だから、そこに小さな窓があるだろ。そこから差してる光を剣にあてて、俺の方に照らしてくれ」
ランスロットは合点がいったようで、すぐに剣に大陽の光を当て、ガウェインに向けて反射した。一瞬、ガウェインは眩しそうに片目を閉じたが、ニヤリと不敵に笑った。
「……うおー!」
ガウェインが唸り、両手に力を込めると、手枷が取り付けられた石壁がメキメキと音を立てた。やがて、手枷周辺の石壁がボコッと穴が開き、石壁が一面崩れ去った。
ドリュイダンが「うげぇぇぇ!」と目を開き、顎を開けて叫んだ。
昼下がりの大陽の光が、ガウェインに射し込む。
ガウェインの両手は手枷と、手枷の取り付いた周辺の石壁がくっついたままだったが、ガウェインは「おらあ!」と叫び、一気に両手を離して手枷を破壊した。
呆気に取られる周囲を前にガウェインは、砕けた石を払い、血が滲んだ両手をプラプラと振りながら「自由だ」と笑った。
気を利かせたのか、ガウェインが気に入ったのかは知らないが、チューバがガウェインの鎧や剣を一式持ってきてくれた。
「……ンガア」
「おー、俺の愛しのガラティン」ガウェインは剣を抜いて刃こぼれがないか確認すると、腰に剣を差した。
「普段、屋内でも強いのに」
そう言うランスロットに、ガウェインは言った。
「中の明るさにも寄るんだ。あんまり暗いと、力もそんなに出ないんだ…」
だが、そこで雲が出てきて、大陽を隠してしまった。
「あ……駄目だ……」
ガウェインはくたりと倒れてしまった。
ランスロットが慌てて抱き抱える。
ガウェインの顔や身体は、ドリュイダンにやられた生々しい鞭の跡が、そこかしこにくっきりついていて、血まみれだった。
「ガウェイン、大丈夫か! 幾らなんでも、その酷い傷じゃあ無理だ。休んでろ!」
「……いや、でもまあ、大陽さえ出れば……」
「雲が出たぐらいで、それじゃ駄目だろ! 無理しないで休んでろ!」
ランスロットはそう怒鳴ると、顔や身体中から血を流すガウェインを担ぎ、古城の外の木陰で休ませた。
モルドレッドが、ガウェインに向けて手をかざし、何か呟く。
するとガウェインはぐったりと眠り込んでしまった。
「中途半端に大陽が出て、俺も行くとか言い出して、途中で倒れられたら困るからな。兄上には寝ていて貰う」
モルドレッドは睡眠の魔法をガウェインに掛けたらしかった。ランスロットも頷く。
「うん。その方がいいな」
「チューバは詳しいから、グウェンフィヴァフ姫のところまで案内して貰おう」
「ちょっと待て。ガウェインに癒しの魔法を使ってやってくれないか?」
ランスロットの言葉に、モルドレッドは言葉を濁しながら答えた。
「癒しの魔法は苦手なんだ。……帰って、モルガンに手当てして貰った方が確かだと思う」
モルドレッドは額の傷を気にしながら、すまなそうに言った。
「……それより、ドリュイダンがいないな」
炬人のドリュイダンは、鞭を手に古城の奥の間……グウェンフィヴァフ姫が眠る、蛇の海の部屋に続く廊下を走っていた。
「くっそー! こうなったらあ…! ヴァレリン様の成功作のあいつに……」
ドリュイダンは、火を灯した燭台を手に、奥の間へ続く扉のある部屋に出た。
その部屋は血の臭いが漂い、様々な生き物や人らしきものの骨が山積みにされていた。
中には、食べかけの肉塊もある。
「……うう、いつ来てもゾッとするぜ。ヴァレリン様の失敗作廃棄所だ。うげぇ……」
ドリュイダンは、骨の山の中で居眠りをする、巨大な化け物を鞭で叩いた。
「目ぇ覚ませ、毒竜ファブニル!」
ドリュイダンはそう叫ぶと、サッと柱の陰に隠れた。
鞭で叩かれた巨大な蜥蜴のような生き物…毒竜ファブニルは真っ赤な口を開け、鋭い牙を光らせて、ギョロリと目を開け、地の底から響くような声で咆哮した。
その鳴き声は、ランスロットとモルドレッド、チューバの元にも届いた。
ランスロットが呟く。
「今のは……」
「ンガ……ンガア……フガ」
「……何?」
チューバは、廊下の曲がり角を指差し、モルドレッドに訴えていた。
そして、指差した先に行ってしまった。モルドレッドがランスロットに説明する。
「何だって?」
「ついて来いって」
曲がり角を右に曲がった先は行き止まりだった。
「行き止まりじゃないか」
ランスロットが文句を言うと、チューバは石壁に取り付けられた燭台を指差した。
「燭台に火を付けろって言ってる」
モルドレッドが呪文を唱え、燭台に火を灯すと、地鳴りのような音と共に、石壁が横に動き、道が出来た。
「隠し扉……?」
「ンガア!」
向う側は真っ暗だったが、彼は暗くても見えるのか…石壁の隠し扉が開くと、チューバは先に行ってしまった。
「あっ、おい……」
焦るランスロットの横で、モルドレッドは呪文を唱え、手のひらに小さな炎を出して、とっとと先へ進んでしまった。
「ちょっ、待てって!」
モルドレッドは手のひらに小さな炎を浮かべながら、周囲を見渡した。
小さな部屋で、壁は大きな岩を切り出したものらしかった。チューバは一番奥の壁に近寄っていた。部屋は良く見ると、四方の壁、共に小さく文字が掘られていた。
「壁に文字が彫られてる」
「文字?」
「ルーン文字。ゲルマン人の古い文字だ。ヴァレリンの趣味か?ゲルマンかぶれしてるからな」
モルドレッドは左側の石壁に近付いて文字を読み出した。
「『奴に名を教えてはならない』」
「奴?」
不思議そうに聞いてくるランスロットに、モルドレッドは頷き、反対側の壁に刻まれた文字も読んだ。
「『奴の持つ、黄金の腕輪に触れてはならない』」
やがて、モルドレッドはチューバが指を差す石壁に近付いた。
「『四つを三つに並べてみよ。一つを汝に授けよう。必要なものを選ぶが良い』」
「……何だって?」
「待って……。文字の下に何かある」
文字の下には、丸い窪みが三つあり、その下にはガラスのオーブが四つ並んでいた。
モルドレッドはオーブの一つに触れ、壁から外してみた。
「壁から外れるみたいだ」
「何か、絵が描かれてるな」
ランスロットとモルドレッドは壁に埋め込まれた四つのオーブを見つめた。
「……剣と、槍に、鍋。これは石の絵かな?」
「ゲールの四つの宝の象徴だ」
「四つの宝?」
ランスロットの問いに、モルドレッドは頷いた。
「……必要なものを選ぶが良い。必要なもの?」
モルドレッドはじっと考え込んだ。
「剣。カリヴァーン、アーサー王の剣。……槍。光の神ルーグの槍。……鍋。ダグダの鍋。…
…石。王者を選ぶ石、リア・ファイル。……必要。俺達に今必要なもの」
隣で、チューバが唸りながら、剣の絵が描かれたオーブを指差していて、モルドレッドはそちらを見つめた。
「剣? ……剣のオーブ?」
チューバは剣のオーブを取り出し、モルドレッドの手のひらに置いた。まるで、大事に持てと言うかのように、モルドレッドの手を包む。
「……チューバ」
モルドレッドは小さく呟くと、心を決めたように、三つの穴に、槍と鍋と石のオーブを嵌め込んだ。
……すると、モルドレッドが手にしていたオーブが眩い光を放ち、一振りの剣に変わった。
「これは…」
剣は黒い鞘に包まれ、銀色の装飾が施されていた。
驚くランスロットを横に、モルドレッドは剣を鞘から抜いてみた。
「……鞘に、ルーン文字が彫られてる。……グラム。聖剣グラム」
「……つまり」
モルドレッドは深刻な顔付きのチューバを見つめると、聖剣グラムを腰に差し小さく呟いた。
「…ランスロット、貴方がいてくれて良かった。俺一人じゃ……きっと」
第八話 毒竜ファブニル
ある噂が、ブリタニア王国諸侯の間に流れた。
ゲール同盟の盟主、モルゴースが子供を産んだ。のだが、その子供はアーサー王の子供ではないか。謁見に来た日、出来たのではないかというものだ。
何故、そんな噂が流れたかと言えば、モルゴースが金髪に緑の瞳の小さな赤子を抱いて『息子』と呼んでいるからだ。モルゴースは黒髪に紫の瞳、死んだ夫…ロット王は赤茶色の髪に青い瞳だった。それだけで充分、人々の噂の種になった。
ドルイドの一人は、『その子供はいずれ、ブリタニアを滅ぼすだろう』と予言した。
その『滅びの子』こそ、モルドレッドだった。
ウルフィウスは、その月。
国中の赤子を殺すよう、おふれを出した。それはまるでヘロデ王の如く。
マーリンは旅に出ていて、アーサーもマーリンも知らないところでの出来事だった。
いや、マーリンは知っている筈だったが、その大事な時期をすっかり忘れていたのだ。
ウルフィウスにモルゴースとモルドレッドを討つよう命じられたガウェインは、密かに二人を隠した。
本当は自分の子ではないのだが、モルゴースはガウェインにろくに説明をせず……ガウェインは不信感を持ってしまった。
モルゴースはモルドレッドと共にオークニーの隅の古城に隠れ……モルドレッドは樽に流され、逃がされたと噂が立った。
『滅びの子、モルドレッド』
モルドレッドはその呼び名を知っていた。
ある者にとって滅びの子ということは、ある者にとって救いの子を意味していて、彼に期待する者逹も確かにいた。
モルドレッドの中にある、小さい頃のオークニーの風景はいつも寒かった。
海の色は暗くて、良く雪が降った。吐く息が白く、指が赤くかじかむ。
モルドレッドは、良く一人で遊んだ。他の子供逹は、モルドレッドに近寄ってはいけないと厳しく親に言われていて、モルドレッドはいつも一人だった。
成長のスピードが速すぎて、やがて誰も彼がモルドレッドだとわからなくなっていた。
自分の兄だという人達は、自分を奇妙な…不気味なものを見る目で見たけれど、どこかで仕方ないと彼はわかっていた。
モルドレッドはいつの間にか少年で、凄まじい速さで物事を吸収していた。
心がその速さに追い付けたかはわからない。
ただ、寂しいときは、ずっと自分が作った一つの歌を口ずさんでいた。
「おい、どうした」
石壁の回廊、モルドレッドはランスロットに声を掛けられ、意識をその場に戻した。
「……なんでもない」
素っ気なく返す小柄な少年を、全身を茶色い毛に覆われた大男チューバが、心配そうに見ていた。
大陽が雲に遮られていた。
カールレオン城の自室で、本を読んでいたアーサーは窓から空を見上げた。
「グウェンフィヴァフにガウェインに、ランスロットにモルドレッド…。大丈夫だろうか」
脇にいたケイとマーリンが返した。
「祈るしかないな」
「……大丈夫ですよ、きっと」
そのとき、アーサーの胸元でペンダントトップが半分だけの石が、淡く白く光った。
水槽に囲まれた暗い部屋で、黒いローブを纏った細身の男……ヴァレリンが呟いた。
「……グウェンフィヴァフ。三番目の小さなグィネヴィア。絶滅危惧種の火竜の血を引く、最後の丘の巫女。私の作品。出来るだけ若さと美しさを保てるように、低速成長の魔法を掛けている」
ヴァレリンは口許を歪めた。
「ブリタニア王国を滅ぼすことはいつでも出来る。……だが、このまま滅ぼさずにいることも出来る」
錯綜の(・)森の古城、奥の部屋に続く広間の前に、モルドレッドとランスロットは立っていた。 チューバの案内で真っ直ぐ来れたが、途中から酷い血と肉の臭いが漂い始めていた。
城内を徘徊していた魔物も、全身に黒い毛が生えた化け物から、グール…生ける屍に変わり、二人は剣で斬り捌きながら前に進んだ。
「酷い血の臭いだ……ここからだな」
「ンガ、ンガア!」
ランスロットとモルドレッドが顔をしかめながら広間への扉を開くと、チューバが何かを叫んだ。
「……注意しろって言ってる」
「……こいつは!」
広間は、人だか獣だかわからない骨や死骸が山積みされ、その中に天井程ありそうな、巨大なトカゲみたいな化け物がいた。
「……竜?」
巨大なトカゲみたいな化け物は、大きな口を開け、鋭い牙を剥いて咆哮した。
そして、三人に向かってどす黒い息を吐いた。
気付いたチューバが叫ぶ。
「ンガ! ンガンガ!」
「……うわっ!」
「ウガァ……」
「……こいつは、身体が」
三人共、痺れを感じて膝をつく。
竜が、ランスロット目掛けて突進してくるが、身体が麻痺していて動きようがない。
そこで、チューバが雄叫びをあげた。
チューバの大声に竜が注意を引かれた隙にモルドレッドが何か呪文を唱え、命じた。
「“浄化せよ”」
たちまち、白い光が三人を包み込み、ランスロットは痺れがなくなるのを感じると、我に戻った竜が攻撃する前に、その右前足に思いきり斬りつけた。
竜がバランスを崩れて横転すると、ランスロットは息もつかずに二度目の剣劇を、竜の左前足に斬りつけた。竜も負けてはおらず、ランスロットの左肩に噛み付いた。
「うぐっ……」
だが、その隙を逃さずモルドレッドが聖剣グラムで竜の眉間を思いきり突き刺した。
竜は大きな咆哮を挙げ、崩れ落ち、やがてピクリとも動かなくなった。
「……はあ、何なんだ一体」
チューバの「ンガ、フガ」という説明をモルドレッドが訳した。
「毒の息だ。……こいつは“毒竜ファブニル”。ヴァレリンが造り出した化け物……」
「ンガ、ンガア」
モルドレッドは、 チューバの言葉を聞いて少し躊躇いながら言った。
「……あいつの廃棄した失敗作を処理するのが、こいつの役割」
「失敗作?」
「……俺の仲間逹だ」
モルドレッドは、ファブニルの下に積まれた、なにものかわからぬ骨や死骸の山を見て、重い顔付きで呟いた。
「……それより肩は大丈夫か」
「……ああ、多少痛むがな」
ランスロットはそう言いながら剣を振って、こびりついた血を払うと、ファブニルの右前足に黄金の腕輪が嵌められているのに気付いた。
「……何だ、これ」
「触らない方がいいって、壁に書かれてたのはそれじゃないか。触らない方がいい」
「……そうだな。教えには従うものだ。オーディンの教えかも知れないが」
ランスロットとモルドレッドは剣を鞘に納め、チューバと共に、骨や腐乱した死骸の山を掻き分け、奥の間へ続く扉に到達した。
そこで、柱に隠れて見ていた小人のドリュイダンがこっそり出てきて、「…しめしめ、これ欲しかったんだよな」と、倒れたファブニルの右前足に嵌められた黄金の腕輪に手を出そうとした。
が、気配を感じたチューバに吠えられて、慌てて手を引っ込めた。
「死の谷に投げ入れなきゃいけない指輪みたいなもんか?」
ランスロットの台詞にモルドレッドは、「さあな」と一瞥しただけだった。
「……それよりモルドレッド、鞘を引きずってるぞ。その剣、大きいから背負った方がいいんじゃないか」
「……うるさいな」
ランスロットと話をすると背丈の分、モルドレッドは上を向かなければいけなかった。
そんなやり取りをしながら、三人は扉を開けた。
「……グウェンフィヴァフ姫!」
ランスロットは、目の前に広がる部屋の光景を見て唸った。
確かに、グウェンフィヴァフはいた。部屋は広く、天井も高かった。
蔦が絡まり、崩れた天井や石壁の隙間から日差しが差し込んで、室内を淡く照らしていた。
広い部屋の中心に蜘蛛の巣の掛かった白いベッドがあって、その上で小柄なグウェンフィヴァフが目を閉じ、眠っていた。
彼女は赤いケープを羽織っていて、プラチナブロンドと白いドレスがふわりと広がり、耳元には花が飾られていた。
だが、駆け付けようとしたランスロットをモルドレッドとチューバが止めた。
「何を……」
「足元を見ろ」
ランスロットは言われて足元に目をやり「うわっ」と後退りした。
床には一面に、何百もの蛇がとぐろを巻き、蠢いていた。
グウェンフィヴァフのベッドも良く見ると、一匹の蛇が登っていって、彼女の顔の傍で赤い舌を動かしている。
「あっ、姫!」
「グウェンフィヴァフ姫が恋しいのはわかるが落ち着け」
モルドレッドの突っ込みに、ランスロットは「そういうのではない…」と反発した。
モルドレッドはジト目でランスロットを見ていたが、ランスロットはそこで突然崩れ落ちた。
モルドレッドは自分より背の高いランスロットが自分に向かい倒れてきたので、吃驚してランスロットを支えた。
「……おい、どうした……」
モルドレッドはそこまで言い掛けて、ランスロットの右肩が血で滲んでいるのに気付いた。
ランスロットは息が荒く、額に脂汗を滲ませていた。
チューバが「ンガ、ンガ」とモルドレッドに訴えてくる。
「……ファブニルの毒か……! ちょっと待て、浄化の呪文を」
モルドレッドはランスロットに浄化の呪文を唱えた。
ランスロットは少しはマシになったようだが、意識を失い倒れたままだった。
チューバがグウェンフィヴァフを指差し、「フガフガ」と言う。
モルドレッドは溜め息を吐き、ランスロットを引きずって、扉よりこちら側の壁に寄りかからせた。そして、床に目掛けて黒い稲妻の呪文を唱えた。
全てではないが多くの蛇逹は稲妻に焼かれ、グウェンフィヴァフのベッドへ行くまでの道は開けた。モルドレッドとチューバは蛇の海の割れ目を歩いて、グウェンフィヴァフの眠るベッドまで到達した。
「……寝てるな。眠りの魔法が掛けられてる」
モルドレッドは眠りの魔法を解く魔法を掛けようとしたが、弾かれてしまった。
「……え」
チューバが「ンガ、ンガ」 と説明して、モルドレッドは血の気が引くのを感じた。
「キスをしないと魔法が解けない?」
モルドレッドは困った顔でランスロットの方を見た。
ランスロットに頼もうと思ったのだ。
「ランスロットをどうにか起こしてくる」
「フガ、フガ!」
そこで、苛立ったらしいチューバがモルドレッドを押して、グウェンフィヴァフにキスをさせた。というか、結果としてすることになり、グウェンフィヴァフは睫毛の長い瞼を開けて目を覚ました。 モルドレッドはボンヤリするグウェンフィヴァフからすぐに離れ、ランスロットの方を見た。何故見たのかはわからなかった。




