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モルガンとガニエダ

久々に、湖の精であり巫女の修行場所…乙女の城に戻ったモルガンは、呆然とした。

 湖の巫女見習いの若い少女達は、それぞれアーサー王や円卓の騎士のファンクラブを作っていた。

 モルガンが来たとわかると、大勢の少女達が押し寄せ、それぞれ騎士について聞こうとするのだ。

「ねえ、ランスロット様って彼女がいるって本当?」

「自称でしょ! 本当はグウェンフィヴァフ様が好きで、フリーなんじゃないの?」

「ガウェイン様って全ての女に優しいけど、特定の人はいないのよね?」

しっちゃかめっちゃかで、モルガンは歩くのにも酷く困難だった。

そして、一番対立していたのは……アーサーのファンクラブと、サクソン族の新王シンリックのファンクラブだった。

「……モルガン先輩、アーサー様と仲がいいって本当ですか?」

「はあ?」

「いえ、今は置いておきましょう。私達はシンリック派と戦争中にあるので」

「シンリック……ってサクソン族の新王の?」

「シンリック様は、超イケメン様ですからね! 私達は断然シンリック様派です!」

大勢の少女達がにらめっこをしていた。

「シンリック様は黒髪に切れ長の瞳の、ワイルドで超クールなイケメン様です。これからはシンリック様の時代なんです!」

「私達は断然アーサー様派なんで! モルガン様はシンリック様とならくっついて構いませんが、アーサー様とはくっつかないで下さいね!」

「はあ?あんた何言ってんの? シンリック様とモルガン先輩がくっつとか絶対許さないから、阻止しまくるから」

 少女達に押されて、モルガンは何か言う隙もなかった。

アーサーファンだという少女が、ジロリとモルガンを睨みながら言った。

「私、アーサー様にはアーサー様に一途な方とくっついて欲しいんです。モルガン様ってカールレオン城で凄くモテるって噂に聞きます。そうですよね。カッコいい殿方が沢山いますもんね。だから私……モルガン様があんまりフラフラするようなら……。アーサー様と仲良くして欲しくないんです」

「あの、私も言いたいんですけど……。せめて、シンリック様にだけは手を出さないで下さいね。他の騎士様達は知らないですけど……何か色々な噂を聞くので」

アーサーのファン、シンリックのファンだという少女達は、モルガンを睨み付けた。

 モルガンは何だかショックを受けて、ガニエダのいる校長室に入った。

モルガンの栗色の髪は癖がつき、黒いドレスにもシワがよっていたが、仕方ない。

校長室の中のガニエダは双子の兄、マーリンのように少女の姿で、銀髪の髪を一つに束ね、ブカブカのローブに大きな杖を手にしている。その実年齢はとっくに老人だった。

 窓の外を見ていたガニエダは、モルガンが来たのに気が付いて振り返った。

「何じゃ、モルガンか。随分気落ちした顔をしているな」

「……アーサーや円卓の騎士やサクソン族の新王が、ずいぶん人気みたいですね。…まあ、色々言われるのは慣れてますけど…」

「美男子に囲まれるのも大変じゃな」

「実際、余りモテないんですけどね…私は。美少女と言われてファンクラブがあるのは、エレインとグウェンフィヴァフなんですけれど」

鬱憤が溜まっているようで、モルガンは胸の内を一気に吐き出した。

「口説かれたのも、ガウェインに一回されたぐらいですし。エレインやグウェンフィヴァフは、沢山告白されたりしてるんですけど。あ、出し抜けにブスって言われたこともありますね、心ない通行人に」

モルガンは、ちょっと言い過ぎたなと思って、気まずそうに口をつぐんだ。

「モルガンは、アーサーと兄妹のように育ったんじゃったな」

「ええ……だから、仲いいのは当然ですし。大体サクソン族の新王など面識ありませんし」

「わしにも兄上がいる。魔術師マーリンじゃ。まあ、双子なのだが。生まれた直後、産婆がどちらが先かわからんでな。わしが姉なのかも知れんのだが、面倒だから兄呼ばわりしておる。……まあ本当のところはわしが姉じゃろうな」

 ガニエダの優しい視線に、モルガンは少し心を落ち着けた。

「わしら双子は、時を逆さに生きるさだめにある。それが呪いなのかはわからん。どうすれば周囲と同じ時の中に生きられるのか、調べに調べたが、わからずじまいじゃった。

兄上は、青年期を遊び人のように過ごしたが、わしの青春はからっきしじゃ」

「からっきし?」

「そう。わしだって出来るなら、まともに青春を送りたい。だから、わしはずっと、この呪いのようなものを解く方法を探しておる。…解けたところで、老婆になるだけかも知れんが、この若い見た目から、時を始められる可能性もある」

ガニエダは、モルガンに笑いかけた。

「お主も、湖の城でずっと書物と共に鬱屈しておったろ。いつまでも鬱屈しとらんで、青春について考えたらどうじゃ」

落ち込んでいたモルガンは、良くわからないが、少し元気が出た気がした。

「それで、一体何の用じゃ?」

「あ、売店で魔法薬の材料を買いに来たんです」

モルガンは思い出したように言った。

「モルガン、一度、アーサーの首飾りとお前の首飾りをくっつけてみなさい。やったことはあるか?」

「ありません」

「……兄上は、すっかり忘れておるな」

ガニエダはやれやれと首を振った。


さっそく、モルガンはカールレオン城に戻ってアーサーを呼びつけ、ガニエダに言われたことをしてみた。

アーサーはケイと、渡り廊下で外の風景を眺めながら、アングル、サクソン族の様子について話し合っていたみたいだった。

ケイが書物を持ち、ぶつくさ文句を言いながら離れたところで、モルガンはアーサーに話し掛けた。

「サクソン族について話してたの?」

モルガンの声に、マント姿のアーサーが顔を挙げた。

「……うん。主に、ウェセックス、サセックス、エセックス、マーシアなんだけど。何か良くわかんないけど、ゲール同盟と亀裂が生まれ出したみたいだな。今やブリタニアの土地だけでなく、ゲールやピクト族の土地にも手を出して、アングル、サクソン族同士でも競い合い出したみたいだ」

「サクソン族同士でも?」

「何でもあり、しっちゃかめっちゃかだな。目の前に土地があれば自分達のものにしていく。そんな感じだ。物凄い大量の海賊…いや、今や山賊共か……? まあ、山賊の群れだよな」

アーサーはうーんと唸っていた。

「特にウェセックス相手に、カドバリー城辺りが激しいみたいだ。ペディヴィエールにあたらせているけれど……僕が出ていく必要があるかも知れない」

「……アングル、サクソン族の王様と会うの?」

「かもね。ケルディックの息子、新王シンリックにね」

「新王のシンリックって凄くカッコいいって聞いたわよ。乙女の城にファンクラブがあったもの」

「……へえ。イーストアングリアみたいに美人の女王だったら良かったのに」

モルガンは、ジト目でアーサーを見た。

「……ああ、モルガンは会いたいわけ?」

「はあ?」

「……イケメンか。ランスロットやガウェインは、毎度キャーキャー騒がれるけど、僕は女の子に騒がれたことなんか一度もないな……。いや、まあ別にいいけどさ。フフフ」

ひねくれるアーサーに、モルガンは少し驚いたように見つめた。

 確かに、アーサー王を前にすれば皆、口をつぐんで頭を垂れる。

騎士ではなく王なのだから、キャーキャー騒ぎようもない。

「……イケメンね」

自信なく、少しひねくれたようにアーサーは呟いた。

モルガンは事実をアーサーに言おうかと思ったが、何となくやめた。何だか、笑いが込み上げてきた。少し、寂しい気もした。

「イケメン嫌いなんて心が狭いんじゃないの?」

「別に嫌いだとは言ってない」

アーサーは、どこか嬉しそうな……そしてどこか寂しそうなモルガンを、奇妙な目で見つめた。モルガンも、いいと思う男は数人いる。アーサーは何人か心当たりがある。

だがモルガン自身はそれを知らず、自信がない。

そして、それを一々モルガンに教えるつもりも、アーサーにはなかった。

「……そうだ。アーサー、ガニエダ様に言われたんだけど……」

モルガンは想いを振り切るように、胸元の首飾りを外して、手のひらに乗せた。


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