かつてマーリンが見たもの・滅亡
モルドレッドが円卓に入り黒騎士と呼ばれるようになったとき、モルゴースもまたキャメロットに訪れるようになっていた。
……近付く死期を前に、モルゴースはグウェンフィヴァフと接触したことがあった。
その頃、グウェンフィヴァフは中傷を前に、心を閉ざすようになっていた。ランスロットは、カーボネックのエレインと息子のガラハッドを失い心を荒ませていた。
また、アストラットの乙女エレインがランスロットに好意を寄せるあまり、食欲を失い、亡くなってしまった頃だった。
小舟に乗せられた、青いドレスを着た銀髪の女が川に流されて行くのを、グウェンフィヴァフは複雑な顔で見つめていた。
モルゴースはグウェンフィヴァフに言った。
「貴方はどこか私に似ている。寂しいのに強がっているところが。でも、貴方は私とは違うわ」
そしてその数日後、モルゴースは死に、その更に数日後にアストラットのエレインが死んだ。
また、モルドレッドもグウェンフィブァフに接触していた。
ガウェイン派とランスロット派の応酬は続いていた。
モルドレッドは、ランスロットと行動を共にすることもあったがガウェイン派だし、古の民の中で育った。
兄ガウェインに複雑な感情を持ちながらも、モルドレッドは兄達を敬愛していた。
だが、母モルゴースを失い、喪失感に見舞われていた。
彼は兄アグラヴェインと共に、ランスロットとグウェンフィブァフの中傷の噂を流した。
グウェンフィブァフとランスロットの噂は、円卓の騎士になる前から普通に知っていた。
手酷い噂を他人事のように聞きながら「王妃の座から下ろすべき」「誘拐して孕ませれば」など、余りに酷い内容に憐れさも感じていた。
モルドレッドは、自分自身、グウェンフィブァフの中傷をしながらも、彼女に囁いた。
「お前は俺の母親に似ている」と。
ランスロット側……ラモラックの身内の騎士ピネルはガウェインを恨んだ。
彼は祝日、円卓でグウェンフィヴァフが手配した梨に毒を盛り、ガウェインではなく他の騎士がその梨を食べて死んでしまった。
ピネルの身内の騎士にグウェンフィブァフは疑われ、ランスロットが彼女の疑念を晴らすために騎士と戦い、勝った。
犯人、騎士ピネルは湖の巫女ニムエが見つけ出した。
ガウェインの弟、アグラヴェインはガウェインが毒殺されそうになったことに怒った。
そして、ランスロットとグウェンフィブァフの不義を持ち出した。
何故、アーサー王は無視をしているのか。
自分達も、法の通りに母の不義を問いつめ、騎士ラモラックを倒したのに。
二人はアーサー王を貶めている。グウェンフィブァフの不倫を暴くべきだと
ガウェインが止めるのも聞かず、アグラヴェインとモルドレッド、ガウェインの子供の一人が、ランスロットがグウェンフィブァフの部屋にいる場面を取り抑えた。
……ランスロットは、息子ガラハッドの形見として、ある剣を手にしていた。ランスロットがガウェインを殺すと刻まれた、第一の宝だった。
それを手にすると、鈴の音が遠くで聞こえた気がした。
そして、ランスロットはアグラヴェインとガウェインの息子を殺し、モルドレッドに深傷を負わせた。
モルドレッドは傷まみれで、アーサーにランスロットとグウェンフィブァフの不義、ランスロットが兄と甥を殺したことを告げた。
ガウェインは身内を失ってもなお、親友のランスロットを庇った。
それは、他のガウェイン派をがっかりさせた。
モルドレッドは、ガウェインが持つゲール同盟の王権が揺らぎつつあることを、憂いげに、冷静に感じていた。
アーサーは民衆の手前、グウェンフィブァフの罪を問わなければいけなくなった。
グウェンフィブァフは下着姿で火刑台に立たされた。
アーサーも皆も、ランスロットがグウェンフィブァフを助けに来るのを待った。
モルドレッドも、早く来ればいいのにと舌打ちをしていた。
そして、ランスロットがグウェンフィブァフを助けに来た。
だが、ランスロットはここでもガウェインとモルドレッドの身内を殺した。
遠くで、鐘の音が鳴り響いていた。
ランスロットを慕い、帯剣せずランスロットを待っていたガレス。
彼もランスロットに殺されてしまった。
ついに、ガウェインのランスロットへの怒りは頂点に立った)
円卓は大きくひび割れた。ガウェイン派はガウェインに従い、またランスロット派はランスロットに従い。派閥が真っ二つに割れた。
だが、円卓の割れ目はランスロットとモルドレッドを示していた)
ランスロットは無意識にガウェインの身内を殺した、その剣を恐れた。
ランスロットの城である喜びの砦にグウェンフィブァフを連れて行き、また、剣を預けておいた。
そうして、ランスロットらは押し寄せてきたアーサーとガウェインらの軍と戦い合った。
憂うアーサーの手元に、ローマ教皇から、グウェンフィブァフを許して戦いをやめるよう手紙が来た。アーサーはランスロットに和睦を持ち掛けた。
だが、立て続けに身内を失ったガウェインは、ランスロットに強い恨みを持っていた。
再び戦いが始まった。ランスロットは、身内の騎士らと海を隔てたベンウィック王国に逃げ、アーサーとガウェインは船でそれを追いかけ、戦いを続けた。
アーサーは自分の代わりに、モルドレッドとグウェンフィブァフに留守を任せた。
モルドレッドは姉モルゴースの息子…甥だからだ。
だが、ゲール同盟はその盟主に近い者逹を立て続けにランスロットに殺された。
怒らないわけがなかった。
アグラヴェイン、ガレス。ガウェインの息子逹。
ゲール同盟の王逹は、ゲール同盟の盟主としてモルドレッドを担ぎ上げた。
モルドレッドはわかっていた。多分こうなるだろうと。
死に際のモルゴースに、自分はモルゴースの妹モルガンとアーサー王の息子なのだと、告げられたときから。
自分は利用されるのだろうと。
マーリンとガニエダを失ったドルイド七賢人会議は、新たに邪竜教団の大司祭クリングソルとサクソン族の魔法使いオズモンドが加わり……、大司祭クリングソルが議長の座に着いた。
彼らはとっくに人ではなく、魔物だった。
彼らは、裏からモルドレッドを操った。
モルドレッドはゲール、サクソン同盟を引き連れ、反旗を翻した。
グウェンフィブァフに婚姻を迫り、グウェンフィブァフはロンドン塔に逃げ、籠った。
第三の宝。
美しく光る石の首飾り。
それは光を司る。そして、あらゆる世界への鍵だ。
半分はアーサーのもの。半分はモルガンのもの。
アーサーのものはペリノアの弟に盗まれたが、ベイリンが取り返し、マーリンに託した。
マーリンはアーサーに返す前に、湖の巫女ヴィヴィアンに封印されてしまった。
……そして、第三の宝の半分はヴィヴィアンの手に渡った。
もう半分、モルガンのもの。モルガンが消えた夜、モルゴースが拾い上げた。
モルゴースはそれを、湖の巫女ガニエダに預けた。
ガニエダの死後、湖の巫女ニムエが管理した。
ヴィヴィアンとニムエは第三の宝を、ある女に渡した。
湖の精であり巫女、リュネットだ。
彼女は日頃、アーサー王の宮廷に顔を出していた。
気まぐれに、グウェンフィブァフの侍女じみたことをしたこともあった。
リュネットは、湖の巫女達の意思の元に、モルドレッドに第三の宝、首飾りを渡した。
第三の宝の力で、モルドレッドは透明になり、ロンドン塔に忍び込んだ。
グウェンフィブァフはモルドレッドを拒絶した。
モルドレッドは、そこに、布に包まれた一振りの剣を見つけた。
グウェンフィブァフは、それを手にしてはいけないとモルドレッドに必死に言った。
「ランスロットはその剣でガウェインの身内を何人も殺した。
きっと、人が使うには畏れ多すぎる剣なのだと」
モルドレッドが剣を抜くと、そこには銘文が刻まれていた。
『この剣はモルドレッドのものである。モルドレッドはこの剣で最も身近な者を殺す。
その者の名はアーサーである』
グウェンフィブァフはぞくりと震えた。
一方、ガリアに渡ったアーサーはモルドレッドが反旗を翻した報を聞いて、急いでブリテンに引き返した。
モルドレッドはグウェンフィブァフに心の内を話した。
自分がモルガンとアーサーの子供であること。
古代アトランティスの魔術で超速成長の術がかけられており、最早人ではないこと。
モルドレッドの同盟には、元々苦い思いをしていた、ゲール、古の民、ピクト族、サクソン族が控えていた。
彼らが、ランスロットとガウェインの仲違いでアーサーに愛想を尽かし、自分を王に押し上げたこと。
グウェンフィブァフは出ていこうとするモルドレッドに、やめるよう引き止めた。だが、モルドレッドは彼女に「お前は生きろ」と言い残し、立ち去った。
ランスロット派との戦いで、ガウェインは頭を棍棒で打たれ、床に伏せていた。
ガウェインは弟モルドレッドの反乱の報を聞き、ランスロットを憎んだ自分を恥じた。
アーサーの軍がブリタニアに上陸すると、モルドレッド率いるゲール同盟との戦いが始まった。
太陽は傾いていた。強かったガウェインは、傷を悪くして、海辺の村で床に伏した)
アーサーは自分が運命の歯車にくくりつけられる夢を見た。
冥界アンヌゥンの川に浸った水車で、歯車が回り、自分は化け物に満ちた川の中に沈んでしまう。
アーサーは汗だくになって目を覚ました。
ガウェインの夢にモルゴースか出てきて、様々なけとをガウェインに教えた。
本当はアーサーとモルガンの息子であること。ゲール同盟の王位についたこと)
カムラン。
モルドレッド率いるゲール同盟との戦いが迫っていた。
その前の晩に、アーサーはガウェインから手紙を受けた。
ガウェインは、モルドレッドと和睦を結んで欲しいと告げた。
「今は色々なことがわかるんです。アーサー王。
モルドレッドと戦ってはいけません。…あいつは、俺の弟は…あなたの子供なんです。貴方と、俺のおば……モルガンの子供なんです。あなたの子供が、いいようにいじくられ育てられて利用されているんです。兄として、もっと優しくしてやれば良かった。お願いです。どうか和睦を」
アーサーはガウェインの忠告通り、モルドレッドと和睦を結ぶつもりでいた。
和睦の手紙を出して、モルドレッドも承諾した。
カムランで両者は対峙した。
和睦は結ばれる筈だった。
だが、ある兵士の足下に蛇が噛み付いた。兵士は剣を抜き、蛇を殺した。
その剣の輝きは、『武器を抜いた。戦いの合図だ』と見なされた。
こうして両者の兵士達は武器を手に、戦い合った。
アーサーとモルドレッドは互いに戦い合った。
モルドレッドはアーサーに槍で貫かれたが、それでもなおアーサーの傍に突き進み、最後の力を振り絞り、アーサーの頭に剣で斬りかかった。
アーサーは泣いていた。
「俺は何で……こうなんだ。何でお前と戦わなきゃいけないんだ。何で俺は……。愛する女と戦って、親友と戦って、お前とまで……』
「……俺のこと、知ってたんですね。父上。…良かった。……でも、もっと早く……てたら……」
モルドレッドは僅かに微笑んで、泣きながら崩れ落ちた。




