アーサーの所見
カールレオン城では、執務……書類の判子押などを早く終えたアーサーは庭園の林檎の枝で、マーリンから貰った眼鏡を掛け、林檎を食べながら、本を読んでいた。
足元には白狼のカヴァルがちょろちょろ、行ったり来たりしている。
さっきは大変だった。ランスロットやモルガン、エレイン、グウェンフィブァフと一緒にマーリンの小屋に行ったら、染め粉を被って、皆、髪の毛が真っ黒になってしまった。まあ、あれはあれで中々良かったが。
ふと、アーサーは小さい頃を思い出した。エクトールの城に迎えられたばかりの頃。
まだマーリンが現れる前……ケイや同い年の子供達を脇に、一人で遊んでいた。
一人、空を眺めていた。
最初は、どう、友達になったらいいのかわからなかった。一人で泥で山を作って遊んでた。あと、虫を追いかけたり。
アーサーにはどこか、心の奥で、冷めて諦めてるところがある。誰も、本当にはアーサーのことなど理解しない。自分は……どうも、上手くいかないんだと。そんな自分が嫌なところが。
キャメロットの大聖堂にある鐘が鳴り、昼の十二時を告げた。
(もう昼食の時間か)
アーサーは苦笑いすると、本を抱え、カヴァルを母のフラブィラにに任せ、マントを翻して円卓の間に行った。
多くの兵士は兵舎で食べるが、予め円卓に名が彫られた騎士達は円卓に座って使用人に運ばれてくる料理を取り分けて食べていた。他に、マーリンやモルガン、グウェンフィヴァフ、エレインなど席に名がなくとも適当に円卓周辺に座って料理を食べていた。
アーサーは何となく、家臣達を見渡し、僅かに微笑んだ。
(随分、集まったな)
まず、アーサーの側近。ケイ、ウルフィウス、ブラスティアス、ボードウィン。
ボードウィンが、料理を運ぶ使用人に「ありがとう」と言うと、ウルフィウスが「使用人風情に礼など」と鼻で笑った。ブラスティアスは眉をしかめ、「使用人も労うべきです」と言い返し、ウルフィウスは肩をすくめていた。
ウーゼルの代からの年長組の二人……ウルフィウスとブラスティアス。二人は互いに気
が合わずちょっとした口論になりやすい。ボードウィンがブラスティアスと話すと、ウルフィウスが茶々を入れることが多い。だが、三人共にいい大人なので酷い喧嘩には発展しない。
アーサーは溜め息を吐き、マーリンとケイに視線を移した。
「キャメロットは週一回、定期的にゴミは埋めさせてるが、やはりゴミ捨て場周辺からの苦情が多くて……」
「週二回に変えてみては?」
(ケイはマーリンと内政外政について話すことが多い)
三人は、サクソン族の話に移っていた。
「サクソン族でもキリスト教に改宗したケントやイーストアングリアとは同盟関係が保てていますが……」
サクソン族について思いを馳せるマーリンに、エクトールとケイが言う。
「マーシア、ウェセックス、エセックス、サセックスが問題だ」
「問題はマーシアとウェセックスだな。特にソールズベリ周辺が物々しい」
次いでアーサーは円卓の騎士達に目を移した。
銀の腕のぺディヴィエール。彼もウーゼル時代の年長組だ。義父エクトールも年長組。二人は、良く若い兵士達を訓練してくれている。大体、ぺディヴィエールは寡黙で、育ての父エクトールは、母のフラブィラやケイやマーリン、ボードウィン、ブラスティアス辺りと話してる。
アーサーは同年代の連中に目を移した。
騒がしいのは双子のベイリンとベイランだ。一応あれでもノーサンバランド王家の出……王子様の一端だ。最近はベイリンが沈みがちだったけど、気を取り戻したみたいだ。
ベイリンとベイランは「俺今日、五人の女の子とデートの約束に成功した」とか、「ああ、俺なんか六人口説くのに成功したから」とか、ナンパに成功した女の子の数を二人で競っていた。
言い合う双子の前で、ガウェインが料理を運んでくる侍女をナンパし出した。
「ねえ君、今日はこの後、暇? 俺とデートしない?」
侍女は「きゃあ、ガウェイン様に口説かれちゃった!」と浮かれ他の侍女達に羨ましがられる。
ガウェインは「数じゃないと思うぜー」とふふんと双子に笑い、双子に「はあ?」「うぜえ、なんかうぜえ」と返されていた。
(ガウェイン。キャメロット第二の騎士。僕の異母姉モルゴースと、亡きゲール同盟盟主ロット王の長男。スコーティアの第一王子だ)
最近、緑の騎士ベルティラックと勝負して、認められたとか言ってたな。
他に次男アグラヴェイン、三男ガヘリス。……ゲールや古の民出自の騎士や兵はガウェイン派が多い。……そして。
更に賑やかな方にアーサーは目を向けた。
ランスロットの右隣にはエレイン、その隣にはグウェンフィヴァフ、左隣にはパー シヴァルが座っていた。
エレインが一生懸命、肉と格闘して、ランスロットの取り皿に豚肉を盛っていた。
「さ、ランスロット様どうぞ!」
「いや、そんなに盛らなくていいよ。これぐらいで」
ランスロットは取り皿から肉の半分を元の皿に戻した。
「エレイン、肉をさばくのが下手くそだな。俺がやりますよ、ランスロット様」
「お兄様は引っ込んでて!」
「ランスロット様に悪いだろ」
「……いや、ていうかこれだけでいいから。ランスロット様、そのお花の刺繍が入った布飾りは?」
「エレインがくれたんだ」
グウェンフィヴァフは少しだけ手のひらに肉を乗せ、ピュタゴラスに与えていた。
海を隔てたガリアの地……アルモリカのベンウィック国、第一王子ランスロット。
小柄で、一見女みたいな優男だけど、間違いなくキャメロット最強の騎士だ。他に彼の身内のボールス、エクトール・ド・マリス、ライオネル。
アーサーはパーシヴァルに目を移す。
ウェールズ地方のキリスト改宗国、リスティノイス王国のパーシヴァル王子にエレイン姫。他、彼らの兄弟達、エレイン姫をランスロットが助けたことからランスロットについている。ランスロット派はキリスト教徒が多い。……ゲールの者が多いガウェイン派と、ちょっとした派閥争いが出来ている。
ランスロット自身は湖の巫女に育てられ、ガウェイン自身はキリスト教の司教に育てられたのだが……。
アーサーはピュタゴラスに夕飯をやるグウェンフィヴァフと、彼女の隣で話すモルガンを見た。
……ドラゴンアイランドの近く、キリスト教国カメリアードの姫君、グウェンフィヴァフ。彼女はブリタニアの女神の化身だのと言って、拐いたがる奴が多い。守ってやらないといけない。
幼少時はイニス・ウィトリン修道院で育てられたと言っていた。ランスロット派と親和がある感じだ。
アーサーはグウェンフィヴァフからモルガンに目を移した。
(……モルガン。血の繋がらない僕の姉妹)
表向きは、僕の実母イグレインと……。父ウーゼルに逆臣として殺され妻を奪われた、亡きコーンウォール公ゴーロイスの末娘。湖の巫女。グウェンフィヴァフと仲がいいみたいだ。ガウェイン派は親戚、ゲールの者が多いだけあって彼女を信望する奴が多い。
アーサーは、ふうと溜め息を吐いた。
(随分集まった。あと、円卓の空いてる席は……四つか。危険の席につくべき騎士はまだ現れない。……それに)
アーサーは円卓のヒビを見つめた。
(ランスロット以外の、円卓のヒビの入った席の騎士もだ。……さあてと。今日は昼食が終わったら弓の訓練にでも行こうかな。しかし、相変わらず、手のイボが治らないな……。頭もちょっと白髪増えたし)
アーサーは溜め息を吐くと、円卓の自分の席に着き、野菜を皿に盛った。
赤茶色の髪の少年ガレスが、使用人に混じって料理を運んでいた。




