序章
アーサークロニクル序章です
序章
アメリカ、ニューヨーク。
たくさんの人々がぎゅうぎゅうになって声援を送る、レディ・ガガのコンサートを、少年は楽しんでいた。
少年は肩まで伸ばした金髪、緑色の瞳で、見た目はまだ幼く、よれよれのシャツとパンツを穿いていて、一見どこにでもいる少年にしか見えない。
少年は、一通りコンサートを聞き終わり、コンサート会場を出ると、ひゅっと、まるで手品のように、手の平から青い石がついた長い樫の杖を出した。
樫の杖は宙に浮き、少年は杖の上に、ソファーにでも飛び乗るかのように乗っかる。
杖はふわりと浮き、マンハッタンの高層ビル街を眼下に見渡すぐらい、空高くまで、浮かび上がった。
その、高層ビル街の天辺の一つに、少年は降り立ち、樫の杖を手に持ちかえて、ニューヨークの街並みを見下ろしていた。
どこからか、丸眼鏡を掛けたフクロウが、パタパタと降りて来て、少年の肩に留まった。フクロウは、ちょっと怒り顔で、マーリンに言った。
「昨日はハワイでパンケーキを食べ、その前はインカ遺跡を見物。今日はレディ・ガガのコンサートか。……一週間前は、二十五世紀に行って、月基地や火星居住区や、宇宙ステーションを見学」
「別に、いいじゃないですか。ピュタゴラス。あ、友達からメールだ」
スマホを見て口を尖らせる少年に、ピュタゴラスと呼ばれたフクロウは溜息を吐いた。
「いい加減、お前が帰るべき場所に、帰ったらどうじゃ?」
「……そうですねぇ。色々と楽しみましたし」
少年は「どうしようかなぁ」と、高層ビルの縁に腰掛けて足をプラプラさせ、マンハッタンや、自由の女神像を見ながら呟いた。スマホ画面には『メルディン・スケジュール』と書かれている。
「スケジュールでは、数日後にロンドンで、歌番組があるんですけれどね。……でも、ちょっと一旦、数世紀前辺りのブリテンに寄って、歌っておきましょうかね。彼のことを、人々が覚えていてくれるように」
「そうしておけ、あー……」
「今は、メルディンという名前で音楽活動中ですよ」
少年はそう言うと、杖を目の前に掲げた。 杖はふわりと浮かび上がり、少年は再び、杖に腰掛け、マンハッタンの高層ビル街の上空へと飛んだ。