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『秘密の恋人』が終わるとき(7)

「学生最後の日を寂しく思う気持ちはわかります。特にアデリシアは、これから本格的にこちらに通うことになるでしょうし」

「皇太后様……。――あの、決して不満というわけではないのですが。どうして私だったのでしょうか?」


 こちらを気遣うように微笑まれた皇太后様に、私は思い切って本音をぶつけてみた。

 かなり昔のことでうろ覚えではあるが、確かスレイン王子の婚約者候補は私の他にも数名いたように思う。何度か城に呼ばれ、皆で遊んだ覚えがある。だけどある日を境に、王子に会うのは私一人になっていた。

 私の問いに皇太后様は、「理由は色々あるけれど」とすっとカップをソーサーに戻した。


「スレインの婚約者にと打診した際の話です。アデリシアは使者に、人の顔と名前が一致しないし、感情のコントロールは下手。母国語でさえまだまだだから、他国語を覚える余裕がない。さらにお辞儀もよくふらつくと言って辞退を(ほの)めかしていたの」

「どう聞いても、王妃候補として適していないと思うのですが……」

「いいえ。私はあなたしかいないと思いました。あなたの『できない』はすべて、『今はできない』の種類だったから」

「え?」

「あなたが理由として挙げた事柄は、すべて王族に必要なこと。つまりあなたは五歳にして、誰より『何が必要か』を知っていたの。それを理解しているのと理解していないのでは、雲泥の差があるわ。特に教える側にとって、生徒が何のための勉強かを理解しているというのは重要よ」

「あ……」


 皇太后様の言葉で気付いた。確かに何がわからないのかすらわからない人より、わからないことがわかっている人に教える方が格段に楽に決まっている。そして私自身も、選ばれたからにはやっておかないと自分が苦労するだけだと思い、真剣に取り組んでいた。自分でいうのも何だが、私は理想的な生徒だっただろう。


「ふふっ、私、あなたが宮に来てくれるのをとても楽しみにしているのよ」


 皇太后様が(あで)やかに微笑まれて。私は、彼女が「城」ではなく「宮」と表現した理由を察した。

 これはやはり私の新しい婚約発表は、待ったなしと見ていいだろう。もうどうにもならないところまで、来てしまっている感じがする。


(『悪役令嬢』が始まるのを避けたら、別の『悪役令嬢』が始まっていたとか……)


 罠だ。

 シグラン公爵令息&真ヒロインVS私とか。それだとそのままヒロインとくっついてもらいたいから、スレイン王子のときより困るパターンだ。なおさら私の平穏な未来が遠ざかる。

 一難去ってまた一難……。


(でも、それでもレンさんと恋人として過ごした一ヶ月には替えられない)


 この先何が起こったとしても、後悔はないと胸を張って言える。

 ――まあ、できれば穏便に、「再び婚約破棄。からの、辺境に追いやられてスローライフ始めました」くらいで勘弁して欲しいところではあるが。


「私を歓迎して下さるのですね。とても光栄で嬉しく思いますわ、皇太后様」


 (こう)(さく)する心の内を隠し、私は皇太后様に()(ぜん)として答えてみせた。


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