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『秘密の恋人』が終わるとき(2)

 手始めにどら焼きっぽいお菓子を二種類買って、どちらもレンさんと半分こにした。

 お互いに「はい」って、割った半分をあげる……こんな遣り取り、憧れてました!

 レンさんが折角だと言っていた、食べて歩くというのも勿論やる。ついでに呆れられないぎりぎりまで、食い倒れる気満々である。


「僕は黒餡より白餡の方が好みかな」


 私より先に平らげたレンさんが言って、「どちらも美味しかったけど」と付け加える。

 ふむふむ。どら焼きもどきの好みは白餡と。私は頭の中にあるレンさんデータベースを更新した。


「私は挟まれた中身より、挟んでいる生地が好きです」

「それは盲点だった。どちらも美味しいと感じた僕も、実はそうなのかもしれない」


 レンさんが真面目にしまったというような顔をするものだから、思わず笑いそうになってしまった。頬張っている今笑うと、マナー違反以前の惨状になるところだった。危ない。


「おっと、シア。こっちへ」

「ありがとうございます」


 急な人とのすれ違いにも、すっと自然にレンさんが引き寄せてくれる。

 行き交う人々の進行方向が一定ではないごった返している様相もまた、私の知るアウトレットモールと同じだ。そんな中をすいすいと私を連れて移動するのだから、また一つレンさんの魅力を見つけてしまった。私はさらに、レンさんデータベースを更新した。

 どら焼きもどきの他にも色々つまみつつ、生活雑貨や既製服の店先に飾られたショーケースを眺めて歩く。

 しばらくそうやってウィンドウショッピングをして。それから私たちは、小休憩ということでたくさん設置されているベンチの一つに腰掛けた。

 レンさんが私とは反対隣に、代わりに持ってくれていた荷物――お菓子が入った紙袋を置く。

 気に入って買って後でまた食べようと思っていたものが、まさかこんなにまで膨れ上がっているとは。これを全部食べるというのは絶対に駄目。家に帰ったら魔が差す前に皆に配ろう。


「ここまでの人出はちょっと想定外だったな。馬車が通れないよう敢えて道幅を狭くしたんだけど、もう少し広くてもよかったかもしれない」

「馬車が通れないようにというのはやっぱり、遠回しな貴族の入店お断り的な?」

「そう。まあ、歩いてまで来たかったという貴族は寧ろ歓迎だよ。金払いがいいことが多いから」


 ちらほら見かける大荷物を荷車で運んでいる人のうち、何人かは貴族の使用人なのかもしれない。宅配サービスはあるようだけれど、たくさん買い物をしたという目に見えての満足感を得るのが目的な貴族も中にはいるから。


「そんな感じで、実験区画なこの商店街は大成功。ということで僕としては、功労者であるシアに何か贈りたいのだけど?」

「今まさにご当地グルメを端から順番に(おご)ってもらっていると思います」


 冗談とも本気とも取れるレンさんの申し出に、笑って返す。

 と、そこへ女性が一人、私の視界を横切った。


「あ」

「どうかした?」


 思わず上げてしまった私の声は、幸い女性には気付かれなかったようだ。私は彼女がある程度離れるのを待って、レンさんに向き直った。


「いえ。今の女性が持ってたポット、レンさんの執務室にあったものと同じだったので」

「ああ、お湯を沸かせるポットね。発売日に買ったよ。セイが僕の執務室まで売り込みに来たから」

「父がですか? というより、プレゼントじゃなくて売り込みなんですね?」

「そりゃあ、シアが企画した商品をセイがただでくれるわけないって」

「……」


 軽口を言ったレンさん。どうしてかそれが、私には突然重くのし掛かってきたように感じた。

 ――いや、本当は突然じゃないことを知っている。ずっと積み重なっていたものが、ただ限界を迎えただけということを。


(私が企画したもの、実験区画の功労者……)


 小さな頃は、そんなふうに褒められたときには素直に喜べた。だって、前世で読んだ物語もそんなストーリーだったから。

 前世の知識を使って、誰かを助けて、感謝される。それはとても甘美な体験で。でもいつからだろう、それに違和感を覚えるようになったのは。

 罪悪感に、取って代わられてしまったのは。


「――レンさん。私のアイディアは、どれも本当は私のものじゃない。借りものの知識なんです」


 私は、助けたいと願うほど大切な人を……ずっと(だま)してきたのだ。


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