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『秘密の恋人』が終わるとき(1)

 いよいよ明後日に迫った学園の卒業パーティー。

 一生に一度の晴れの舞台ということで、多くの令息令嬢が今頃準備に追われているはずだ。

 しかし、私にはそれ以上に一生に一度の大切な用事があった。


(レンさんとお出かけデート……!)


 隣に立つレンさんを、そっと見上げてキュンとする。

 私たちは現在、商店街の入口にある巨大な案内図の前に並んで立っていた。腕に掴まるエスコートではなく手を繋いでいるという状態に、さきほどからときめきが止まらない。

 今日は建築ギルドを出たときから、ずっとこうして歩いてきた。

 ギルドがある二番通りから橋を渡ってすぐにある、旧三番通り一帯を開発した大規模商店街。それが今日の私たちのデートスポットだった。


「案内図を見る限り、空き店舗はないみたいだ。シアの企画を元にしたこの実験区画は、大成功のようだね」

「本当にショッピングモールを作ると聞いたときは、気が気じゃありませんでしたよ」


 満足げにしていたレンさんに、私は当時の衝撃を思い出して空笑いした。

 私がかつてレンさんに見せたのは、平屋が並ぶアウトレットモールをイメージしたもの。ここから商店街の外観を見る限り、ちゃんとそれに近いものになっている。多くの人で賑わうまるで観光地のような光景も、私が思い描いていた通りだった。

 レンさんが案内図から目を離し、私の方を見てくる。その気配に、私も今度はしっかりと彼を見上げた。


「店舗をすべて同じ型の建売にするというのは、斬新なアイディアだったよね。割安で提供できるから、店側は店を始めやすい。客側も客層の性質のせいかな、似たり寄ったりな店が並んでいる方が却って気軽に立ち寄れるみたいだ」


 このモールのターゲットは平民。旧三番通り沿いに元々あった商店がそうだった。

 目新しさを競う貴族が主な客層の一番及び二番通りに対し、ここでは人気商品だけを大量販売という形態がメインらしい。


「シアからアイディアを聞いたとき、丁度というと不謹慎だけどこの旧三番通りの再開発の話が上がっていたんだよね。ここは昔、大きな水害に遭って。半ばゴーストタウンと化していたから」

「言われてみれば、小さな頃は三番通りに近付いては駄目だと言われていたかもしれません」

「だろうね。その災害があったのは、シアが生まれる前の年だから。君が小さい頃は治安が悪かったはずだよ。――ああ、ほらギルドからこっちへ来るとき通って来た橋、あれも新しく架けられたものだね。前のは流されてしまったから」

「えっ、そんなに酷かったんですか?」


 二番通りと旧三番通りの間にある川からこちら側は土地が低くなっていて、広範囲に渡って水が着いたという話は知っていた。けれど、橋が落ちるほどだったとは。


「相当、酷かったよ。そことノイン領へ繋がる橋が同日に落ちてしまって。ノイン側を見に行っている間に手前の橋が落ちたものだから、僕は三番通りに閉じ込められてしまったんだ」

「えっ」

「二番通りに繋がる方は半月ほどで仮の橋が架かったんだけど、ノイン側はなかなか架からなくて。当時そこは最大の物資輸送ルートだったから、大事も大事。もういっそ二つともまともな橋が架かるまで、このまま現場で仕事をしようと決めて。結局、次に家に帰ったのは半年後だったんだよね」

「えええっ!?」


 想像を絶するレンさんの社畜ぶり……!

 果たしてこのショッピングモールに(たずさ)わったときは、毎日ちゃんと帰宅できていたのだろうか。橋と違って一大事ではないから、帰れていたと信じたい。


「さて、どこへ行くかだけど。折角マナーに(うるさ)くない場所に来たんだし、食べ歩きでもしてみるかい?」

「いいですね」


 私はレンさんの提案に直ぐさま乗った。

 実はさきほどから、案内図を見に来た他の人たちが(かぐわ)しい匂いを漂わせていて、気になっていた。


「それじゃあ、行こうか」


 レンさんが言って、食べ物屋が並ぶ路に向けて歩き出す。

 繋いだ手は、勿論そのまま。私は今にも踊り出したい気持ちで、ショッピングデートへと繰り出した。


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