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ファースト侍  作者: 真山砂糖
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第7話 パイレーツ・オブ・トレビアン

はい、コニタンたちから少しそれて、変な海賊団の紹介です。

 虹の都王国から数キロ離れた沖合に船が浮かぶ。全長30メートル、メインマストの高さは20メートル、最大で50人くらいが乗船できそうな船だ。船の名前は、 “炊いた肉”。ドクロのマークの旗があちらこちらに掲げられている。どう見ても海賊船だ。乗組員のほとんどが、がさつな男どもだ。しかし、全員がお洒落な感じの服装でいる。華やかな刺繍入りのぶかぶかの上着、スリムなズボン、蝶ネクタイ、鳥の羽付きの帽子、腕輪、等々。この船の船首で、一人だけ場違いな上品な物腰の初老の男が樽の上に座ってワインを飲んでいる。

「うーん、トレビア~ン」

 この初老の男、ワイングラスを持つ左手の全ての指に金色の指輪をして、右手で腰に帯びた剣の柄を握っている。剣の柄も鞘もまた金色だ。金色を基調とした物で身を固めている。そして、口髭の両端が上に向かって丸まり、顎鬚も上に反り上がっている。この男に向かって、船員が叫ぶ。

「お頭ー! 陸が見えやしたぜー!」

 ワイングラスのワインをぐっと飲み干して、お頭と呼ばれた男は立ち上がって船員に向かって言う。

「ここからも見えとるわい」

 お頭は船の中央部へと歩いていき、船室に入る。

「ブルースよ、準備は整ってるな?」

 お頭は部屋の中で顕微鏡を覗いている男に声をかけた。

「大丈夫ですよ、お頭」

 この顕微鏡を覗くブルースと言う男、タンクトップを着た筋肉質な胡散臭い中年男である。

「よろしい。おい、二人を呼べ」

 お頭は船員に命令した。しばらくして、二人の男が部屋に入ってきた。

「ロペスエール、ポンジョルノよ、いよいよだ。今夜決行するぞ」

 お頭は二人に伝えた。その二人の内、一人はロペスエールという中年の男で、長身でロン毛、胸板の厚いがっしりとした体格で、口髭をたんまりと蓄えた男くさい男で、両方の腰に大きな剣を携えている。もう一人はポンジョルノという男で、あまり背は高くはないが、お頭よりは高く、長い剣を左に携えて、清潔感溢れる爽やかさで、結構イケメンな青年である。

「あいよ、お頭。ただ、ブルースの薬だったか? うまくつくられてたら、だけどな」ロペスエール。

「俺がつくったんだ、ちゃんとできてるよ。それよりもお前ら傭兵部隊がしっかりと仕事してくれなきゃ、無駄になっちまう」ブルース。

「へっ、誰に向かって言ってんだよ。任せとけよ」ロペスエール。

「始めの頃は、潜伏期間が二週間だ。拡散していくに連れて、発症までの時間が短くなっていく」ブルース。

 お頭は、何か気がかりな感じでブルースたちを見ている。自分の科学実験に一所懸命なブルースと闘志がみなぎるロペスエールとは対照的に、ポンジョルノはテンションが低く沈んだ表情でいる。

「しけた面してんじゃねえよ、ポンジョルノ。お前が拾われた国か、懐かしいな」ロペスエール。

「俺は乗り気じゃない」ポンジョルノ。

「お頭の命令だ。やるんだよ」ロペスエール。

「……」ポンジョルノ。

「今回ばかりは、人を傷つけずに終わるなんて甘っちょろい考えは捨てろ、いいな」ロペスエール。

「……できない」ポンジョルノ。

「剣は人を傷つけるために使うんじゃなくて、人を守るために使うとかいうわけのわからん屁理屈は捨てろ」ポンジョルノ。

「屁理屈なんかじゃない」ポンジョルノ。

「お頭の命令だぞ。お頭が、どこの馬の骨ともわからんクソガキだった俺らを拾って育ててくれたんだ。その恩に報いろ。このパイレーツ・オブ・トレビアンのためにちゃんと仕事しろ!」ロペスエール。

 お頭はじっと二人のやり取りを見ている。

「人を傷つけることはできない」ポンジョルノ。

「毎回毎回、海賊船しか襲わねえクソ野郎が! 商船だろうが漁船だろうが、襲って金と食い物奪うんだよ! 生きてくためにはな、綺麗事ばっか言ってられねえんだよ!」ロペスエール。

「……お頭、俺にはできません」ポンジョルノ。

 ロペスエールはお頭の方を見てから、ポンジョルノに怒りの表情を向ける。そして何かを言おうとした時、船員が部屋に入ってきて、お頭に言う。

「お頭、全員、甲板に集まりやしたぜ」

「よろしい」

 そう言って、お頭は部屋から甲板へ出た。他の者も後に続く。

 お頭は100人ほどの船員を前にして、演説を始める。

「まもなく、この “炊いた肉” 号は、虹の都王国に到着する。そして、今夜、計画を実行する。キャンディー帝国が我がフレグランス王国に民主主義をもたらしてから35年経った。国を追われ海賊に身を(やつ)して長い間生きてきたが、フレグランス王国の正統な後継者であるこの私が、虹の都王国を足掛かりにあのミャー大陸全土を征服し、フレグランス共和国とキャンディー帝国と対等に戦える国をつくる時がついに来たのだ。皆の者、このアルチュールに力を貸してくれー! ゆくゆくはフレグランス王国を取り戻し、キャンディー帝国を滅ぼすぞ!」

「オーーーーーーー!」

 船員たちが興奮して叫んだ。皆、このパイレーツ・オブ・トレビアンのお頭、アルチュールに心酔しているようだ、ただ一人ポンジョルノを除いて。


 パイレーツ・オブ・トレビアンのお頭アルチュールは、元フレグランス王国の王族で、キャンディー帝国がフレグランス王国に民主主義を広めた結果、フレグランス王国が崩壊して、アルチュールは国を追われたっていうことね。で、現在は王国ではなくて、フレグランス共和国になっているということ。この海賊団、100人いるようだが、この船、50人乗りじゃなかったか?

パイレーツ・オブ・トレビアン。

炊いた肉号。


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