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メゾン格ゲー  作者: みおま ウス
第三章 勇者死すべし! 編
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第三話 丸投げ

「食花に栗歩……クラス四の魔物が二体だと……!」


 胴回り四メートルの茎の上に戴いているのは、直径二メートルの巨大な花。

 裂けた口からは歪な牙や妙な空気を吐き出す何本もの管が出ている。

 クラス四の魔物、食花である。


 一方、短いながらも八本もの足を使い、這うように近づいて来る魔物は栗歩。

 焦茶色の殻に覆われた栗形の魔物。

 全高四.五メートルの威容を誇り、巨大な口に収納された棘付きの舌を武器とする、こちらもクラス四の魔物だ。


「下手に逃げられん! ここで戦うぞ! 計測班、敵の戦闘力を計測せよ!」

「はっ! …………食花、九百六十…………栗歩、せ、千であります!」


 兵士たちに動揺が走った。

 隊長(ゲルギオ)の倍の戦闘力を誇る千という数値。

 しかも隊長以下は強い兵でも二百が良いところ、多くは百台の戦闘力の者ばかりである。


「静まれ!!」


 しかしゲルギオは泰然として号令をかけた。

 彼は背を伸ばした兵の脇を抜け、カッツォたちに足早に寄った。


「私は部下を率い食花を相手にします。勇者様方は栗歩の足止めを願います」

「ぼ、僕たちだけで、ですか?」


 青褪めるカッツォの顔に、ゲルギオは申し訳無さそうに伏し目になりつつも強く頷いた。


「それが唯一、この場を切り抜けられる方法と考えます。逃げもできず、下手な戦力の分散も危険。全滅か勝利しかない状況で、残されたのは勇者様方に強敵を止めていただき、我々が全力を以て弱い方を速やかに葬る。その後は勇者様方と協力し栗歩を倒す。これしかないかと……では御免! 総員戦闘態勢! 展開!」


 カッツォたちが返事をする間もなく、敵は攻撃の気配を濃くした。

 ゲルギオは三人に一礼すると、食花に対し兵を配した。



「僕たちだけで、このデカイのを……?」

「ボーッとすんなカッツォ!」

「そうよ! やらなきゃ死ぬわよ! それに……私たちだけで、倒してしまってもいいんでしょ?」

「バカローラ! それフラ……いや、それぐらいの意気込みでやらねえとマジやべえかも」


 そう。

 これは調子に乗ってボコられる前振りの“倒してもいいのだろう”発言ではない。

 追い詰められた戦士が一段階上の強さを得るイベントにおける、覚醒用のセリフなのだ。

 …………おそらくは。




「ファイアボール!」


 ローラの撃った火弾が栗歩に向かう。

 かくて戦端は開かれた。


 ポスッ


「効いてねえぞ!?」

「見れば分かるわよ! 注意を引いただけ!」


(え? 注意も引けてなくない?)


 カッツォは思った。

 栗歩は変わらず漫然とこちらに向かっているような?


「威力を上げるわよ! 別角度から合わせて!」


 ローラは杖を振り上げる。


「アイスアロー!」


 火が効かなかったから氷で攻めてみる。

 そんな安直な思考が垣間見えるようだ。

 しかし栗歩の目玉は一瞬氷の矢を向いた。

 サジとカッツォは無言で視線を交わすと、栗歩の視線と反対方向へと回った。


 氷の矢は栗歩の殻に阻まれノーダメージに見える。

 だがその殻には僅かな刺突痕が刻まれていた。


「ラストショット!」


 魔法を弾いた敵の硬い殻を見た二人は、その防御力を貫くべく技を放つ。


 グジュリ


 サジの腐食の矢が殻に当たり、滲むように溶けた。


「烈風牙!」


 風で加速され鋭さを増したカッツォの突きが腐食部分に突き立った。


「手応えあり!」

「いけるぞ!」


 二人は栗歩の損傷を見て取り歓喜した。


「そこ、バカ二人! 油断しない!!」


ローラの叱咤にハッと気を取り直したカッツォは、剣を引き抜き栗歩を蹴った。

 素早くその場を離れるために。


 だが栗歩の大口から舌が伸びカッツォに迫っている。


「っ!」


 無駄だと分かるが剣を盾にせずにはいられない。

 カッツォを死の恐怖が襲う。


 ゴッ


 ローラの撃った岩石魔法が栗歩の舌を横殴りにした。

 僅かに軌道のずれた栗歩の舌はカッツォの前髪を掠めるに留まった。


(あ、危な……)


 クラス一の魔物であるワームに棘が生えたような凶悪なフォルムの舌だ。

 直撃を受けたら三発ももたないだろう。

 サジやローラだったら即死かもしれない。


「僕が前に出る! 二人は絶対コイツに近づいちゃダメだ!」


 カッツォは意外と勇敢だ。

 二発食らえば死ぬ危険があっても、魔物の前に立てるのが自分しかないと判断すればそのように実行できる勇気がある。


「命大事に! よ!」

「了解!!」


 とにかくゲルギオたちが食花を倒すまで持ち堪えられれば良いのだ。

 注意を引くだけの攻撃をして隙を作らない。

 “倒してしまう”などと格好つけのためだけに冒険はできない、と三人は方針転換をした。




「アイスアロー! ファイアボール! マッドショット! エアーショット!」

「ラストショット! ボルクアロー! ブラインダー!」


 ローラとサジは兵士たちから遠ざかりつつ栗歩との距離を保つように移動しながら攻撃をしている。

 何が有効な属性か探るために、スキルをあれこれ変えながらだ。


 カッツォは二人に栗歩のヘイトが向かないように、舌の射程圏内に入ったまま剣を振り挑発に徹している。



 安全策が祟ってと言うべきか功を奏してと言うべきか、栗歩に微細な傷しかつけられていないが、またカッツォたちもダメージを受けずにやり過ごせている。

 三人には栗歩を観察する余裕まで出てきた。


「こいつ、割と戦いやすくね!?」

「確かに。殻は硬いし舌のスイングはゾッとするけど、遠距離攻撃してこないし、機動力もそこまで無いものね」


 栗歩の戦闘力はアタックとタフネスに偏っているのではないか。

 一撃にさえ気をつければいい。


 そう思うと必要以上の緊張も解け、より大胆かつ正確に動けるようになってきた。

 ローラの魔法とサジの矢が飛び、カッツォでさえ舌攻撃の間隙を縫い剣で斬りつける。


 栗歩の殻は剥がれ、繊維状の中身から黒々とした魔力が蒸発し始めた。



 既に戦闘開始から三十分以上経過している。

 未だにゲルギオたちは食花相手に苦戦しカッツォたちの助太刀に来られないが、三人は良い具合に集中し援軍の未参戦を気にしていない。


 高度な集中状態は更に良い流れを引き寄せる。


「マッドショット!」

「ボルクアロー!」


 ローラの土塊弾とサジの毒矢が偶然同時に同じ場所に着弾した。


「あれ、何か変?」


 今までの攻撃効果と異なり、土塊は泥となり毒は泥に混ざっていく。

 栗歩の腐食範囲はこれまでの三人による攻撃の中で最も広く、与えたダメージも大きそうだ。


「もしかして、合体技?」


 もしや連携で技が変化するのでは。

 ゲーム脳の三人はすぐ直感で理解した。


「マッドショット! マッドショット!」

「ボルクアロー! ボルクアロー!」


 ローラとサジは合体技を再現しようと技を連発する。


 ほとんどは単発の技の効果しか発揮しなかったが、中には先程同様合体技の効果を発揮したものもあった。


(タイミングはシビアみたいだけど、これは使える!)


 カッツォは栗歩の舌を避けながら、後衛二人の声と合体技の効果はしっかりと把握していた。


「やっぱり! 魔法やスキルは合体できるんだわ!」

「しゃあっ! ガンガン行くぜ!」


 程よく調子に乗って魔法とスキルを連発するサジ、ローラ。



 栗歩からの魔力漏出は増えていき、三人は勝利を明確に意識し始めた。


 ところが



「あ、やば……魔力切れた」

「げっ、俺もだわ!」


 唐突に発生する魔法やスキルの空振り。

 魔力欠乏の証である。

 二人は慌ててポーチに手を入れ魔力回復薬を取ろうとする。



 不意に攻撃の流れが途切れた……だけではない。


 栗歩は振り回していた舌を引っ込め口を膨らませた。


(何かヤバイ!?)


 カッツォは未知の攻撃の予兆に怯んで後退る。


 ガッ!


 栗歩の口が開き、舌が伸ばされた。


(棘が無くなってる!?)


 栗歩の舌からは棘が無くなり幾つも穴が空いている。


(!!!!?)


 突然カッツォの視界が揺れた。

 後ろに吹き飛んだ彼の額は割れ、血が噴き出していた。

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