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メゾン格ゲー  作者: みおま ウス
第三章 勇者死すべし! 編
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第二話 旗は無闇に立てぬこと

 クラス一の魔物と互角に戦えるだけの戦闘力は三十五、クラス二の魔物に対しては八十、クラス三では三百。

 夜間は魔物の強さが上がり、クラス四の魔物も出現するため、余程の猛者でなければ出歩かない。

 カッツォたち三人は、日中の魔物と渡り合える戦闘力――三百超を当面の目標として鍛えることになっている。


 ちなみに王国に戦闘力三百超の戦士は数える程しかいない。

 その者たちから訓練を受けたとて、三百程度で頭打ちになることは必至。

 王国の立場上本当は勇者を大切に育てたいところであるが、厳しい環境でなければ育たないことも目に見えている。

 とりあえず戦闘力が三百を超えていれば、クラス四の魔物一体を相手に、三人がかりで死なない程度の戦いはできる。

 ある程度の実力をつけさせて、後は魔物や魔族を倒しながら強くなってもらおう、と言う思惑が王国にはある。




「くあ〜っ、今日の訓練もきつかったぜ」

「ねえ、お疲れ様のその前に、あれ、行きましょうよ」


 午前中に魔物と戦い、午後には王城で訓練した勇者三人は、疲れたと言う言葉とは裏腹に城下町に繰り出していた。

 カッツォは武器や防具を見たいと思っているのだが、後の二人の目的は違うようだ。


「あれって……酒場じゃないか」

「ただの酒場じゃないわよ。冒険者ギルド直営の酒場だからね」

「ちょ、僕たちまだ未成年だよ? お酒はダメでしょ」

「ばっかカッツォ。ばカッツォ」


 サジの意味のない言い換えにカッツォは白い目を向けた。

 サジはそんな冷たい視線を気にも留めない。


「ここじゃ酒は十五歳から解禁ですから〜。残念!」


 顔芸まで入れての古いギャグ。

 サジは気に入った芸人のギャグをよく使う。

 大概はハイハイ、で済ませられるのだが、テンションが上がった時などそれを繰り返すことがある。

 正直ウザい。


「残念! じゃないでしょ。いいから行くわよ」


 翻意させるタイミングを逃してしまった。

 カッツォはローラに背中を押され、渋々酒場の扉をくぐった。




 むくつけき男たちの下品で乱暴な声が飛び交っている。

 入店してから暫くはそんな雰囲気に気遅れしたものの、ひとまず乾杯をして少しは場に慣れてきた頃。


「今大体二百七十か。もうすぐ目標の三百だな」


 ふとサジが真剣な口調で呟いた。


「……そうね。ここまではすごく順調だったわよね」


 この世界への転移から約五か月、休息日を除くと一日平均二ぐらい戦闘力が増加していた。

 だが


「でも最近、一しか増えてない日が多くなったような気がする」


 カッツォの指摘どおり、二百五十を過ぎた頃から、訓練の翌日に戦闘力が一しか上がっていないことが増えてきた。

 もちろん一般人と比べると破格の成長速度らしい。

 が、このまま伸び悩む時期が来るかもしれないと、そんな不安を抱えていた。


「もうそろそろ半年だよ……私たちこのまま元の世界に帰れないのかな」

「バッカ! おま、こういうのはアレだろ! ハピエンに決まってるし!」


 成長に関すること以外の不安もある。

 五か月の間に僅かながらカッツォの背が伸びた。

 つまり彼らの時は止まっていない。

 ――止まった時の中でゲームをしているとすれば、楽しいだけで済んだのに。

 そんな希望を持っていた三人は互いに悩みを相談できぬまま、表面上は日々楽しんでいるよう装って過ごしていた。


 ローラが吐いた弱音にサジも上手い返しができずに俯いた。


 ここで初めて分かったことだが、三人の酒癖は“飲む程に落ち込む”ものらしい。

 少なくなる口数。

 時折挟まれる愚痴と不安、不満。

 ちょっと背伸びして体験するつもりだった初の飲酒は苦い経験となり、今後しばらく三人での飲酒は行われそうになかった。








 実りの少なかった初飲酒から一月。

 三人の戦闘力は三百を突破した。


 現時点三人の中でカッツォが最も戦闘力が高く三百十七であるが、まだ一日訓練して一は上昇しているため、彼らは胸を撫で下ろしている。

 一流戦士の目安である三百を超えたら成長が鈍化するのではないか。

 そう心配していたが、壁には当たらなかった。

 まだこのペースで強くなれそうだ。



「でもこれじゃ王国最強になるんでもあと二年はかかるし、世界最強までには五年近くよ」


 ローラは溜め息を吐きたくなった。

 一応の達成感は覚えるが、先は見えない。

 きっと魔族がいるからには魔王もいるだろう。

 魔王を倒せば元の世界への道も開かれるかもしれない。

 魔王を倒すにはとりあえず人類最強は超えねばなるまい。

 ……けれどもその頃には二十歳も過ぎて、通っているのであれば大学だって卒業が見えてくる年齢じゃないか。


(高校中退、異界の勇者……絶対頭おかしい奴って思われるでしょ)


 履歴書に何て書こうか。

 ローラはあのダウナー系飲み会以後、元の世界に戻れるかどうかは極力話題にしないようにしている。

 だが頭のどこかでは元の世界のことがいつも引っかかっていた。



「心配すんなって。こういうのは大体よお、強い敵と戦えば戦闘力が爆上げするって決まってんだし」

「サジあんた、それゲーム脳ってのよ」



「……」


 サジと似たようなことを思っていたカッツォは黙って明後日の方を向いた。


「けど確かに、それが常道ってもんよね」


 サジを批判したかのようなローラだが、結局彼女もゲーム脳だった。


「よしっ、明日からは遠征よ。サクサク強くなって、魔王倒すんだから」


(え? 魔王なんているんだっけ?)


 魔族を倒すとは聞いていたが、魔王の存在など聞いていない。

 カッツォは首を傾げた。


(いや、魔族の長が魔王なのかな?)


 それでもあまり深く考えることはなく、何となくローラに同意するのだった。








 さて、これから三人は王国兵による近隣町村の巡回に同行する。

 戦闘力の向上を図ると同時に、旅の要領を身につけるためである。


「クラス三の魔物はお任せしますぞ、勇者様」

「オッケー。フォローが必要なら頼むわ」


 自信に満ちたサジの様子を見て兵士の顔も緩む。


 一つの町村に滞在するのは三、四日程度。

 十分魔物を間引いたら次の町村に移動する。

 その間に基本的な歩き方、哨戒、天候への対処、食料の確保等々を学ぶことが三人に求められている。



「魔物討伐ありがとうございます!」

「こちらが噂の勇者様ですな! お目にかかれて光栄です!」

「かっこいい!」

「サインして!」



 行く先々で住民に感謝され、勇者として持て囃されると、三人としては悪い気などしない。

 戦闘力こそ通常の訓練と同じくらい上がっただけだ。

 それでも旅の経験と旅先の住民との触れ合いにより、三人は精神的な成長を実感し、満足感を得た。








「ここで遠征も最後か。早かったなぁ」


 日の出より少し前。

 兵士全員起床して王都に帰る準備をしている途中、カッツォは欠伸交じりに呟いた。


「そこそこいい感じの成果だったんじゃない?」

「そうだな。後は、もうちょい強めの刺激があっても良かったよな」


 カッツォの隣にいつの間にかローラとサジが並んでいた。


「刺激って……」

「そりゃ例えば、クラス四の魔物と出会うとかじゃね」

「バカ! あんた何変なフラグ立てようとしてんのよ!」

「いや、一体ぐらいだったら何とか……」

「あー!! カッツォ、このバカの口塞ぎなさい! これ以上フラグ立てられたら敵わないわ!」


 朝から賑やかな勇者たち。

 兵士は出発準備をしながら温かい目を三人に向けていた。








「川が増水しております! 渡るのは危険かと!」


 斥候隊が帰路の状況を報告する。


「大丈夫だ。まだ別経路がある」


 隊長のゲルギオは落ち着いて予備の道を選択するが……



「橋が落ちています!」


「道が岩で塞がれております!」



 まさかの全経路通行不能。


「今からでは町にも戻れん。仕方ない、夜営準備だ」


 ゲルギオが下した苦渋の決断。

 兵士たちに緊張が走る。


「は、はは……し、刺激があっていいんじゃね?」


「バカ! あんたが余計なフラグ立てるからよ!」

「大丈夫だって。こんな一回の夜営でピンポイントにクラス四の魔物なんて……」

「あぁ、また!」



 ブシュシュシュシュ



「な、何この音?」

「蒸気みたいな、鼻息、みたい……な……」


 全員の背筋に寒気が走った。


「下だ!」


 ゲルギオの大声に反応して兵士たちが飛び退った直後、地面が爆発した。


 土塊と共に飛び出したのは巨大な根。



「あ、あそこには!!」


 別の兵士が息を飲んだ。

 彼が指差す方からは、民家ほどもある大きさの何かが近づいて来る。



(絶対アイツのせいじゃん……)


 ローラは密かに同級生を呪った。

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