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メゾン格ゲー  作者: みおま ウス
第三章 勇者死すべし! 編
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第一話 異世界転移した者たち

 ザッ、と草を踏み倒す音がして刹那、一筋の線が閃いた。

 鋭い爪を持った蛙の魔物が胴を裂かれ、魔石を残し跡形も無く消え去った。

 顔にまだ幼さの残る少年が、剣を振り抜いたままの姿勢で荒い呼吸をしている。

 残心のつもりだろうか。


「ファイアボール!」


 黒いトンガリ帽子を被った少女が杖を振り抜くと、少女の拳大の火球が飛び、二つ首の鳥を直撃した。

 吊り目がちで気の強そうな少女は、勝ちを確信して口角を上げた。


「グェグェ!」


 一つの頭を焦がした鳥は、しかし尚も残る一つ首を振り上げ少女に突進する。


「ひっ……」


 手負いでも怯んだ様子の無い魔物に、優勢であるはずの少女は恐怖で引き攣った声を発した。


「しっ!」


 鋭い呼吸音と共に放たれた矢が鳥の魔物の頭を貫く。

 あと僅か少女に届かなかった魔物は、やはり魔石のみを残し消滅した。


 矢を放った少年は怯え顔の少女を見てニヤリと笑った。

 後頭部で髪を一つに束ねた軽薄そうな笑みをする少年に、少女は不快げに杖を向けた。


「ちょっと宇佐治! もっと早く倒しなさいよ! 危なかったじゃないの!」

「ウサジじゃねえし! ここじゃ俺はサジだっつってんだろ! サジタリウスのサジだからな輪子!」

「私もリンコじゃなくてローラね!」


「ちょっと二人とも喧嘩しないでよ……」


 蛙の魔物を倒した少年は、先程の凛々しさが嘘のように弱々しく、射手の少年と魔法使いの少女の間に立った。


「カッツォも何とか言ってよ!」

「ちゃんと無傷で倒したんだから問題無いよな!? カッツォ」

「僕は勝雄でいいんだけど……」


 宇佐治なんて苗字みたいだ。

 輪子なんて今時古臭い。

 そう思って自分の名を嫌う二人と違い、勝雄……いや、カッツォは親が悩んでつけてくれた名前を大事にしたいと思っている。

 ただその主張を幼馴染の二人の前でできる程、彼の気は強くない。

 この場をどう取り繕うか、そう悩んでカッツォは辺りをキョロキョロ見回した。



「お見事! さすが異界の勇者様。驚くべき成長速度ですな」


 拍手をしながら兵装の男が少年に近づく。

 カッツォはあからさまにホッとした表情を浮かべた。


「ああ良かった。ゲルギオさん、やっぱり近くにいたんですね」


 ゲルギオと呼ばれた男が口の端を上げて挙手すると、彼らを取り巻くように配置された何人もの兵士が姿を現した。

 兜の羽飾りが示すように、ゲルギオは兵士の中でもそれらを指揮する立場の人間だった。


「もちろんです。勇者様方とは言え初のクラス(2)の魔物相手ですから。何かあっては我が国の……いえ、人類の大いなる損失ですよ」


 言葉は慇懃ながらも弟子を見守る師といった雰囲気である。

 勇者と呼ばれた三人には、それを不快と思う様子もない。

 むしろ嬉しそうな感情さえ露わにし、まさに師に褒められた弟子さながらであった。


 が、一転カッツォの顔が曇った。


「でも、これからはもっと強い魔物や、魔族なんかとも戦わないといけないんですよね……?」


 彼は不安げにゲルギオを見上げる。


「ははは、心配なされるな。勇者様方の成長速度は尋常ならざるもの。現にこの地へ参られたばかりの頃は、フロッゲスに追い回され死にかけておられたが、今や一刀にて葬り去る腕前ではありませぬか」


 言われてカッツォは恥じらいに顔を染めた。



 幼稚園から高校まで一緒という縁で繋がれ、それなりに仲の良いカッツォ、サジ、ローラの三人は学校からの帰り道、突然黒い光に包まれてこの世界に転移した。

 三か月程前のことである。


 投げ出された草原で訳も分からず立ち尽くしていたところを、長く鋭い爪を持った蛙に襲われ必死に逃げた。

 訓練中だったゲルギオたちに偶然出会わなければ三人は死んでいただろう。

 現にカッツォの脇腹にはその時付けられた爪痕が今も痛々しく残っている。



「おいカッツォ! おま、恥ずかしいこと思い出してんじゃねえよ! 忘れてくれあんな黒歴史!」

「そうよそうよ! あの時なんて戦闘力たったの五しか無かったんだし! しょうがないじゃないのよ!」


 そのとおり。

 それなりの運動神経を有するものの、特に武道の心得があるのでもなければ部活で日々鍛えているわけでもない三人の戦闘力は、この世界ではゴミ同然だった。


「いやはや、確かに戦闘力五は驚きました」


 七歳の子ども並み、と言えば彼らの非力さが分かるだろう。

 ところが現在の三人の戦闘力は九十オーバー。

 一年間の訓練を終えた兵士並みの戦闘力にまで達している。


「『違う世界から迷いこんだ』と伺った時は戸惑ってしまいましたが」


 これはかなりオブラートに包んだ言い方だ。


 ゲルギオたちはカッツォたち三人を助けた当初、「異世界から来た」と言う三人を気狂いと思った。


「今では神が異界より遣わしてくださった、我が国……いや、世界を救う勇者様だということに何の疑問もありませぬ」


 それが、三人と会話を交わしその知性を垣間見たことで首を傾げ、ステータス無しと聞いたことで違和感を強くした。

 そして試しに教会で鑑定を受けさせたところ、三人揃って“異界の勇者”という前代未聞のステータスが現れ(同時に戦闘力も分かるようになり)、大変驚いたのだった。


 貧弱だが未知のステータスを持つ不審者である。

 しかし勇者とはいかにも誉れ高そうなステータスではないか。


 三人の処遇に悩んだゲルギオたちは、王国の識者を通じ教会の長である教皇に相談した。


 教皇は神の碑文に祈りを捧げた。

 そうして教皇が受けた宣託は、


“異界の勇者は魔族との戦いを終結に導く。人類は安寧と発展を得るだろう”


 というものだった。


 それからゲルギオたちは急ぎ王城の大臣や王にこのことを報告し、三人は王国で保護されることとなった。




「あ〜、訓練はきつかったけどさ、こうしてレベルアップを実感できると嬉しいよね。やっぱさ」


 異世界召喚であれば、召喚者に元の世界への帰り方を聞くのだが。

 王国のお偉方は、三人のような転移者など見たことも聞いたこともないらしい。

 これはきっと突発事故的な異世界転移だ、と判断した三人は、王国の保護下に素直に入ろうと決めた。


 王城では下にも置かない待遇を受けることができた。

 代わりに戦うことを求められたが。


「魔物ぶっ倒して魔族の侵攻を退けるって、マジでゲームじゃん。やべえよな。マジ燃えるし」


 サジの言である。



 ところで三人は“異界の勇者”と判明した後、教会に安置されている“神の碑文”に触れ、各々“サブジョブ”なるものを得ている。


 カッツォのサブジョブは“剣士”。

 剣の扱いが巧みになり、剣を使ったスキル――魔力を消費すれば自動で発動する戦闘技能――を獲得し易くなるものだ。


 サジのサブジョブは“射手”。

 弓矢に関する戦闘職である。


 ローラは“魔法使い”。

 武器を使ったスキルをあまり覚えない代わりに、魔法をよく覚えることができる。

 


 当初は戦いと聞いて腰の引けていた三人だが、魔法を身につけ、日々上がる戦闘力を見て、魔物を倒しては英雄だと持て囃された。

 サジとローラはゲームの主人公になった気ではしゃいだ。



(本当にそんな都合良くいくのかなぁ)


 若干ネガティブと言うか、慎重な面があるカッツォは、そんな幼馴染二人と同じように調子づくのは危険な気がした。

 ただ彼も、ゲームが現実となったような今の状況で高揚するところはある。


「どうせなら戦闘力じゃなくてさぁ、レベルとか各種パラメーター表示の方が良かったよね〜」


 こんなローラの願望に同意してしまう程度には。


 神の恩恵で魔物を倒せば倒す程強くなれる。

 これが経験値によるレベルアップだったら良いのに、とカッツォは二人の幼馴染と同じことを思った。


(まあ、レベルって言う段階的な区切りで強さが表現されるか、戦闘力って言う連続した数値で表現されるか、どっちもワクワクすることには違いないけど)


 今はまだ三桁に届かぬ数値なれど、この成長速度からすると隊長の五百を超え、王国最強の千を超え、いずれ人類最高の二千に達することすら夢ではない。

 そう識者から太鼓判を押され悪い気はしない。


 元の世界に戻る方法は探さねばならない。

 しかし思春期の少年たちの英雄願望を叶える世界――その魅力は少年たちの心に、しっかりと爪を食い込ませたのだった。

 誤字報告ありがとうございました。

「誤字報告があります」って新着メッセージを見た時は、探し方が分からずちょっと慌てました(^^)

 遅れを取る→後れを取る はどちらも可なようですが、表記のイメージから後者が良いと思い、改めさせていただきました。

 凡ミスはなるべく減らそうと思いますが、また発見されましたらご指摘のほど、よろしくお願いします。

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