第五十八話 迷宮化(その三)
「トンダっち!? 何でこんなとこに居るんすか! あれ、もしかして夢っすかこれ?」
なるほど夢か。
では確かめなれけば。
バシン
「ぎゃいん! 夢じゃないっす。そしてボクを叩く意味が分からないっす!」
「ボク?」
お、トンダもやっぱり気づくよね?
学院デビューなんだよ、この子ったら。
「そこには触れなくていいんす!」
これ以上は話をさせないぞ!
そんな後輩の勢いに負けて学院デビューの話はさせてもらえなかった。
「変わらんな。ところで勉強は順調か?」
「ところでじゃないっすよ。何しれっと日常会話しようとしてんすか。何で学院にいるんすか。びっくりしたっすよ」
「和尚とブランクも来ているぞ。後もう一人な」
「ホントっすか!?」
こらこら、その話私も気になるけど、今は違うでしょ。
ほら、出て出て。
「ちょ、ちょっとミサちゃん……」
ミノンさんが俯いてモジモジソワソワしてるから、そっとその背を押してみた。
おっと、トンダもさっきまでビシッとしてカッコ良かったのに、途端に浮き足立ったようになってしまったぞ。
「あ、あの……ありがとうございました、エドワルド様……」
「あ、いや、その名はもう捨てたゆえ……そ、それよりも無事で本当に良かった」
ウブだ!
純情だ!
こ、これはむず痒い。
「ギシャアアアアアア!!!」
魔物が出たあ!
ナイスタイミング!
「任せろ!」
あ、私が行きたかったのに……
トンダが飛び出して行ってしまった。
まあいいや。
千手観音を思わせる技とやらを見せてもらおうじゃないの。
あれでしょ?
百烈の、張り手。
よし、テンションが上がってきたぞ!
ト・ン・ダ! ト・ン・ダ!
行けトンダー!!
敵はプテラノドンみたいな怪鳥の魔物だ。
これはかなり強いぞ。
「ほおぅ!」
トンダはあの巨体で嘘のように軽やかに宙に舞った。
いつの間にあれほどの身軽さを身につけたのか。
私たちが学院にいる間も、厳しい修行に身を置いていたことが窺い知れる。
ズン!
やはりトンダは一撃が重い。
一蹴りで魔物の飛行能力を奪ってしまった。
そして錐揉みし墜落する魔物を待ち構えるトンダ。
よし、とうとう出るぞ。
「はあああぁぁぁ」
ん?
トンダは円を描くように腕を回し気を高めている。
おい、張り手だよね?
しかし
「むううん!!」
何か出たあ!?
手が巨大化したと見間違うような突きと共に彼の手から撃たれたのは、気の塊としか言いようのない強烈なエネルギー波。
天将……拳王の奥義かよ……
若しくは二千年の眠りから目覚めた、戦闘の天才の必殺流法みたいだ。
太陽が弱点な人の。
魔物は跡形も無く消し飛んだ。
ミノンさんは目がハートになっている。
他の人は呆然と空を見上げている。
明らかなやり過ぎ。
オーバーキルもいいとこだ。
張り手じゃないのかよぉ。
君は日本一これ即ち世界一のスモウファイターでしょうが。
強くなってるのはいいんだけどさ……
バシッ
「む?」
ビシッ
「む?」
私は肘打ちを、後輩は張り手をトンダの尻に一発ずつお見舞いした。
「ミノンさんと仲良くやるっすよ!」
「なっ……キャミィ!」
「和尚とブランク探しに行くわ。ここの人たちをよろしく。特にミノンさんをね」
「ミサまで! …………分かっている。任されたぞ」
うん、トンダが赤く染めた顔を引き締めたな。
「タクララちゃん、行こ」
「え? 私も一緒でいいんですか?」
「いいのいいの。お邪魔虫になるといけないからね」
「なるほど〜……では、よろしくお願いします」
私はタクララちゃんを抱えてその場を去った。
ミノンさん、アタックチャンスだからね〜。
さて、じゃあ和尚とブランクはどこかな、と。
より細かく気配を探る。
――ん?
この気配って……
「こっち行こ」
「姉様も気づいたっすね。和尚とブランクともう一人って言ってたから気になってたんすけど」
私たちが向かった先には
「ほわちゃぁああ!」
やっぱり。
「リーレイ!」
「あ、ミサ! キャミィ! やっほー、お久ー!」
「リレイっち! 何でここにいるんすか!?」
ホントだよ。
そして食らえっ。
「痛っ! え? いきなり何なの!?」
それはこっちのセリフです〜。
また「ほわちゃ」とか言っちゃって〜。
ついつい抗議のしっぺをしてしまったじゃないの。
「え〜、学校行ったのにちっとも治ってないよー? まあいいや。二人とも元気してた? このぉ」
リーレイは私と後輩の肩を抱え、ウリウリと頬擦りしてくる。
「あ、あの」
「ところでこの子は?」
タクララちゃんだよ。
学院のハウスキーパーさん。
タクララちゃん、このハーピーお姉さんは私と後輩の後輩、リーレイです。
「そうなんだ。はじめまして。もしかして家事を厳しく仕込まれてる系?」
そんなことないよ!
「あ、どうもはじめまして。厳しくだなんてとんでもない。ミサお姉様は優しくしてくださってます……って、そうじゃなくて。あの、魔物はいいんでしょうか」
本当だ、魔物倒せてないじゃん。
リーレイったら詰めが甘いんだから。
「ありゃま。タフだねえ。それじゃトドメといきますか」
リーレイが巨木の魔物に向かい立ち、魔力を練る。
この気属性の魔力量は相変わらず膨大だ。
羨ましい。
ただ私たちと離れてから洗練されているかと言うと、首を傾げざるを得ないぞ。
寺院を出てからの修行が不足してるんじゃないかね?
おっと、咎める間もなくリーレイは大きくジャンプし、ドカン、と派手な衝突音を立て魔物に前蹴り。
その勢いで若干上に行きながら右回し蹴り、更に反動でまた上に行き左回し蹴り。
彼女はどんどん上へと蹴り進んで行き、最後に前転踵落としで魔物を沈めた。
おお、該当する技名は思い浮かばなかったが、格ゲーらしい技じゃないか。
欲を言えば巨悪に立ち向かう中華娘の技を出してもらいたかったが、これはこれで素晴らしいものを見せてもらったよ。
タクララちゃんはやはり驚いているが、さっきトンダの技を見た時とは少し違ったように見える。
「すごい……同じハーピーなのに」
ボーッとリーレイを見つめているようだが、目に僅かながら輝きがある。
リーレイも修行の日々を送ってたからね。
魅了できたのかな。
「ふうん。よし、リレイっち、クララっちを任せるっす。ちゃんと無傷で守るんすよ」
ん?
後輩は何かを察したようでリーレイにタクララちゃんを預けると言い出した。
「ちょっとちょっと! 私がここに来た理由とか聞かないの!?」
「ブラっちにでも聞くからいいっす!」
「え〜!!」
私も気になるんだけどなぁ。
それにタクララちゃんをリーレイに預けて良かったの?
初対面なのに。
「いいんすよ。さ、ブランクと和尚の所に行きましょ」
まあいいか。
リーレイも妹たちのお世話を長年やってきたんだし、タクララちゃんぐらいの歳の子の相手は慣れたものだろう。
さて、次はどっちと会えるかな。
「ウウォウ! ウウォウ!」
お、この野性味溢れる雄叫びは。
「ブラっちっす!」
しかし寂しがりやで静かなブランクがあんな雄叫びを上げるとは。
余程強い魔物でも出たのかな?
よし、ここは必殺技の出番だ!
電気でビリビリさせてやりなさい!
「ウウォウ!」
再びの雄叫び。
カッ
目の眩む閃光。
ドオォン
空気を震わす轟音と共に天から降り注いだのは、枝分かれした光の筋。
「これってまさか、ブラっちが……?」
あまりに強烈な雷光だ。
現場に着くと学生たち――特に先頭の青鬼、ティティ先生がガクブルしていた。
「ウウォウウゥ!!」
ブランクが腕を突き上げ吠えている。
私から見ても只事では無さそうな威圧感を覚えるんですけど。
カッ
またさっきの光。
そして降り注ぐ雷。
やっぱりブランクのせいだったか。
こりゃもう自家発電ってレベルじゃないでしょ……




